極める古文1 基礎・必修編

ゴロゴネットオンラインフリー学参「極める古文1」基礎・必修編

第 講 第 講  『源氏物語玉の小櫛』 目次 1 2 3 第 講  『徒然草』

第 講 8

第 講 7

第 講 6

第 講 5

第 講 4

 『大鏡』

 『源氏物語』

 『平家物語』

 『更級日記』

 『古本説話集』

 『宇治拾遺物語』

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はじめに 最強にして最速、板野の音声講義付問題集で実力アップ! この『極める古文シリーズ』は、基本問題からスタートして一段ずつ階段を上るようにステップアップ していく構成になっています。 それぞれのステップで学習テーマとしたものを身に付けていけば、最終的 には上位~難関の国公立大・私立大に合格する古文の実力が付く仕組みになっています。 さらに、 板野の 音声講義が無料で付いている ので、ペース配分や細かいフォローもバッチリです。「最強にして最速」、こ れが極める古文シリーズの最大の武器です。

+ + ﹃基礎・必修編﹄では、「文法+単語+解釈」で古文基礎力を万全に! この「基礎・必修編」では、各講に「学習テーマ」を設けてあります。そのテーマにしたがって勉強し、 各講で出てくる「ポイント」をマスターして行くことで、苦手な古文を徐々に理解していけるように工夫 してあります。 古文の勉強法は外国語と同じで、「文法 単語 解釈」が読解の基礎になります。 特にこの

巻では、「文法」の習得に力を注ぎました。文法は無味乾燥勉強しづらいものですが、ゴロや音声講義 などを使って、是非食わず嫌いを解消してください。この一冊を繰り返し復習すれば、古文がきっとわか るようになり、勉強が楽しなってくるはずです。 では、︵音声講義も聴いて︶一緒に古文読解の基礎を マスターしよう!

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「極める古文」 シリーズ構成 古文を極め、 「合格」の頂を目指そう!

志望大学の目安表

国公立大

私立大

難 関 大 上 位 大 中 堅 大

旧帝大レベル (センター 85~90%レベル) 早大・上智大

G ※ MARCH レベル

上位国公立大レベル (センター 80%レベル) 地方国公立大レベル (センター 70%レベル)

関関同立 レベル

日東駒専 レベル 産近甲龍 レベル ※G=学習院大 M=明大 A=青学大 R=立教大 C=中央大 H=法政大

古文を極める 君だけに贈る最終奥義! プレミアム映像特典で 「合格」まで駆け抜ける!

入試古文の頂点を極める! 4 上位~難関大突破編 難関大レベルまでを完全網羅。こ こまで極めればすべての大学が合 格圏内に。

難関大

入試本番に役立つ 古文読解力を身に付ける!

3 中堅~上位大突破編 中堅~上位大のより実践的な問題 を通して、合格に必要な古文力を 養成しよう。

上位大

受験者 50 万人の中で 勝ち抜く力をつける。 2 センター試験編 センター古文攻略のための解法パ ターンをマスターする。センター は古文で差をつけよう!

センター

古文読解基礎力完成!

1 基礎・必修編 古文読解上のポイントや入試に出 る文法問題を網羅。厳選8問で、 基礎読解力を固めよう!

単語と文法の 学習をしたら スタートだ!

基礎力完成

スタート

まずはゴロゴで、 古文の基礎知識を マスターしよう! 単語 / 文法 / 読解

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「本書の利用法」 1 本書は古文の基礎力養成を目的で作られています。そこで、問題を解く際は制限 時間をあまり気にせず、まず自力で解いてみましょう。 2 問題を自力で解き終えたら、解答・解説を読みつつ自己採点しますが、その際得 点を気にするのではなく、自分に不足している知識や読解法などをチェックしま しょう。 3 最も大切なことは「復習」です。古文は、 「繰り返し学習することで、確実にマスター する」ことが大切で。特に「ポイント」でまとめられている内容は、完璧に自分 の血肉と化すよに心掛けてください。

4 この問題集を一通り解き終えたあと、もう一度問題やポイントの見直しをすると ともに、「古文と口語訳の対照」のページを復習してください。上段が古文、下段 が口語訳になっているので、下段を見ないようにしつつ自力で上段の古文を口語 訳してみましょう。そうすることで読解力が飛躍的に向上します。 ※ 古文単語は『古文単語ゴロゴ』、古文文法は『古文文法ゴロゴ』、この二冊に大学入試古文の単語と文法 に関してすべてが網羅的に掲載されているので、本問題集と併用して使えば威力倍増です。

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板野の音声講義を聴いて、一緒に古文を制覇しよう!  『極める古文』シリーズの最大の特徴としては、各巻に「板野の音声講義」が付いていることです。古 文を自学自習するのは容易なことではありません。「やるぞっ!」とスタートしても、最初の数題をやっ たところで挫折してしまう人も多いのす。 そこで、この『極める古文』シリーズでは、 「板野の音声講義」を付けることで、受験生 のモチベーションをアップして、最後まで走り切れるよう、板野がサポートし続 けます。 そのためには、 「ゴロゴ.net」にアクセスして、巻末に付いているハイブリッドコードを登録して ください。 詳しくは、巻末の袋とじの中に掲載ていますが、せっかくのコンテンツも使わなければ宝の 持ち腐れ。是非是非、板野の渾身の講義を聴いてください。 古文の勉強のみならず、他の勉強についてのアドバイスなども織り込みながら、 楽しく、充実した音声講義をお届けします! 板野の音声講義も聴いて一緒に勉強しよう!

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1 目次 第 講 『宇治拾遺物語』 ――――――――――――――――――――――――――――――――― ◦ 動詞「―ウる」「―ウれ」の形 ◦ 動詞の活用の種類の判別 ◦ 上一段活用動詞は「ひいきにみゐる」 ◦ 活用の種類を覚えておくべき動詞 ◦ 連用形接続の助 ◦ 終止形接続の助動詞 ◦ 未然形接続の助動詞 ◦ 「む(ん)」の六つの意味 ◦ 敬語の主体と対象の解法 ◦ 「已然形+ば」 順接確定条件 ◦ 係り結び法則 第 講 『徒然草 』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ◦ 「ぬ」の識別 ◦ 格助詞「と」 ◦ 「、」「て」「つつ」の前は連用形 ◦ 「こそ~已然形、」の形 ◦ 「む(ん)」の婉曲用法 ◦ 「やは・かは」は反語 第 講 『源氏物語玉の小櫛』 ― ――――――――――――――――――――――――――――――― ◦ ク活用の形容詞の活用 ◦ 完了の助動詞「り」の接続 ◦ 「エ段+られるれ」法則 ◦ 助動詞「る・らる」の自発パターン ◦ 「べし」の七つの意味 ◦ 口語訳問題の解法パターン 第 講 『古本説話集』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― ◦ 平安貴族の呼び方 ◦ 「む(ん)」の仮定の用法 ◦ 「む(ん)」の六つの意味 ◦ 「に」の識別 = 2 3 4

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5 ◦ 「已然形+ば」の因果関係 ◦ 主語判定の基本パターン ◦ 全否定の副詞 ◦ 連用形+「なむ」=連用形+「な」+「む」 第 講 『更級日記』 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― ◦ 助動詞「る・らる」の四つの意味 ◦ 「なり」の識別 ◦ 「なるなり→なんなり→ななり」 ◦ 「ぬ」の識別 第6講  『平家物語』 ――――――――――――――――――― ◦ 出家パターン ◦ 陰暦月 ◦ 「なむ(ん)」の識別 第7講 『源氏物語』 ――――――― ◦ 助動詞「す・さす・しむ」の意味 ◦ 「給ふ」と「り」の組み合わせ ◦ 二種類の「給ふ」 第8講  『大鏡』 ― ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ◦ 「て・つつ・して・で」を挟と同一主語 ◦ 二種類の「給ふ」 ◦ 「たてまつる」について ◦ 和歌の修辞法 ◦ 口語訳問題の解法パターン

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学習テーマ 動詞の活用の種類と活用形 3 敬意の主体と対象(誰の、誰に対する敬意か)の解法 4  「係り結び」の法則 さあ、いよいよ第1講、スタートだ。今まで古文が苦手だった人も、あるいは得意だと思ってい る人も、全員気持ちも新たにこの問題集にのぞんでほしい。 今回のテーマのうち、1の「動詞活用の種類と活用形」2の「助動詞の接続」に関しては古 文読解の基礎になるものだ。特に、 助動詞の接続はこの講義のポイントを参照して完全にマスター しよう 。テーマ3 4の項目は、実際の入試でよく問われるものだけに、気合を入れて覚えよう。 ・ 第 講 『宇治拾遺物語』 2 助動詞の接続

1 とにかく目の前にあることを日々確実にこなせた人が、最後に成功をつかんでいる。現時点での 成績など無関係。しかし、今日から勉強を始めた人は、どんなことがあってもこの問題集を最後ま で完走し、繰り返してマスターしてほしい。古文の勉強なんてつまらないかもれないが、助動詞 1

問題編 02 ページ

第1講  『宇治拾遺物語』

28 P OINT や古文単語を覚えたりすることが、自分の未来を切り拓くことを信じて暗記するのだ。 かつて、偏 差値 からスタートして、わずか半年で まで アップさせた生徒がいた。この記録に挑戦だ 問一 aの「戒むる」は入試文法の動詞の中で最もよく出る形だ。ポイントは、次のように「 ウる」 という形をとっているところ。 「 ウる」「 ウれ」の形は上二段か下二段活用の連体形・已然形 上二段活用動詞 上二段活用動詞 ウ る =連体形 ウ れ =已然形 下二段活用動詞 下二段活用動詞 ここでは a「戒むる」=「 ウる」となっているので、まずは「連体形」が決定 する。活用の種類と 活用形を問われた場合は、まず活用形を判断するのが先だ。次に下に「ず(ない)」を付けて活用させ、 活用の種類決定しよう。 ここでデータ的な話をすると、大学入試で問われる動詞の形は圧倒的に「 ウる」 「 ウれ」の形が多い。 78 50 !! ― ― ― ― ― ― ― ―

― P OINT たとえば、現代語では「戒 め る」だが、古語では「戒 む 」の連体形が「戒 む る」だ。現代語と古語とで ウる」という形になっている単語を見たら、すぐさま下二段か 上二段の連体形だな、とい感覚を持てるようにしてほしい。 動詞の活用の種類の判別は、下にず」を付け考える。(※活用の種類を覚え ておくべき動詞除く) ア /ず =四段活用動詞 →「ず」を付けると ア 段になる動詞 イ /ず =上二段活用動詞→「ず」を付けると イ 段になる動詞 エ /ず =下二段活用動詞→「ず」を付けると エ 段になる動詞 ∥ 赤字に当たるところが活用の行 ※「ア・イ・エ」にあたるところが活用の行。例えば「咲 か /ず」であれば、 カ 行。「過 ぎ /ず」 であれば ガ 行。「め で /ず」であれば ダ 行。 ※活用の種類を覚えておくべき動詞については、P ページ参照。  「戒め( エ)ず」=「 エず」となるので、下二段活用だとわかる。また、同時に「め」の行が活 用の行にあたるので、マ行とわかる。正解はマ行下二段動詞連体形。a= ・4。 ― ― ― 12 ― ― 10 は、似ているようでいて違う活用の種類、活用形であるところがなかなか厄介だ。 ポイントにもあるように、古語で「

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第1講  『宇治拾遺物語』

― ―――――――――――――――――― P OINT bの「居」は字を見たとたん、上一段活用とわかってほしい 。上一段活用は覚えておくべき動詞の活 用の種類のひとつだ。 上一段活用動詞は「ひいきにみゐる」 ➡ 活用の行 ひ 干る ハ行 い 射 い る・ 鋳 い る ヤ 行➡ 気をつけるべし! き 着る カ行 に 似る・煮る ナ行 み 見る マ 行➡ 「ラ行」なんて言うなよ! ゐ 居 ゐ る・ 率 ゐ る・ 率 ひき ゐる・用ゐる ワ 行➡ ここが入試にでる! る 上一段活用は「ひいきにみゐる」! これさえ覚えておけば、bの「居」がワ行上一段動詞であるこ とはわかる。 この中でよく出るのが、「射る・鋳る・居る・率る」の識別だ。 「射る・鋳る」はヤ行、「居る・率る」 はワ行 であることをしっかり覚えておこう。次に、どの漢字が当たるかの文脈判断も大切。 たとえば、 「見れば、ゐて来し女もなし」の「ゐ」を漢字で書け、という問題などがよく出る。その場合、 ― ――――――――――――――― ― ―――――――――――――――――― ― ――――――――――――――― ― ――――――――――――――――――

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P OINT 「見てみると、連れて来た女もいない」と判断して、「率」の字が正解となる。次のポイントでは、上一 段活用動詞同様、「活用の種類を覚えておくべき動詞」の一覧を掲載するので、自分で紙に写し取るな どして、完全にマスターしてしまおう! 活用の種類を覚えておくべき動詞 1 上一段 活用動詞 ※前ページのポイント参照。 2 下一段 活用動詞 =「蹴る」の一語み。 3 カ 行 変 格活用動詞= 「 来(く)」一語 ※ただし「 出 い で 来 く 」のような複合動詞あり。 4 サ 行 変 格活用動詞= 「す」一語 ※ただし「恋す」「具す」のような複合動詞あり。 5 ナ 行 変 格活用動詞= 「死ぬ」「 往 い (去 )ぬ」の二語 。 6 ラ 行 変 格活用動詞= 「あり」「をり」「 侍 はべ り」「いまそかり」の四語 。 ※「いまそかり」は「いまそがり」「いますかり」「いまそかり」「いましかり」なども書かれる。 この一覧の中で、特にカ変「来」はよく出る。というのも、カ変は漢字で活用を書くと、 「来(こ)/来(き) /来(く)/来る/来れ/来(こ)」となり、 「来」という字の可能性として、未然形・連用形・終止形・ 命令形の四つもある のだ(命令形が「こよ」となるのは中世以降)。カ変が問われた時は、何形なのか の判断は慎重に行ってほしい。特に文末の「来」は、終止形か命令形かの見極めを忘れないことだ。「こ ち率て来」=「こっちへ連れてこい」などの場合は、「来」は「こ」と読んで命令形だ。

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第1講  『宇治拾遺物語』

P OINT 最後にb「居」の活用形を決定するのだが、「居る」は、 ゐ/ゐ/ゐる/ゐる/ゐれ/ゐよ と活用するので、形の上からでは未然形なのか連用形なのかの区別がつかない。そうなると、下の助動 詞「たる(たり)」が何形に接続する助動詞なのかを覚えておくしかない。 連用形接続の助動詞 け 「けり」 っ た 「たり」 り つ 「つ」 ぬ 「ぬ」 っ た 「たし」 し 危 「き」 険 「けむ(けん)」 けり(過去) たり(完了) つ(完了) 連用 形 + ぬ(完了) たし(希望) き(過去) けむ・けん(過去推量 ということで、助動詞「たり」は連用形接続であることから、bの「居」は連用形とわかる。活用形は 下に付く助動詞が決定するのだ。b=2・2

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― P OINT cの「打つ」は「覚えておくべき動詞」ではないので、下に「ず」を付けてみて判断する。すると「打 た( ア)ず」となるので、タ行四段動詞。ところが「打つ」を活用させてみると、 打/打ち/打つ/打つ/打て/打て となって、「つ」は終止形か連体形かわからない。下の助動詞「べき(「べし」の連体形)」の接続を 覚えておくしかない。 終止形接続の助動詞(ただしラ変型活用のものには連体形に接続する) ラム ちゃん メリ ちゃん なり は べし っと まじ らし い らむ(現在推量) めり(推定) 終止 形 + なり(伝聞・推定) = べし(推量)  ウ段 まじ(打消 らし(推定) ※終止形接続の助動詞、というのはラ変型活用のものには連体形(「 る」の形)に付くので、「ウ 段に付く」と覚えておいたほうが入試では実践的だ。 助動詞「べし」が終止形接続であることから、「打つ」は終止形とわかる。正解はc= ・ 。 ― 11 3

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第1講  『宇治拾遺物語』

・ ・ P OINT この「終止形接続の助動詞」で注意すべき点が一つある。終止形はたいてい「ウ段」だが、唯一終止 形がイ段である ラ変動詞には連体形に付く という点だ。たとえば、「あり」+「らむ」の場合、「ありら む」ではなく、 「あるらむ」 となる。同様に、 ラ変型の活用をする形容詞(カリ活用)や形容動詞も、 「美 しかるらむ」「静かなるらむ」 と、連体形が接続することを同時にここで覚えておこう。 dは難しい。まず、「打(ちゃう)ぜん」の「ん(=む)」が何形に接続するかだが、助動詞の「ん」 は今まで見てきた「連用形接続」でも「終止形接続」でもない。未然形接続だ 未然形接続の助動詞 る 、 らる 、 す 、 さす 、 しむ ら ズ ラ。 ジ ム の ムズ い マシ ーンで まほ死 んだ。 る・らる(受身・尊敬 可能 自発) す・さす・しむ(使役・尊敬) ず(打消) 未然 形 + じ(打消推量 む(ん)(推量) むず(んず まし(推定) まほし(希望)

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10 助動詞「ん(=む)」が未然形接続であることから、「打ぜ」は下二段活用かサ行変格活用だと判断す る。実は「ぜ」と濁っていてもサ変の場合がある。そしてサ行下二段動詞なのか、サ変動詞なのかは判 断が非常に難しい。実際に活用を比べてみると、以下のように連用形が違うだけなのがわかる。 サ行下二段活用とサ行変格活用の違い。 サ行下二段活用 せ/ せ /す/する/すれ/せよ サ行変格活用 せ/ し /す る/すれ/せよ では、サ行下二段動詞とサ変動詞の見分けはどうすればいいのかというと、下に「ず」を付けても同 じなの、数が限られているサ変動詞を覚えていくしかない。 おもなサ行変格活用動詞。 啓す 奏す 恋す 愛す おはす かなしうす 具す 心す ご覧ず 念ず 打ず など 今回の「打ぜ」は覚えているからこそ解ける問題で、正解サ変動詞の未然形。d=7・1 解答 a= ・4 b=2・2 c= ・3 d=7・1 11

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第1講  『宇治拾遺物語』

「むず」「んず」となっている場合は、

問二 助動詞「む」は「ん」「むず」「んず」とも言い、文中で頻出する大切なものだ。  「む」ではなく、二重傍線部のXのように「ん」となっていたり、 下手すると打消語にとってしまう可能性があるので、 くれぐれも「ん」や「むず」「んず」を打消で解 釈しないように! 「む」=「ん」「むず」「んず」。 ※「ん」は「む」の音便形。「むず」は「むとす」が縮まったもの。「んず」はさらにその音便形。 (例) 雨降ら む =雨降ら ん =雨降ら むず =雨降ら んず =○雨が降るだろう。 ×雨が降らない

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35 4  「む」+体言・助詞=婉曲「~ような ※P 参照 5  「むに・むには・むは・むも・むこそ」=仮定「~としたら、それは~」 ※P 参照 ここでの「む」は下に「と」を伴っているのがポイント。 「と」の前の「む(ん)」は意志! と覚えておけば、 %以上の確率で正解できる。 ここでも「『召しにやりて戒めん』と」となっており、「と」の前の「ん」の形なので、「戒めよう」 と意志の形訳出してみて文脈的に問題のないこを確認しておこう。 解答 2 64 90 P OINT 「む(ん)」の六つの意味 す い て き  か か っ て  え 推量 意志 一人称+む=意志「~よう」 二人称+む=適当「~がよい」 適当 三人称+む=推量「~だろう」 勧誘 仮定 婉曲 ーん 1 2 ・勧誘「~てはいかが」 ※「こそ~め」の場合は「勧誘」が多い。 3

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第1講  『宇治拾遺物語』

問三 格助詞「の」は、選択肢にもあるように五つの用法がある。中でも 入試でポイントになるのは「主 格」と「同格」だ 。古文では「の」が問われたらまず主格と判断し、「が」と訳す習慣をつけてほしい。 現代語で主格を表す「が」にあたるのは、古文では「の」であることが多いので、古文読解の基本とし ては、「の」ときたら「が」、と置き換えて読むことが大切だ。 格助詞「の」の用法。 格助詞「の」が問われたら、まず主格と判断し、「が」と訳す。ただし、「が」訳せない場合は他 の用法を検討する。特に「同格」の用法に注意する。  「の」には、現代語と同じ「連体修飾格(=の)」や「体言の代用(=のもの・のこと)」、さらには和 歌にしか用いられないが「連用修飾格(=のように)」もある。 ただ、まずは主格と同格のマスターに絞っ て勉強してほし。同格については、講を改めて詳しく説明する。 さ、二重傍線部Yは「人の」の「の」なので、明らかに主語に付いた主格の「の」だと判定できる。 もちろん口語訳をしていって、主語に対応する述語部分を探、対応関係を確認することを忘れないよ うにしよう。 問四 さっそく敬意の主体と対象の解法のポイントをまとめてみよう。 解答 2

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P OINT 敬意の主体と対象の解法 敬意の主体は「地の文」なのか「会話文」なのかで二つに分かれる。次に「尊敬語」「謙譲語」「丁 寧語」で敬意の対象が変わってくる。 1.地の文(「会話文」でないところを「地の文」と呼ぶ)において  「誰の」はすべて「筆者のなので、「誰に対する敬意」がポイント。 a 尊敬語 筆者の 主語に対する 敬意。 b 謙譲語 筆者の 目的語に対する 敬意。 c 丁寧語 筆者の 読み手に対する 敬意。 2.会話文において  「誰の」はすべて「会話主の」なので、「誰に対する敬意」がポイント。 a 尊敬語 会話主の 主語に対する 敬意。 b 謙譲語 会話主の 目的語に対する 敬意。 c 丁寧語 会話主の 聞き手に対する 敬意。 違う視点でみると、 「地の文」でも「会話文」でも敬語によって次のようにまとめることができる。 a 尊敬語はそのの主にあたる人が敬意の対象。 b 謙譲語はその語目的語(~へ・~に・~を)にあたる人が敬意の対象。 c 丁寧語は読み手、あるいは聞き手にあたる人が敬意の対象。

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第1講  『宇治拾遺物語』

問五  『古文単語ゴロゴ』が使えるものは、どんどん使って解答しよう! 文脈判断を忘れないようにして、適切な意味を選ぶように気をつけよう。 イの「しどけなかりければ」は「しどけなし」ゴロで一発だ。 しどけなし=1くつろぐ 2だらしない 解答 A イ=3 B イ=5 シ ッ! どけ梨 、 くつろぐ な、 だらしない ぞ

さて、ここでの解法の手順としては、 1.まず傍線部が「地の文」なのか「会話文」なのかで「誰の」を決定する。 2.次に敬語が「尊敬語」なのか「謙譲語」なのか「丁寧語」なのかで、「誰に対する」を決定する。 Aは地の文にあるので、イ「誰の」は3「筆者の」、「給ふ」は尊敬語なので、ロ「誰に対する」は主 語である1「大隅守に対する」と決まる。 Bは会話文にあるので、イ「誰の」は会話主である5「呼びに行った使い者」、「参り」は謙譲語な ので、ロ「誰に対する」は目的語である1「大隅守に対する」と決まる。 ただし、多義語に関しては

Cは会話文にあるので、イ「誰の」は会話主である4「盗人の」。実はここの「盗人」とは「郡司」 のことなのだが、直前の会話で「おのれはいみじき盗人な」と呼び捨てられているので、2の「郡司」 とするのではなくて、4の「盗人」とするのが正解。ひっかからないようにしたい。次にCの「候へ」 は丁寧語な 、ロ「誰に対す」は聞き手である1「大隅守に対する」と決まる。 ロ=1 ロ=1 ロ=1

C イ=4

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― ロの「ことつくべきことなし」は文脈判断の問題だ。直前の「何事につけてか、これを許さんと思ふに」 がヒント。何事かにかこつけてこれ(=郡司)を許そうと思っが、『ことつくべきことなし』」とい う流れをつかむと、「許す口実がない」という意味だと判断できる。そこで正解は2の「口実にするよ うなことがない」。  「ことつく」は「言付く」と漢字をあて、「口実にする。かこつける」の意味。「ことづく」とも言う。 「ず」を付けると「ことつけず なり、「 エず」の形から下二段活用動詞とわかる。  「ことには、1「事」、2「言」、3「異」の字が当たる。特に「言葉」 「うわさ」 「和歌」の意味をもつ「言」 と、「異なる「別の・他の」という意味をもつ「異」と漢字を当てものが大切!

P OINT ここでは、4「だらしなかったので」が正解。ついでに「已然形+ば」を確認しておこう。ここでは 次の1の「原因・理由」=「~たので」になっている。 「已然形+ば」=順接確定条件 1 ~たので。(原因・理由) 2 ~たところ。~すると。(単純接続) 3 ~といつも。(恒常条件)

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第1講  『宇治拾遺物語』

こと うけ= 言 承け=承諾すること。 ハの「いかにしてこれを許さん」は、「いかにして」の意味が最大のポイントだ。「いかにして」の意 味は、1「どのようにして」、2「何とかして」の二つ。選択肢では、3・4・5がこれに該当している。 この二つの意味の識別ポイントは、下の助動詞「ん」にある。ここでの「ん」は、問二でも見たよう 「と」の前で意志になっており、この場合、「いかにして」は「何とかして」と訳す。

「言」 こと あげ= 言 挙げ=言葉に出してはっきり言うこと。 2質問する。 3訪問する。 こと だま= 言 霊=古代、言葉に宿っていると信じられていた霊力。 こと のは= 言 の葉=1言葉。 2和歌。 「異」 こと なり= 異 なり=1他とは違っている。 2格別だ。 こと ごころ= 異 心=1浮気心。 2余計な考え。 こと ざま・とやう= 異 様=普通と違った様子。 こと わざ= 異 業=別の行い。 ※「ことごと」と読むものは「事事(=あの事この事)」「事毎(=事あるごとに)」「異事(=別のこ と)」異異(=別々に。まちまちに)」がある。 こと とふ= 言 とふ=1ものを言う。

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= = いかにして~意志の助動詞「ん(む)」=何とかして~しよう。 問六 傍線部甲でのポイントは「てんや」の部分。品詞分解すると、 の未然形、「ん」 推量の助動詞「ん(む)」の終止形、「や」 疑問の終助詞、となる。 こ場合、 助動詞の「ん(む)」は可能推量の意味になり、 「~することができるだろう」と訳す 「歌は詠みてんや」全体では、「歌を詠むことはできるだろうか」となる。 テーマ問題としても扱った「む(ん)」の「推量」の用法の中には、こうした「可能推量」の場合がある。 多くは「てむ」「なむ」のように、「つ」「ぬ」の未然形が付いた形で出てくるので、上位大学を目指す 人は要チェックだ。

そこで選択肢を見ると、3だけが「何とかして」となっており、これが正解。傍線部中にある指示語 「これ」が指しているのは年老いた郡司である点も必ず押さえておこう。 「て」=強意(完了)の助動詞「つ」

ので、 問七 イの掛詞は、和歌の修辞法としては最頻出のもの。掛詞とは同音を利用して一語に二つの意味を もたせるもので、たとえば「ふる」に「降る」と経る」、「ながめ」に「眺め」と「長雨」を掛けるこ とを言う。「平仮名」部分が掛詞になっいる場合が多いので、 和歌で掛詞が問われた場合は、まず「平 解答 歌を詠むことはできるだろうか。解答 イ=4 ロ=2 ハ=3

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第1講  『宇治拾遺物語』

P OINT

仮名」の部分をチェック しよう。 ここでは、「しもと」に、文中にある「笞(しもと)」と「霜と」が掛かっている。「笞(しもと)」は 注にあるように 「鞭(むち)」の意味。直後に「打つ」とあるところがヒント。「霜と」は「笞(しもと)」 を見て恐怖で身が凍える様子を比喩したものになっている。 ロは「係り結び」の問題。係助詞「ぞ」の結びは連体形になる。助動詞「けり」の連体形は「ける」 なので、正解は3「ける。

︸ ︷ 係り結びの法則 「係り結び」は古文文法問題中で最重要かつ最頻出。必ずチェックしよう! 係助詞 意味 文末 ぞ ・ な む 強意 1疑問 連体形 や ・ か 2反語 文末が連体形や已然形になるところを見落とすな! こ そ 強意 已然形 解答 イ「しもと」に「笞」と「霜と」が掛かっている。 ロ=3

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出 典 解 説 問八 文脈を追ってみよう。大隅守が口実を付けて郡司を許すために、「お前は歌が詠めるだろうか」 と尋ねたところ、郡司がなんとか和歌を詠んだ。その和歌が意外にもすばらしく、大隅守は「いみじう あはれがりて、感じて許しけり」=「たいそうしみじみと心動かされ、感動して許したのであった」と いう流れだ。 傍線部ニで「情(なさけ)」といっているのは、 「和歌を詠むこと」なので、1「風流の心」に当たる。 当時、うまい和歌が詠めるということは風流心があることであり、いい歌によって人の心は動かされる ものであったこと知っておこう。大隅守の郡司に対す温情の言葉ではない。 第1講の出典『 宇 うじしゅうい 治拾遺 物語』は、鎌倉時代に成立した説話文学。鎌倉時代は説話文学が 花盛りの時代で、他にも『 宝 ほうぶつしゅう 物集 』、『 発 ほっしんしゅう 心集 』( 鴨 かものちょうめい 長明 作)、『 古 ここんちょもんじゅう 今著聞集 』( 橘 たちばなのなりすえ 成季 作)、 『 十 じっきんしょう 訓抄 』、『 撰 せんじゅうしょう 集抄 』、『 沙 しゃせきしゅう 石集 』( 無 むじゅう 住 作)などが成立した。このうち、『発心集』は『 方 ほうじょうき 丈記 』 の作者である鴨長明の書いた仏教説話として頻出。また、橘成季の書いた『古今著聞集』は、 量の上では説話最大の『今昔物語集』 (平安時代に成立)に次いで多く、 もの説話が収録されている。

700 また十教訓のもとに約 話の説話を掲載している『十訓抄』も入試では頻出だ。ちなみに説話最 大の作品である『今昔物語集』は平安時代に成立したものなので注意しよう。 今回出典の『宇治拾遺 』は、短編物語的な形をとっており、文体も平易なため、入試では 出題されやすい。文体は口語表現的で読みやすく、話題も「こぶとりじいさん」、「舌切り雀」など の有名な民話が入っている。 解答 1 280

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 『宇治拾遺物語』解答欄

第1講  『宇治拾遺物語』

10 問五 イ ロ ハ 各3 問六 歌を詠むことはできるだろうか。 5 問七 イ 「しもと」に「笞」と「霜と」が掛かっている。 ロ イ=4 ロ=3 問八 4 第1講 4 問一 a b c d 各完答2 2 2 11 3 7 1 2 2 3 問四 A イ ロ B イ ロ C イ ロ 各完答3 1 5 1 4 1 4 2 3 3 1 活用の種類 活用形 活用の種類 活用形 活用の種類 活用形 活用の種類 活用形 問二 4 問三 4

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28 今は昔、大隅守なる人、国の政をしたため おこなひ給ふあひだ、郡司のしどけなかりけ れば、「召しにやりて戒めん」と言ひて、さ きざきのやうに、しどけなきことありけるに は、罪に任せて、重く軽く戒むる 今はもう昔の話だが、 大隅守である人が 国の政治をなさって いるとき、 郡司が だ らしなかったので、「呼びに人をやって罰 しよう」言って、以前のようにだらしないことがあったとき には、罪の程度に応じて、重くあるいは軽く罰することがあっ たが、(なかなか改まらず、)一度でなくたびたびだらしないこ とがあったので、今度ばかりは厳重に罰しようということで、 呼びつけるのであった。 「ここに呼んで連れて参りまし」と(呼 びに行った) 使いの者が 申し上げたので、以前そうしたように 第1講  『宇治拾遺物語』口語訳 れば、一度にあらずたびたびしどけきこ とあ 重く戒めんとて、召すなりけり。 「こ こに召して率て参りたり」と、人の申しけれ ば、さきざきするやうにし伏せて、尻頭にの

何事につけてか、これを許さんと思ふに、こ とつくべきことなし。過ちどもを片端より問

ぼり居たる人、笞を設けて、打つべき人設け て、さきに人二引き張りて出で来たるを見 れば、頭は、黒髪もまじらずいと白く、年 老いたり。 見るに打ぜんこといとほしく覚えければ、

うつぶせにして、尻や頭のほうに乗りかっている人や、むち を準備して打つことになっている人はその準備をして、前の二 人が引っ張っ出てきたのを見たところ、 その男は 頭に黒髪も 混じらず、すっかり白髪で年老いていた。 それを見るとむち打つことが気の毒に感じられたので、何か

にかこつけてこれを許そうと思ったが、口実にするようなこと がない。しでかした過ちをかたっぱしから問いつめたところ、 ただもう年老いていることを弁解のよりどころにして答えてい

・・・ ふに、ただ老いを高家にていらへをる。いか にしてこれを許さんと思ひて、 「おのれはいみじき盗人かな。歌は詠みてん や」 と言へば、 「はかばかしからず候へども、詠み候ひなん」 と申しければ、 「さらば仕れ」 と言はれて、程もなくわななき声にてうち 出だす。 年を経て頭の雪はつれどもしもと見る にぞ身は冷えにける と言ひければ、いみじうあはれがりて感じ て許しけり。人はいかにも情はあるべし。 る。何とかして この老人を 許そうと思って、 「おまえはとんでもない奴だな。和歌を詠めるか」 と言ったところ、 「うまくはありませんが、詠んでみましょう」 と申したので、 「それならば詠んでみよ」 と言われて、まもなく震えた声で口に出す。 年を経て =年をとって頭には真っ白の雪が積もってい ますが、霜だと見ると身がこごえる気がするように、むち(= しもと)を見るときはぞっとする思いがしま。 と言ったので、たいそうしみじみと心が動かされ、感動して許 したのであった。人はぜひとも風流の心を持っているのがよい のである。

※   線は口語訳のポイントとなる箇所に引かれてい ます。自力で口語訳する時に 線の箇所を特に注 意して下さい。

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1 問一 aの「ん」は前講で勉強した係り結びの結びになっている。ここでは係助詞「や」の結びになっ ているので連体形。助動詞「ん」は終止と連体形が同形なで気をつけよう。 『徒然草』 30 28 第 2 講 問題編 08 ページ 口語訳・その他ポイントを書き加えて机の前などに貼る。 一日に一個の助動詞を完璧にしていけ ば、一カ月足らずで助動詞を完全にマスターすることができ 。助動詞を制覇することは古文を制 覇することの最大の鍵だ。是非早めに完全マスターを図ろう。

学習テーマ 助動詞の活用形のマスター 2  「こそ~已然形、」=逆接 3  「む(ん)」の婉曲の用法 4 単語力の増強と解釈問題への対応 テーマ1の「助動詞活用」だが、助動詞は全部で 個しかないので、とにかく早めに助動詞の 意味と活用形を全部覚えよう。古文学習の初期段階では、とにかく「助動詞命!」だ。 オススメのやり方としては、B4の紙にマジックでデカデカ助動詞を書き、それに活用・意味・

第2講  『徒然草』

P OINT

― bの「ぬ」は完了と打消の二つの可能性があるが、ここでは「ぬ」が形容詞「物騒がし」の未然形「物 騒がしから」に付いている。また下の「やう」という体言につながっているところから「ぬ」が「連体 形」とわかるので、打消の助動詞「ず」連体形とわかる。  「ぬの識別は接続や活用形で判断するが、打消と完了とでは意味がまったく違ってしまうので、気 をつけよう。 「ぬ」の識別 未然形+ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形=「~ない」と打消の意がある。 ぬ 連用形+ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形=「~た」と完了の意がある。 ただし、 「ぬ」が強意の用法の場合は、特に訳出しない。強意の用法とは下に助動詞を伴って「ぬ べし」「ぬらむ」などとなる場合。 cの推定「める」はaと同じで係助詞「ぞ」の結びになっているので連体形。一応活用を確認してお こう。終止形が り」で終わっているものは、基本的にラ変型活用になる。 推量の助動詞「む(ん)」の活用。 (ま)/〇/む(ん)/む(ん)/め/〇

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P OINT 推定「めり」の活用。 ○/めり/ /める/めれ/○ dの「ん」は前講で扱った意志の助動詞「ん(む)」だ。ここでは「ん」が「と」の前にあり、上に 係助詞がないので終止形。 「と」の前の「む(ん)」は意志! というのも思い出しておこう。 格助詞「と」

or  「と」は引用や会話を受けるので「。」と同じ。つまり「と」の前は文末なので、 係り結びがない場合 、 「と」の前は終止形か命令形になる。特に「と」の前が「命令形」の場合に注意。 終止 形 と + など 命令 形 。 なお、設問の傍線部の直前が「と・など」で受けられている場合は、 「と・など」で受けられている「会 話」や「引用」部分が傍線部の解答の根拠になるというパターンがあるので覚えておこう。 傍線部の直 前の「と・など」には注意して、その受けている内容傍線と絡めて解答しよう eの「ず」は「、」の前なので連用形になる。「ず」という形は連用形と終止形があることを確認して おこう。 解答 a=4 b=4 c=4 d=3 e=2 !!

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第2講  『徒然草』

P OINT

打消の助動詞「ず」の活用。 ざら ざり 〇 ざる ざれ ざれ 「、」「て」「つつ」の前は連用形 連用 形 + てつつ ※ただし、「こそ~已然形、」の形の場合は、「、」の前でも係助詞「こそ」の結びで已然形になる。 「、」の前は連用形になるが普通だ。しかし、空欄の直後の「あれ」が已然形になっ

5 文の途中で係り結びが成立し、「、」などを挟んで下に続いていく場合、「~けれども・のに」と逆接 で訳すところがポイントで、入試でも頻出する。ここでは「こそあれ、」となり、「~のに」「~ではあ るけれど」訳す。 解答 ず ず ず ぬ ね 〇 ているので、係り結びが生じていると考えられる。、 結びが已然形となるのは、係助詞「こそ」が上に ある場合 なので、正解は5「こそ」。 、 問二 前述したように、

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P OINT 「こそ~已然形、」の形 (下へ続いていく)」のは、逆接の意になる。訳は「~は~けれども(のに・が)」。 (下へ続いていく)=~は~けれども(のに・が)

こそ 泥、 以前刑 事だった けれども →「こそ~已然形、 ※この形が和歌に使われた場合は「、」がないので見落とさないように注意。 (例) 春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やは隠るる(古今和歌集) =春の夜の暗闇はわけが分からないものだ。梅の花の色は見えないけれども、香りまでも隠れ るだろうか、いや隠れはしない。 問三 まず、Aの中の「さりがたく」は形容詞「さりがたし」の連用形で、 「捨てておけ 」という味。 サリ ー が足し 算してる、 捨てておけない さりがたし=捨てておけない

こそ~已然形、 ここでは選択肢の1・2・3の「避けにくく(い)」が該当する。「家を離れにくい」という意味ではな い。次に「心にかからん事」の解釈だが、ここで「ん」がポイントになる。前講で扱ったように「ん」 は「む」と同じ推量の助動詞であって、打消の意味は絶対にない。 選択肢の1と3は、「ん」を「ない」

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第2講  『徒然草』

P OINT と打消で訳しているので× 。そこで正解は2。ここでの「ん」は「事」に付き連体形になっており、 「婉 曲」=「~ような」になっている。 「む(ん)」の婉曲の用法 む(ん)+体言(※助詞)=婉曲「~ような」 ∥ 連体形 ※「む(ん)」の下が「助詞」で、特に「むに・むには・むは・むも・むこそ」の場合は、「む(ん)」 は「仮定」の用法となり、「~としたら、それは~」と訳す。 Bは「さながら」のゴロ確認からしよう。 さな ぎの ガ メ ラ 全部 もとのまま さながら=1全部 2もとのまま ここで「さながら」を「全部」「そっくりそのまま」と訳している選択肢は、1と2。「ちょうど」や「ま るで」と訳しているものは3と4だが、その場合は「まるで~ようだ」と比喩的な内容になっていなけ ればならないが、ここでは文脈的に比喩の箇所ではないので×。また、 「さながら」は下に打消語を伴っ て全否定になる場合もあるが、ここでは下に打消語がないので5も×。 次に助動詞「べし」の意味だ、べし」にはたくさんの意味があるので文脈判断になる。ここでは、

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舌 た たん で 食べる 準備をする えさらず=避けられない 正解は1の「どうしても避けられない用事」。 「え避らず」 と漢字を当てて覚えておこう。 Gは「このあらまし」の「この」が指す内容と、「あらまし」の意味が取れればOKだ。 え ー 皿ず ぅえったい 避けられない

36 出家のためにはすべてを捨て去るべきだ、という文脈なので、 「べし」は「当然」の意 となり、「~すべ きだ」と訳してある2が正解。 Cもゴロの確認から入ろう。 2準備をする 2儲ける この「したためまうけて」は、「たため」も「まうけ」も結局「準備をする」という意味なので、 何を準備したのかがポイントになる。直前に「人の嘲りやあらん、行末難なく」とあるのがヒント。出 家後、他人から悪口を言われて非難されないように、前もって「したためまうけ」るという文脈なので、 1の「遺書の用意」はありえず、2や3や5では意味をなさない。正解は4。身辺の雑事を「前もって 始末しておいて」というのが正解。 Dはゴロで一発のおいしいパターン したたむ=1食べる 舞う 靴  準備し て大 儲け まうく=1準備する

第2講  『徒然草』

 「とて」は「と言て」の縮まったものだと覚え くとわかりやすく、「といって」と訳す。選択肢 では3と4が該当する。5の「というので」も許容範囲内だ。一方、1と2のように「と言われても」 という逆接の意はないので×。 次に、打消の助動詞「ず」と反語の「」に注目する。  「捨てざらんや」のところだけを訳してみると、 「捨てないだろうか、いや、捨てるだろう」となる。「ざ ら」は打消の助動詞「ず」の未然形、係助詞「や」はここでは反語だ。こ訳に当てはまっているもの は1・2・3なので、先ほどの「とて」とあわせると正解は3になる。 解答 A=2 B=2 C=4 D=1 G=3 I=3

あらま ー し っかりした 計画 あらまし=計画  「あらまし」は将来の計画の意だが、ゴロ通り「計画」と訳している選択肢は1。しかし、1は「この」 の指し示す内容を「処置しておきたい」と取っているところが×。 指示語の「この」が指しているのは 「思ひ立つ」こと、つまり「出家をすること」 。 選択肢で出家や仏道修行に触れているのは2と3だが、2は「あらまし」を「不安の念をいだいて」 と訳しており×。3は「心づもり」と訳しており、 「将来の計画」の意訳として問題ないのでこれが正解。 Iのポイントはまず格助詞「とて」。

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100 「思ひ立つ」の中身は「出家」。1行目の「大事」や「本意」という語も、 「出 家」との結びつきの強い語だ。文章全体のテーマが「出家」と「無常」であることをつかめば正解する のは易しい。正解は4の「出家遁世をすること」。なお、「出家」に関しては、第六講P のポイントで まとめているので、そちらも参考にしてほしい。 ほい ほい 出家 が 本来の目的 ほい(本意)=1出家 2本来の目的 問五 ここでは傍線部だけでなく、前後に視野を広げて判断する。「おほやう人を見るに、少し心ある きはは、皆このあらましにてぞ一期は過ぐめる」とう一文全体から考えよう。  「このあらましにてぞ」というのは問三のGで見たように、「いずれ仏道に入ろうという心づもりで」 と訳す。そこからわかるように、ここでの「心あるきは」というのは、仏道に関係がある人。候補とし ては2か4だが、4を入れて全体を訳してみると、「だいたい、世間の人を見ると、『仏道修行の困難が わかる人』は、みんないずれ仏道に入ろうという心づもりで一生を過ごしてしまうようである」となっ て文意がおかしくなる。「仏道修行の困難がわかる人」であれば、そんなにうかうかと一生は過ごさな いはずだ。 一方、2の「出家の志をいだいているほどの人であれば、その多くが出家の心づもりだけで終わっ てしまい、実際には出家しないままで一生を終わってしまう可能性が高いというのはありえる話なので、 2が正解。 解答 解答 4 2 問四 問三で見たように、

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第2講  『徒然草』

P OINT

99 問六 傍線部H「その時」というのは、1行前の「無常の来る」時のことだ。この「無常」の意味は、 その直前の「命は人を待つもの かは 」=「命というものは人の都合を待ってくれる だろうか、いや待た ない 」というところを読めばわかるように「死ぬ時」のことを意味している。正解は3「死が到来した 時」となる。ここで反語に付いてまとめておこう。 「やは」「かは」は反語! 第1講で勉強した「係り結びの法則」の中で、「や・か」は疑問と反語の意味を持っていたが、 「やは・かは」の形の時は %反語 と判断してよい。結びはもちろん連体形になるが、それ以上に 大切なのは口語訳。 反語の模範的な訳は「~だろうか、いや~ではない」だが入試の選択肢では必ずしもそう訳 されているとは限らい。反語の口語訳のパターン次の三つがあるので覚えておこう。 「待つものかは」 1「待つだろうか、いや待たない」 …もっとも模範的な口語訳。自分で訳すときはこの形で。 2「待つなんてことがあろうか」 …言外に反語の意味があるのを省略した形。 3「待つはずがない」 …結論である否定的な内容だけを訳した形。 解答 3

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― 問七  「同じくは」を品詞分解すると、形容詞「同じ」の連用形+係助詞「は」になる。この場合、「仮 定条件」を表すのがポイントだ。同様のものに「ずは」=「もし~ないならば」があるので、あわせて まとめておこう。時代によって次のように変化していく。 形容詞の連用形「 (し)く」に係助詞「は」が付くと仮定条件を表す。 (例) 同じくは(中古)→同じくんば(中世)→同じくば(近世)=「もし、同じならば」 打消の助動詞「ず」に係助詞「は」が付いたもの。 (例) ずは(中古)→ずんば(中世)→ずば(近世)=「もし~ないならば」 通常仮定条件を表すのは「未然形+ば」だが、係助詞「は」に形容詞や「ず」の連用形が付いて仮定 条件を表す形も入試では頻出する。 今回は文脈的には、 「どうせ延期するのだったら」という意なので、訳としては「どうせ同じことなら」 くらいで訳すとうまくいく。「同じだったら」でもOK。 問八 『方丈記』と『徒然草』に共通しているキーワードは「無常」 。中世のキーワードが問われて「無 常」が答えになることがあるので覚えておこう。 ここでの「無常」は文脈的にみて「死」のこと。問六がわかれば解ける問題なので、いわゆる連動問 題だ。漢字一字というのも大きなヒントなっている 解答 (どうせ)同じことなら 解答 死

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第2講  『徒然草』

240  『徒然草』には兼好法師の人生観を反映した内容のものが多く、『枕草子』が清少納言の宮中日記 的な「をかし」という感性あふれる随筆であったのに対して、『徒然草』は出家した兼好法師の人 生哲学・思想的な内容になっている。鴨長明の随筆『方丈記』や軍記物語『平家物語』と同様、底 流には「無常観」が流れている。『徒然草』は約 段からなるが、全体的に読みやすく面白いうえに、 現代でも通じる人生訓もあり、基礎的な古文力をつける意味でも通読することをオススメする。

出 典 解 説 入試古文の出典で『源氏物語』と一位の座を争っているのが、この『徒然草』だ。作者はも ちろん 兼 けんこう 好 法師(吉田兼好・ 卜 うらべかねよし 部兼好 )。鎌倉と室町の中間期である騒乱の南北朝時代(十四 世紀前半)に成立した作品。三大随筆といわれるものの中で、最後に書かれた作品だ。 三大随筆とは、 『枕草子』 ( 清 せいしょうなごん 少納言 作)、 『 方 ほうじょうき 丈記 』 ( 鴨 かものちょうめい 長明 作)、そしてこの『徒然草』を指す。『徒 然草』のほうが『方丈記』よりも古いと間違って記憶している生徒が多いが、 鴨長明作の『方丈記』 は鎌倉初期に書かれたもので、『徒然草』よりも百年以上前に成立している ことに注意。

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第2講 『徒然草』解答欄

問八 死 5

5 2 問二 4 問七 (どうせ)同じことなら 5 問三 A B C D G I 各2 問四 4 問五 5 問六 5 2 4 1 3 3 4 2 3

4 問一 a b c d e 各2 4 4 3 2

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大事を思ひ立たん人は、さりがたく、心に かからん事の本意を遂げずして、さながら捨 つべきなり。「しばしこのこと果て」、「同 じくはかの事沙汰しおきて」、 「しかしかの事、 第2講  『徒然草』口語訳

たん、ほどあらじ。物騒がしからぬやうに」 など思はんには、えさらぬ事のみいとど重な りて、事の尽くる限りもなく、思ひ立つ日も あるべからず。おほやう人を見るに、少し心 あるきはは、皆このあらましにてぞ一期は過 ぐめる。 近き火などに逃ぐる人は、「しば」と れない用事ばかりがますます重なって、いつにったら用事が なくなるという際限もなく、結局、大事を決行する日もあるは

人の嘲りやあらん、行末難なくしたためまう けて」、「年ごろもあればこそあれ、その事待

いふ。身を助けんとすれば、恥をも顧みず、 財をも捨てて逃れ去るぞかし。命は人を待つ ものかは。無常の来る事は、水火の攻むるよ

仏道修行という人生の大事を決行しようとするような人は、 避けにくく気にかかるようなことがあっても、そのことを思い 通りに成しとげないで、そっくりそのまま捨去らなければな らないのである。「もうしばらく待ってこの用事が済んでから」 とか、 「(どうせ)同じだったら、あのことを処置しておいてから」 とか、「これこれのことは、(このままでは)人から悪口を言わ れるかもしれない、将来、他人から非難されないように前もっ て始末しておいてから」とか「長年こうして来 た のに 、その ことが完了するのを待とう、もう間もなくだろう。あわてた様 子でないように」などと思う ならば 、それはどうしても避けら

ずがい。だいたい世間の人を見ると少し出家の志を抱いて いるほどの人は、ずれ仏道に入ろうという心積もりで、一生 を過ごしてしまうようである。 近所の火事から逃げる人は、「しばらく待ってくれ」などと

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44 りも速やかに、逃れがたきものを、その時、 老いたる親、いときなき子、君の恩、人の情 け、捨てがたしとて捨てざらんや。 言うだろうか、いや、言わないだろう。わが身を助けようとす るので、恥をもまわず財産をも捨てて逃げ去るのだよ。命 というものは人の都合を待ってくれる だろうか、いや、待ちは

しない 。死が訪れることは水や火の攻めてくるのよりも速く、 逃れることのできないもであるのに、その死期が来た時に なって、老いている親、幼い子供、主君の恩、人の情け、これ らを捨てにくいからといって、捨てないことがあろうか。

第2講  『徒然草』

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『源氏物語玉の小櫛』 46 第 3 講

学習テーマ 用言の活用の確認と助動詞の意味の確認 2 助動詞「り」「る・らる」「べし」のマスター 3 口語訳の解法パターン ここまでの2講で、すでにかなり多くのことを学習してきた。そこでこの第3講では、文法的に もう少し突っ込んだ問題を扱う。 特にテーマ2の 助動詞の「り」「る・らる」「べし」 は、入試で頻出なうえに、読解上も非常に重 1

要なものだ。ポイントで整理されている内容をしっかりマスターしてほしい古文文法をマスター する意味では、『古文文法ゴロゴ』なども併用して学習すれば「鬼に金棒」だ。また、テーマの 問題では 口語訳の解法パターン を示したので、苦手意識をもたず古文の口語訳にチャレンジしよう。 問一 空欄補充の問題はわかりやすいものから解く、というのが鉄則パターン 。ここでは空欄ロがわか りやすいので、そこから選択肢を絞っていこう。 空欄ロに至る流れとしては、『源氏物語』(=「この物語」)が非常に優れた作品であり、それより古 問題編 14 ページ

第3講  『源氏物語玉の小櫛』

2 れてみて、文脈的に合っているという確認もしてほしいイは「『まず』こ以前の物語は~」と話を 始めている箇所。ハは「『ただ』この物語だけがひたすら素晴らしくて~」という流れ。解答の最後に 付いている古文と口語訳との対照のところの古文を「音読」して、口語訳が頭の中でスラスラと出来る ようになるまで繰り返すのだ。 問二 波線部①の「めでたき」は形容詞の連体形。下に「もの」という体言(=名詞)があるところも 解答

い物語で『源氏物語』ほどの作品がない、と書かれている。そして空欄ロの後は、『源氏物語』以後の 作品もその影響を受けているだけで、結局は『源氏物語』より劣っている、ということが書かれている。 つまり、空欄ロを挟んで『源氏物語』以前と以後の文学作品について書かれているのだが、そのどち らの時代でも『源氏物語』ほどの作品が存在しない、ということが書かれいるのがポイントだ。現代 文的に考えるとわかりやすい。 「これより先なる古物語」も 「また」=空欄ロ 「これより後のものども」も『源氏物語』にかなわな という関係になっている。空欄ロに入る語は、並列を表す「また」であることがわかる。空欄ロが「また」 となっている選択肢は2しかないので、これが正解。残りのイとハにそれぞれ「まづ」「ただ」を入

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P OINT 確認しておこう。 ク活用の形容詞の活用 から かり 〇 かる 〇 かれ ※左側の活用を「補助活用(カリ活用)」と呼び下に助動詞が付く。「から」の下に未然形接続の 助動詞が付き、「かり」の下に連用形接続の助動詞が付く。そして、連体形「かる」の下に、い わゆる終止形接続の助動詞が付くので注意。 「めでたかるらむ」等。 ※断定の助動詞「なり」は本活用の連体形に付く。一方、伝聞・推定の助動詞「なり」は補助活用(カ リ活用)の連体形に付く。 めでた き なり→断定「なり」。 めでた かる なり→伝聞・推定「なり」。 ※ク活用かシク活用かの識別は、下に「なる」を付けて判断する。 めでた く なる→ク活用 うつく しく なる→シク活用 波線部②の「見え」の活用形は下の助動詞「ず」を見れば「未然形」とわかる。「ず」は未然形接続だ。 「見え」の終止形は「見ゆ」であり、ヤ行下二段動詞なので、以下のように活用する。 見え/見え/見ゆ/見ゆる/見ゆれ/見えよ  「見え」という形は、未然形と連用形の二つの可能性があるので、下の助動詞「ず」が何形に接続す く く し き けれ 〇

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第3講  『源氏物語玉の小櫛』

or P OINT るかを覚えておかないと正解できない。助動詞の接続は大切だ。 問三 波線部④の「し」は品詞がわかりにくい。上が「と」であり、 てサ変では文法的意味という問いに対する答えがい。となると、残りは助詞だ。 この「し」は副助詞 で、強意の意味をもつ ので、正解は④=4。 波線部⑤の「る」はちょっと難しい。ポイントは完了の助動詞「り」の接続だ。 完了の助動詞「り」の接続は、「リ」カちゃんさみしい サ変の未然 形 + り =完了の助動詞「り」 ※「リ」カちゃん サ さ み し い 未四 已 四段の已然 形 これをまとめると、次のような「エ段+らりるれ」の法則が生まれる。 解答 ①=4 ②=1 ③=3

波線部③の「たり」は、完了の助動詞「たり」の終止形。「たり」は連用形と終止形が「たり」と同形だが、 ここは「と」の前で終止形になっている。前講のポイントで勉強したように、「と」の前は係り結びな どの特殊な条件がない限り終止形か命令形で、ここでは命令形はないので終止形。 「と」に付く助動詞はない。かいっ

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― 完了の助動詞「り」は、サ変動詞の未然形か、四段動詞の已然形に接続する(四段動詞の命令形とい う説もある)。まとめると「エ段+ら・り・る・れ」という非常に重要な法則になるので、絶対にここ でマスターしてほしい。 ここでは「書く」というカ行四段動詞の已然形(あるいは命令形)「書け」に完了の助動詞「り」の 連体形が接続して、 「書け( エ)る」となっている。現代語の感覚とは違うので、何度も口に出して言っ て覚えよう! エ段に付く「ら・り・る・れ」は完了の助動詞「り」だ 。正解は⑤=7の完了。 波線部⑥の「ごとく」は5の比況と言われる助 。「~ような」と比喩のように訳すものだ。出題 頻度は低いが、助動詞は完璧にしてほしい。正解は、⑥=5。 波線部⑦の「るる」は助動詞の中で最もよく出題される「る」の連体形。「る・らる」は、1「受身」、 2「尊敬」、3「可能」、4「自発」の四つの意味をもつ。この「るる」がその四つの意味のどれになっ P OINT 「エ段+らりるれ」の法則 サ変の未然形 ら =「り」の未然形 り =「り」の連用形・終止形 + ∥ 四段の已然形 れ =「り」の已然形・命令 エ 段 ∥ る =「り」の連体形

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第3講  『源氏物語玉の小櫛』

P OINT P OINT ているかの判定は、上に「おしはから」という心情語があるのが大きなヒントになっている。 助動詞「る」「らる」の自発パターン 助動詞「る」「らる」の上に心情語がある場合は、「る」「らる」は「自発」の意味になる。 心情 語 + る ・ ら る =自発=(自然と)~する ∥ 思ふ・しのぶ・おしはかる・泣く など ということで、正解は、⑦=1の自発。 波線部⑧の「べき」は助動詞の中で最多の意味をもつ「べし」の連体形。 「べし」の七つの意味 す 推量 い 意志 か 可能 ゴロゴロ と 当然 め 命令 て 適当 よ 予定 ちなみに、「ゴロゴロという擬音は特に意味ないだが、なんとなくスイカが転がっていく音と して感じてください(笑)。 さて、この「べし」が七つの意味のうちどれなのかというと、下に打消「ず」があるのが、大きなヒ

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100 ントになっている。 「べし」は下に打消「ず」を伴うと「可能」の意味になることが多い。 これは %絶対というわけではないのだが、入試で問われた場合には、「べし」の下に打消「ず」が あれば、「べし」はまず可能から疑え! というパターンで考えよう。 可能で訳してみると、「かけても及ぶべきさまにあらず」=「決して及ぶことができるような書きぶ りではない」となり、問題ない。正解は、⑧=6の可能。 「たくさん」と訳すので、正解は2「た 解答 ④=4 ⑤=7 ⑥=5 ⑦=1 ⑧=6

踊ろ踊ろ 尻ふりダンスは 気味が悪く て おおげさだ おどろおどろし=1気味が悪い

問四 A「ここらの」 はゴロで一発だ。 ここら にも そこら にも たくさん ここら・そこら=たくさん 副詞「こら」あるいは「そこらは数量の多いさまを表し、

くさんの」。 Bも「おどろおどろし」 のゴロで一発だ。

2おおげさだ

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第3講  『源氏物語玉の小櫛』

 「男女、その人人の、けはひ心ばへにしたがひて一やうならず」=「(源氏に登場する)男女、その一 人一人が、態度や気立てに応じて描き方が一通りではない」と訳してみるとうまくいく。正解は1の「気 立て」。  Fの「よく分かれて」 は、そのあとに、「おぼろげの筆の、かけも及ぶべきさまにあらず」=「並 たいていの筆の力では、決して及ぶこができるような書きぶりではない」とあるところから、ここは

『源氏物語』の作者である紫式部の文章力のことを言っていると判断できるので、1と2は×。 次に3の「よく分かるように書いて」と4「うまく書き分けて」だが、「男女、その人人の、けはひ 心ばへにしたがひて」とあところから、登場人物の一人一人を見事に「書き分けて」いるととれるの で、正解は4。ちなみに「分かる」には「わかる」とい意味はない。「わかる。理解する」という意

このゴロからわかるように、「おどろおどろし」という形容詞は、「おおげさなさま」を表しており、 ここでは1の「おおげさな様子の事」が正解。 Eの「心ばへ」 は多義語だ。文脈判断も必要になるが、まずは単語の意味の確認をしよう。 所 のロ バ 変、 気立て がよくて 心遣い に 趣 がある こころばへ=1気立て 2心遣い 3趣

選択肢では1が「気立て」なので、ズバリこれで一発といきたいが、確認をしておこう。前後の文脈 をつかむと、ここでは『源氏物語』登場人物が一人一人見事に描き分けられていることを述べている 箇所で、「心ばへ」の直前が「けはひ」となっているところから、この 「心ばへ」は登場人物の性格や 気立てのことだ と判断できる。

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P OINT

問六 口語訳問題の解法パターンをまとめておこう。 2 助動詞や助など、文法的に確実にわかるものをチェックする。 3 最後に文脈判断しながら人物関係や単語を含めたトータルな解釈をする。 これを見て意外に思う人がいるかもしれないが、多くの人が先にやる「単語の意味を解釈する」のは 最後にまわす。なぜかといえば、 単語の解釈は文脈によるところが大きく、意訳されたりする ので一筋 縄でいかないことが多いらだ。 解答 現 解答 A=2 B=1 E=1 F=4 口語訳題の解法パターン まず品詞分解する。 1

味を持つ古語は「わく」。 問五 古典常識問題。「うつつ」は「現実」という意味で、漢字では「現」と書く。「夢か現(うつつ) か幻か」「夢うつつ」などと使う。「うつつ」は「夢」の対義語なので注意だ。 打つ 打 つ イチロー 現実 だ うつつ(現)=1現実 2正気

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第3講  『源氏物語玉の小櫛』

100 一方、 助動詞と助詞は訳が決まっていて基本的に意訳できない。 もちろん、いくつもの意味をもつ助 動詞の場合は、どの意味で用いられているかの判断が必要だが、これも文法のパターンをマスターして しまえば %訳は決定する。そして、助動詞や助詞などをあぶりだすためには、まず1の「品詞分解」 が必要なのだ。 すべての基本は品詞分解にある 。 傍線部Cを単語に切ると、「心/を/いれ/たり/と/は/見ゆる/ものから/、こよなく/おとれ /り」となる。ここでのポイントは助詞の「ものから」。 「ものから」は逆接の接続助詞 なので、「~け れども・のに・が」と訳さなければならない。選択肢では1と2が「~から」と順接になっているので×。 助動詞のチェックをすると、 「たり」はすべて「ている」と存続で訳してある。文末の「り」も「ている」 と存続になっている。 「たり」と「り」は完了だけではなく、こうした存続の意味がある のでチェックだ。 動詞「見ゆ」は、3「見える」と4「思う」のちらの意味もあるので、勝負は形容詞「こよなし」 の訳だ。 今 宵の 梨 は 格別だ こよなし=格別だ 形容詞「こよなし」は「格別だ。このうえない」いう意味なので、3 少々」は×4「甚だ しく」が正解だ。 解答 4

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配点 3 問七 ~ 行目に「よにふる人のたたずまひ~すべて書きざまめでたき」とあるように、世の中に生 活する人の様子をうまく描写しているのが「この物語(『源氏物語』)』の最大の特徴なので、正解は3。 問八  「文詞」は「ふみことば」と読み、 「手紙や文章に用いる言葉」のこと。「めでたし」は重要単語だ。 目 ー 出たし っかり すばらしい めでたし=すばらしい  「さらにもいはず」は「言うまでもない。もちろんだ」の意味の慣用句。「言へばさらなり」「言ふも さらなり」の形でも同じ意味。形容動詞「さらなり」が元になってできた慣用句だ。 サラ リーマンに なり たいのは 言うまでもない さらなり=言うまでもない ここでの「文詞」は『源氏物語』の文章の言葉遣いのことので、それを補って全体を訳す。 配点 6点 ①『源氏物語』の(文章の)言葉遣い…2点 ②すばらしい…2点 ③いうまでもない…2点 解答 解答 『源氏物語』の文章の言葉遣いがすばらしいのはいうまでもない。 8 9

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第3講  『源氏物語玉の小櫛』

5 問九 出典解説で詳しく触れるが、『源氏物語玉の小櫛』の著者は、国学者である5の本居宣長。この 『源氏物語玉の小櫛』では、『源氏物語』の本質を「もののあはれ」にあると論じており、この評価が後 に与えた影響は大きい。 問十 傍線部甲の「この物語」が『源氏物語』であることは問一から明らかなので傍線部乙の「これ より先なる古物語」というのは『源氏物語』より成立の古いものを指している。 選択肢の中では1の 『竹取物語』 が最も古く、 『源氏物語』の中で「物語の祖(おや)」と呼ばれてい るように、日本最古の物語 といってもいいものだ。 他の選択肢の作品を見ていくと、『平家物語』は鎌倉時代に した「軍記物語」、『栄花物語』は平 安時代に成立した「歴史物語」で、作者は中宮彰子に仕えた女房の赤染衛門(あかぞめえもん)、『雨月 物語』は江戸時代に上田秋成によって書かれた「読本」。 解答 解答 1

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35 物語』の研究書。国学とは近世に起こった学問の一つで、『古事記』『日本書紀』『万葉集』な どの古典研究にもとづき、儒教・仏教渡来以前の日本の固有文化を明らかにしようとする学問。 その国学の祖と言えるのが契沖で、ついで 荷 かだのあずままろ 田春満 を経て 賀 かものまぶち 茂真淵 へと継承される。そして賀 茂真淵の弟子である本居宣長で国学は大成される。宣長は著作が多く、センター試験でも複数回出 題されている点で特筆される。 主な作品は、国学書として『古事記伝』『源氏物語玉の小櫛』『玉くしげ』『 鈴 すずのやもんどうろく 屋問答録 』、評論 『 紫 し 文 ぶんようりょう 要領 』、 随筆 『 玉 たまかつま 勝間 』 、学問論『うひ山ぶみ』、 家集(和歌集)『 鈴 すずのやしゅう 屋集 』がある。入試で 出題される出典では随筆『玉勝間』が群を抜いている。『古事記伝』は 年を有した大作であり、 また 『源氏物語玉の小櫛』 では、 『源氏物語』の本質を「もののあはれ」に見出す など、後世に大 きな影響を与える仕事をなした。 出 典 解 説  『源氏物語玉の 小 おぐし 櫛 』は江戸時代に国学者の 本 もとおりのりなが 居宣長 (1730~1801)が書いた『源氏

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 『源氏物語玉の小櫛』解答欄

5 1 第3講  『源氏物語玉の小櫛』 問八 『源氏物語』の文章の言葉遣いがすばらしいのはいうまでもない。 6 問九 3 問三 ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ 各2 問五 現 3 問六 4 問一 3 問二 ① ② ③ 各2 問四 A B 各2 問七 4 問十 3 第3講 4 7 5 1 6 4 2 4 1 3 2 1 E 1 F 4 3

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て、あるはめづらかに興ある事をむねし、 おどろおどろしきさまの事多くなどして、い づれもいづれも、もののあはれなるすぢなど は、さしもこまやかに深くはあらず。 また、

よろづに心を入れて書けるものにして、すべ ての文詞のめでたきことはさらにもいはず、

これより後のものどもは、狭衣などは、何事 ももはらこの物語のさまをならひて、心をい れたりと見ゆるものからこよなくおれ り。そのほかもみなことなることなし。 ただ、こ物語ぞこよなくて、ことに深く、

なる古物語どもは、何事もさも深く心を入 れて書けりとしも見えず。ただひとわたりに

60 ここらの物語書どもの中に、この物語は、 ことにすぐれて、めでたきものにして、大か た先にも後にもたぐひなし。まづこれより先 たくさんの物語の書物の中で、この(=源氏)物語は、特に きわだってすばらしいものであって全く先にも後にもこれに 類するほどすばらしい物語はない。まずこれより以前に書かれ 第3講  『源氏物語玉の小櫛』口語訳

べてに心を注いで書いてある物語であって、すべての文章の言 葉遣いがすばらしのは言うまでもなく、この世に暮らす人々 の様子、春夏秋冬折り折りの空の様子、木草の有様まで、すべ

それほど細く深くは書いいない。またこれよりも後に書 かれた物語は、『狭衣物語』などは、何事もひたすらこの物語 の書き方を真似して、丹精して作っているとは思う けれども 、 できばえは甚だしく劣っている。その他の物語についてもべ て異なるところはない。 ただ、この物語が格別にすぐれ て、特に描写が深く、す

て、 ものは珍しく面白い事を中心し、おおげさな様子の 事が多かったりなどして、どの物語も、物の情趣に関する事は、

た古い物語は、何事につてもそれほど深く心を傾けて書いて あるようにも見えない。ただひととおりに書いているのであっ

べて書きざまめでたき中にも、男女、その人 人の、けはひ心ばへにしたがひて一やうなら

ず。よく分かれて、うつつの人にあひ見るご とくおしはからるるなど、おぼろげの筆の、 かけても及ぶべきさまにあらず。

よにふる人のたたずまひ、春夏秋冬をりをり の空のけしき、木草のありさまなどまで、す

てについて書き方がすばらしいその中でも、登場する男女、そ の一人一人が、態度や気立てに応じて描き方が一通りではない。 その違いをうまく書き分けてあって、現実の人に向かい合って いるようにその人柄が 自然と推測される など、並大抵の筆の力 では、決して及ぶことができるような書きぶりではない。

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学習テーマ 1  「む(ん)」の仮定の用法 2  「に」の識別 3 主語判定の基本パターン 4 全否定の副詞 前講に引き続き、入試で頻出する文法事項を扱うとともに、受験生の苦手な 「主語判定」の基本 パターン を示す。文法から読解へとステップアップをはかろう。 文法事項の中ではテーマ2の 「に」の識別 が特に重要で、これが制覇できれば文法事項のかなり の部分をマスターしたことになる。また、テーマ1の「む(ん)」についてはこの問題集で何度も触 れることになるが、出てくるたびに一つ一つの用法を確実にマスターしてほしい。 テーマ3の主語判定は受験生がもっとも苦手とする分野なので、ポイントの内容を理解するよう 心がけてほしい。 問一 古典常識の「読み」の問題。 『古本説話集』 62 第 4 講 問題編 20 ページ

第4講  『古本説話集』

・ P OINT ①「内裏」は「だいり」あるいは「うち」と読む。ここでは二文字という指定があるので「うち」が正解。 ②「上達部」は「かんだちめ」あるいは「かんだちべ」と読む。貴族の中でも最高のランクに位置す る人たちで、摂政・関白・太政大臣・左右大臣レベルの人々で、基本的に三位(さんみ)以上の貴族だ が、参議だけは四位でもこの中に入る。 ③「殿上人」は「てんじょうびと」と読む。 「て」を「で」と濁らせないこと 。「殿上人」は、「上達 部」に次ぐランクの貴族で、四位 五位および六位の蔵人(くろうど)。別名を「雲の上人(うえびと)」 「上人(うえびと)」「上の男(おのこ)」「雲客(うんかく)」という。なお、清涼殿の殿上の間に昇殿で きない六位以下の官人のことを「地下(じげ)」という。 平安貴族の呼び方 ○一の人 =摂政・関白、太政大臣 ○上達 部(かんだち め・ かんだちべ) =一位~三位、四位の参議 ※ 公 卿(くぎょう)、月 卿(げっけい) とも言う。 ○殿上 人(てんじょうびと) =四位、五位、六位の蔵人(くろうど) ※ 雲の上 人(うえびと)、上 人(うえびと)、上の 男(おのこ)、雲 客(うんかく) とも言う。 ○地 下(じげ) =清涼殿の殿上の間に昇殿できない六位以下の官人 解答 ①うち ②かんだちめ(かんだちべ) ③てんじょうびと

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P OINT 問二 波線部X「ん」は「んは」という形の場合は一発で「仮定」の用法だとわかる。 「む(ん)」の仮定の用法 にには む(ん ) + は =仮定「~としたら、それは~」 もこそ

む に む したらそれは  「下手な歌を献上するとしたら、それは」と訳す箇所。選択肢では2が「むこそ」となっており、こ れも「む」が仮定の用法で使われるときの形をとっているので、2が正解。1の「む」は和歌中にある のがポイント。和歌は主語が「私」という一人称なので、「一人称+む」=意志、というパターンが使 える。3は尊敬語「たまふ」に続けて使われているところから、 「しのんで参上なさってはいかがですか」 と二人称に対して「勧誘」していると判断できる。4は「ん」の下に「こと」という体言が付ている ので「婉曲」。これはすでに第2講で扱ったパターンなので、完全にマスターしてほしい。 むに むには にハ ム むは ハ ム むも も むも む むこそ こ っ そ り と 「~としたら、それは~」

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第4講  『古本説話集』

P OINT

35 「む(ん)」の六つの意味 助動詞「む(ん)」は非常に大切。解釈に絡んでくるのでしっかり意味を覚えよう。 す 推量 い 意思 て 適当 き  か 勧誘 か 仮定 っ て  え 婉曲 ーん 1 一人称+む=意志「~よう」 2 二人称+む=適当「~がよい」 ・勧誘「~てはいかが」 ※「こそ~め」の場合は「勧誘」が多い。 3 三人称+む=推量「~だろう」 4  「む」+体言・助詞=婉曲「~ような ※P 参照 5  「むに・むには・むは・むも・むこそ」=仮定「~としたら、それは~」 ※P 参照 正解の選択肢を訳しておくと、 「人はかたちあり様のすぐれたらむこそあらまほしかるべけれ」=「人 は容貌や容姿がすぐれているとしたらそれが理想的だろう」。「あらまほし」は「理想的だ」と訳す形容 詞。文末の「べけれ」は係助詞「こそ」の結びで已然形。 解答 64 2

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P OINT 問三  「に」の識別は同形品詞識別ではトップの出題率を誇るものだ。しっかりポイントをマスターし てほしい。 「に」の識別  「に」の識別の解答には七つの可能性がある。そこで、正解になる確率の高いものから順に説明 していくことにしよう。 1 完了の助動詞「ぬ」の連用形 連用形に付き、下に助動詞の「たり」「けり」「けむ」「き」の活用したものが付く。 完 了「ぬ 」用 た ら・ た り・ た る・ た れ たら/たり/たり/たる/たれ/たれ 連用形 + 「に 」 + け り・ け る・ け れ (けら)〇/けり/ける/けれ/〇 け む( け ん)・ け め 〇/〇/けむけむ/けめ/〇 き ・ し ・ し か (せ) き/し/しか/〇 ※「に」の下に助動詞「たり」「けり」「けむ」「き」活用したものが付いていたら、完了の助 動詞「ぬ」の連用形! これをゴロでまとめてみよう。 に た 景 色 は完了!

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第4講  『古本説話集』

問三  「に」の識別は同形品詞識別ではトップの出題率を誇るものだ。しっかりポイントをマスターし てほしい。 「に」の識別  「に」の識別の解答には七つの可能性がある。そこで、正解になる確率の高いものから順に説明 していくことにしよう。 1 完了の助動詞「ぬ」の連用形 連用形に付き、下に助動詞の「たり」「けり」「けむ」「き」の活用したものが付く。 完 了「ぬ 」用 た ら・ た り・ た る・ た れ たら/たり/たり/たる/たれ/たれ 連用形 + 「に 」 + け り・ け る・ け れ (けら)〇/けり/ける/けれ/〇 け む( け ん)・ け め 〇/〇/けむけむ/けめ/〇 き ・ し ・ し か (せ) き/し/しか/〇 ※「に」の下に助動詞「たり」「けり」「けむ」「き」活用したものが付いていたら、完了の助 動詞「ぬ」の連用形! これをゴロでまとめてみよう。 に た 景 色 は完了! 「なり」と言い切れる。下に係助詞「は・

2 a 体言・連体形に付いて、活用する。終止形に直してみて、 も・ぞ・なむ・や・か・こそ」が付いている場合が多い。

+ も 「なり 」用 ぞ 体言 + に なむ(なん) 下に「 あらむ 」などが省略されている場合が多い。 連体形 やかこそ ※ 「にや」「にか」の下の「あらむ」、「にこそ」の下の「あらめ」は省略される場合が多く、入 試でよく問われる。 b 下に「あり」「おはす・おはします」「候ふ」「侍り」「なし」がある。 ︸ 下に「 あらめ 」などが省略されている場合が多。 断定の助動詞「なり」の連用形 は 断定

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68 断定 あり ※ もともと断定の助動詞「なり」は「にあり」が縮まってできたものなので、連用形の「に」 が文中で使われると、それとペアの「あり」に類する語が下にくる。 「 に 」 おはす アリ 侍 候 だ ! 3 格助詞「に」 体言・連体形に付いて、活用しない。格助詞「に」は基本的に「に」としか訳さない。 ※ 接続助詞「に」との識別大切。訳してみて「~ので」「~のに」「~と・ところ」となれば 接続助詞、「に」を「に」としか訳さないのであれば格助詞、というのが基本。 4 接続助詞「に」 連体形に付いて、活用しない。下 、」がある場合が多い。訳がポイント。 a 順接「~ので」 ※ 「に」の下に「おはす」「あり」「侍り」「候ふ」が あれば断定! 体言 「なり 」用 おはす・おはします + に +(助詞)… 候ふ 連体形 侍り なし

第4講  『古本説話集』

― 副詞や助詞の一部 副詞「つひに」「さらに」「げに」などの「に」。 助詞「だに」「にしかな」などの「に」。 「みそ か に」 「おぼろ げ に」 一語の形容動詞 「きよ ら に」 7

― ナ変動詞の連用形の一部 形としては「死に」「 往 い に」「 去 い に」の三つしかないので、覚えておけば大丈夫。 ― ら 「 に 」の上「 か げ ら 」 形容動詞 ! ︸ ︸ 5 か げ に 6

b 逆接「~のに」 c単純接続 と・~ところ」 ※「~ので」「~のに」「~と・ところ」と訳せたら接続助詞! 形容動詞の連用形の活用語尾

― ― ― 物事の状態・様子・性質を表す。「 かに」「 げに」「 らに」となる場合が多い。 全体で一語の形容動詞

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問四 ア「さりとも」 傍線部アの直前の「はかばかしきどももえ詠み出でぬに」=「たいした歌を詠み出すことができないが」 がわかるかどうかがポイント。他の歌詠みたちがたいした歌を詠めないのに対して 「さりとも」=「そ うはいっても」この四条大納言(=藤原 公 きんとう 任 )は別格だから、すぐれた歌を詠んできただろう、とみん なが期待している場面。正解は1。 古文で「四条大納言(=藤原公任)」と出てきたら、歌の名手であり、博学多才で有名な人物だと判断 せよ! 藤原公任は、漢詩・和歌・管弦(=音楽)の三つの才能に長けていたという 「 三 さんしゅう 舟 の才」 のエピソー 解答 a=1 b=3 c=6 d=5

― 以上を踏まえて問題を見ていこう。 aは「歌よみども」という体言に付いていて、「に」を「に」としか訳さないところから1の格助詞。 bは「にもあらず」と下に係助詞「も」があり、さらに下に「あり」があるので、完璧にパターン通 り、3の断定の助動詞「なり」の連用形とわかる。 cは「まめやかに」と全体的にとらえる。「 かに」というパターン通り、6の形容動詞の活用語尾。 dはひっかけ問題で、副助詞「だ」の一部正解は5の助詞の一部。

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第4講  『古本説話集』

と3の「憎んで」とで迷うが、殿が大納言を「憎む」というほどいびつな二人関係ではなので、1 「きびしく」が正解。「あやにく」は現代語の「あいにく」の語源になった語。今でも「あいにくの雨だ」 などと使うが、その場合は「不都合だ」の意味なので、選択肢2が該当するが、古語では「意地が悪い」 のほうが頻出する。 エ「心にくく思ひければ」は「心にくし」のゴロの確認だ。 所 の 憎し み、なぜか 奥ゆかしい こころにくし=奥ゆかしい  「心にくし」は対象に心ひかれる様子」を表す。こでは3の「期待してたで」が正解。傍線

ドで有名。彼の撰による漢詩と和歌のアンソロジーである『和漢朗詠集』は、平安時代当時もその後に も大きな影響を与えた。特に 白 はくきょい 居易 の『 白 はくしもんじゅう 氏文集 』から撰ばれた漢詩が多く、当時の貴族に白居易が親 しまれる大きな原因を作った。 イ「長き名に候ふべし」 ここでの「長き名」というのは、「はかばかしからぬ歌」=「たいしたことのない歌」を詠んだこと で長く後世に残す不名誉な名前、ということなので、正解は2。 ウ「あやにくに」は、まずゴロの確認から。 亜矢 、 憎 たらしい、 意地悪だ あやにく(なり)=意地悪だ  「あやにくに責めさせ給へば」=「意地悪く責めなさったので」、という文脈。選択肢では1の「きびしく」

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P OINT 部の直後の「さりとも」以下に上達部と殿上人の期待する思いが書かれているのもヒント。 ここは「心にくく思ひければ」と「已然形+ば」になっている箇所なので、必ずその続きを読んで結 果部分をヒントとして使おう。 「已然形+ば」が因果関係を表す場合

Aの主語は大納言が「遅くまゐりければ(=なかなかやってこないので)」、御使をやって遅いぞ、 と催促した人にあたる。歌の発表会の主催者は、女院の父である殿」、つまり藤原道長なので、4「殿」 が主語だと判断できる。この時点では「殿」が文中に出てこないので女院」とした人もいるかもしれ ない、その後を読んでいくと、遅れてやってきた四条大納言に対して「遅いぞ」と言ったのが「殿」 とあるところからも判断する。 BはAで説明したように、遅れてやってきた人、2「四条大納言」が正解。直前の「立ち居待たせ給 解答 ア=1 イ=2 ウ=1 エ=3

 「已然形+ば」が「~ので」と順接確定条件になっている箇所は、その前後の原因と結果が相互 ヒント関係になっている。傍線部が原因か結果に引かれている場合、必ずペアとなる原因か結果 部分を読んで、解答の根拠にしよう。 相互ヒント関係 A原因 已然形+ば 、 ~B結果 問五

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第4講  『古本説話集』

P OINT ふ」の主語は、イライラしながら待っていた「殿」。 Cは殿が「どうした、歌は。遅いぞ」と責めてたのに対して四条大納言が言い訳しているので、正 解は2「四条大納言」。 会話が、「殿→四条大納言→殿→四条大納言」と二人の間で交わされていること をつかむ 。 Dはちょっとわかりにくい箇所だ。主語判定のパターンをおさらいしておこう。 主語判定の基本パターン 接続助詞「て・つつ・して・で」を挟むと、同一主語である場合が多く、接続助詞「を・に・ば・ ど」を挟むと主語が変わる可能性が高い。 A(述語 1) 接続助詞「て・つつ・して・で」 AとBは同一主語 B(述語 2) 接続助詞「を・に・ばど」 BとCは違う主語 B ≠ C ≠ Dと二回 C(述語 3) 主語が変わると、 接続助詞「を・に・ばど」 CとDは違う主語 B=Dの場合が多い。 D(述語 4)

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D ば  「ば」を挟んで主語が変わる ひろげて前に置かせ給ふ………主語はAに戻って 「殿」=傍線部 の主語 に  「に」を挟んで主語が変わる 帥殿よりはじめて……………… 「殿」でも「大納言」でもない ので、「帥殿」という新しい主語が書かれ ている。 以上の流れから、傍線部Dの主語は「殿」と判断できる。 こうした接続助詞を根拠にした 判定は読解の基本になるものなので、まず基本の形をマスターし てほしい。ただし、これには例外もあり、 %正しい公式とはいえないが、ともかくこの主語判定の公 式をまず当てはめて考え、それが当てはまらない場合については個々に考えるという順番で読解してい こう。 解答 A=4 B=2 C=2 D=4 100 殿あやにくに責めさせ給へ……主語は 「殿」 主語は ば  「ば」を挟んで主語が変わる 大納言いみじく思ひわづらひ…主語は 「大納言」 て  「て」を挟んで主語は変わらない ~書き……………………………主語は 「大納言」 て  「て」を挟んで主語は変わらない たてまつり給へ 「大納言」

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第4講  『古本説話集』

P OINT 問六 傍線部甲 「さらにはかばかしくつかまつらず」の「さらに」は下に打消語を伴って全否定を表す 副詞だ。 全否定の副詞 つやつや の 皿に すべ っ て つゆ を おほかた こぼしちまった、 まったく ついて ない や。それでも あへて たえて る私

「まったく~ない」と訳す。ほかにもいくつかそうした全否定の副詞があるのでまとめておこう。

すべて じ

さらに ず

たえて

あへて なし

つゆ ~ まじ おほかた で

つやつや 打消語

=まったく~ない

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「~します。

22 = まったくしっかりとした歌を詠みません となる。これを意訳すると、「まったくいい歌が詠めません」、あるいは「全然しっかりした歌が作れま せん」になる。 傍線部乙 を品詞分解すると「異人/の/歌/なく/て/も/あり/な/む」となる。 ポイントは「異 人」と「連用形++む」の二つ 。  「異人」は「ことひと」と読み、「他の人」の意。P で勉強した「こと」という字に「異」を当てた もので、「異 ≒ 「普通とは違う・別の」というニュアンスでとらえる。 さらに/はかばかしく/つかまつら/ず = = =

 「はかばかしく」は形容詞「はかばかし」の連用形。 墓場 で 貸し 借り、 しっかりしてる はかばかし=しっかりしている  「つかまつる」「す」「作る」「行ふ」などの動詞の代わりに用いられて丁寧の意を表し、 ~いたす」と訳す。ここでは「歌を詠む」ことの代わりに用いられている。 品詞分解を前提として直訳すると、

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第4講  『古本説話集』

P OINT 連用形+「なむ」=連用形+「な」+「む」 →この形の場合、  「連用形+な+む」は「な」が本来の完了の意味を失って強意の意にっているので、下の「む」の 意味の判別がポイント。ここは、「他の人歌はなくてもよいだろう」という文脈なので、「む」は推量 あるいは適当と判断できる直訳としては「他人の歌はなくてもありだろう」となるが、もう少しこ なれた訳として「他の人の歌はなくてもよいだろう」とする。 傍線部丙 を品詞分解すると、「え/詠み/侍ら/ぬ/も/ことわりなれ/ば」となる。ポイントとな るのは「え~ぬ(打消ず」連体形)」と、形容動詞「ことわりなり」の已然形「ことわりなれ」だが、 二つをゴロで確認しよう。

「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形だが、本来の完了の意味を失って「強意」となる。

65 訳出する必要は特にないが、あえて訳をするときは「きっと~・確かに~」と訳す。 →下の「む」はすでに学習したように、六つの意味を持っているので、文脈応じてしかえる。 P を参照のこと。 →「なむ」の識別に関しては第6講で詳しく学ぶ。

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え ー、 ず っと できない の! え~ず=不可能「~することができない」 2当然だ 3訳。理由 この二つで「詠むことができないのも当然なので」となるが、丁寧語の「侍り」を「です」と訳して 「詠むことができませんのも当然なので」として満点になる。

「 琴割 ります、 ドウリ ャー、 トゥ ー、 全 然割れない」「た わけ ー」  ことわり(なり)=1ものの道理 問七 四条大納言の歌を帥殿が読み上げたものが「むらさきの」の歌であり、それを聞いた人々が「ほ めののしり(=ほめたたえ)」、大納言も殿もみんな「いみじ(=すばらい)」と思ったという文脈か ら判断すると、藤の花の歌全体で意味しているものは、直接的にはホスト役である藤原道長への賛美で あり、ひいては 「藤原氏の栄華」 だと判断できる。解答は「三字で」とあるので、「藤原氏」が正解。 和歌の口語訳としては、「紫雲かと見えるほど美しく咲いている藤の花は、どんなにめでたい家の しるしなのであろうか」というもので、藤原氏の栄華をほめ讃える歌になっている。 解答 藤原氏 解答 甲 まったくいい歌が詠めません ※「全然しっかりした歌が作れません」も可 乙 他の人の歌はなくてもよいだろう 丙 詠むことができませんの当然なので

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第4講  『古本説話集』

出 典 解 説 第1講の『宇治拾遺物語』が鎌倉時代の説話集であったのに対して、この『 古 こほんせつわ 本説話 集』は 平安時代の説話集だ。平安時代の説話集と言えば、説話集の中で最大の『今昔物語集』が有名 だが、他にも『日本 霊 りょういき 異記 』『 三 さんぽうえことば 宝絵詞 』、そしてこの『古本説話集』がある。 第1講で扱ったように鎌倉時代の説話集は数多いので、平安時代説話集のほうをしっかり と覚えておいて、それ以外は鎌倉時代の説話集、というふうに覚えるのがうまいやり方だ。

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 [別解]全然しっかりした歌が作れません 問一 ① う ち ② かんだちめ(かんだちべ) ③ てんじょうびと 各2  『古本説話集』解答欄 第4講

問七 藤 原 氏 4

1 甲 まったくいい歌が詠めません 4 乙 他の人の歌はなくてもよいだろう 4 丙 詠むことができませんの当然なので 4 問四 ア イ ウ エ 各2 問二 4 問三 a b c d 各2 問五 A B C D 各2 2 1 3 2 1 3 6 5 4 2 2 4 問六

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今は昔、女院、内裏へはじめて入らせおは しましけるに、御屏風どもをせさせ給ひて、 歌よみどもに詠ませさせ給ひけるに、四月、 第4講  『古本説話集』口語訳 ゐり給へれば、「歌詠ども、はかばかしきど ももえ詠み出でぬに、さとも」と、誰心 にくがりけるに、御前にまゐり給ふや遅きと、 殿の、「いかにぞ、あの歌は。遅し」と仰せ られければ、「さらにはかばかしくつかまつ らず。悪くてたてまつりたらんは、まゐらせ たくいい歌が詠めません。下手な歌を献上すぐらいならば、 献上しなほうよいくらいです。歌人たちのばらし歌の 今となっては昔のこと、 女院彰子が 宮中にはじめて入内され た時に、御屏風をお作りになって、歌人たちに歌を詠ませなさっ た時に、四月に 藤の花が 風流に咲いている絵を描いた屏風の一 面を 四条大納言公任が 当たって、(それに合う歌を)お詠みに なることになったが、その歌の発表の日になって、 人々は それ ぞれ歌を作って参上したが、 公任が なかなか参上しなかったの で、 道長は 使いをやって遅いと何度も催促なさった。権大納言 行成は御屏風を承って、 大納言公任の歌を 書くように 道長が 命 じなさったが、さてその 道長は いよいよ立ったり座ったりして じれながらお待ちになっていると、 大納言公任が 参上なさった ので、「ほかの歌人たちはたいした歌を詠めないが、いくらな んでも 大納言公任は 名歌を詠んできたであろう」と、誰もが期 待していたところ、 公任が道長の 御前に参上するやいなや、 道 長が 「どうした、歌は、遅いぞ」とおっしゃるので、 公任は 「まっ 藤の花おもしろく咲きたりけるらを、四条 大納言あたりて詠み給ひけるに、その日にな りて、人々歌ども持てまゐりたりけるに、大 納言遅くまゐりければ、御使して遅きよし をたびたび仰せられつかはす。権大納言行成、 御屏風たまはりて、書くべきよしなし給ひけ れば、いよいよ立ち居待たせ給ふほに、ま

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82 ぬには劣りたることなり。歌詠むともがらの、 中に、たいしたことのない歌が書かれましたならば、長く後世 までも、不名誉な名を残すことになりましょう」どとたい そう辞退なさったが、 殿は 、「とんでもないことだ。他の人の 歌はなくてもよいだろう。 しかしあなたの 歌がなければ、全く 色紙形を書ことができないことである」などと真剣に責め申 し上げなさると、 公任は 、「本当に困りました。今回はどなた すぐれたらん中に、はかばかしからぬ歌書か れたらむ、長き名に候ふべし」とやうに、い みじく逃れ申し給へど、殿、「あるべきこと にもあらず。異人の歌なくてもありなむ御 歌なくは、大方、色紙形を書まじきことな り」などまめやかに責め申させ給へば、大納 言、「いみじく候ふわざかな。此度は、誰も え詠みえぬたびに侍るめり。中にも、永任を こそ、さりともと、思ひ給へつるに、『岸の やなぎ』といふことを詠みたれば、いとこと やうなることなりかし。これらだにかく詠み そこなへば、公任はえ詠み侍らぬもことわり も上手に歌を詠むことができないようですね。中でも永任なら ばよい歌をと思っておりましたが、『岸のやなぎ』などと詠ん でいては、本当に変ですね。このような人でさえも詠み損なう のですから、 私が 詠むことができませんのも当然ですので、ど うかお許しください」などと、さまざまに逃れさるが、 殿は きびしく責めになるので、 公任は たいそう思い悩んで、懐か ら陸奥紙に書いた歌をさし出しなさると、 道長は 紙を広げて置

陸奥紙に書きてたてまつり給へばひろげて 前に置かせ給ふに、帥殿よりはじめて、そこ

なれば、許したぶべきなり」と、さまざまに 逃れ申し給へど、殿あやにくに責めさせ給へ ば、大納言いみじく思ひわづらひて、懐より、

きなさったところ、帥殿はじめ大勢の上達部や殿上人たちが 期待していたので、「そうはいっても、こ大納言はつまらな い歌をお詠みになるまい」と思っているとさっと 帥殿が 読み 上げなさる、 むらさきの…=紫の雲かと見えるほど美しく咲いている藤

らの上達部・殿上人、心にくく思ひければ、 「さ

やどのしるしなるらん と読み上げ給ふを聞てなむ、ほめののしり ける。大納言も、殿はじめ、みな人いみじ と思ふ気色を見給ひて、「今なむ、胸すこし 落ちゐ侍りぬ」など、申し給ひける。

りとも、この大納言故なくは詠み給はじ」と 思ひつつ、いつしか、帥殿読み上げ給へば、 むらさきの雲とぞみゆる藤の花いかなる

長をはじめ、そこにいるすべての人がすばらしいと感じている 様子をご覧になって、「やっと少しほっとしました」などと申 された。

の花は、どんなにめでたい家のしるしなのであろうか。(= 藤原氏の栄華をほめ讃える歌) と読み上げなさるのを聞いて、 人々は ほめ讃えた。 公任も 、道

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学習テーマ 助動詞「る・らる」  「ぬ」の識別 この講では、助動詞の入試出る順1位「る・らる」を再び扱う。「る・らる」の四つの意味を覚 えた上で、それを文脈に当てはめ、無事に正解できただろうか? また、識別問題としては「に」についで出題される「なり」と、文章読解上大切な「ぬ」を扱う。 問題集も第5講、いよいよ後半を迎えた。 このレベルの問題で 点以上を取れる力を付けてほし いところだ 。助動詞の接続や意味など、基本的なことがマスターできないままでいる人は、もう一 度最初に戻って復習してから、後半戦に臨むようにしよう。 「知ら/る/べき/に/も/あら/ぬ」となる。 『更級日記』 84 30 第 5 講 問題編 26 ページ 1  「なり」の識別 2 3

問一 A の「知らるべきにもあらぬ」を品詞分解すると、 ポイントは助動詞「る」の意味と訳になる。

第5講  『更級日記』

P OINT 助動詞「る・らる」の四つの意味 1 受身「(~に )~される」 ➡「~に」の部分が文中にあれば識別は容易だが、省略されている 場合は文脈判断になる。 2 尊敬「お~になる・~なさる」 ➡主語が偉い人。ただし、主語は省略される場合が多いので 気をつける。 3 可能「~できる」 ➡下に打消語を伴って使われる場合が多いので、結局は打消語とあわせて「~ できない」という不可能を表す。鎌倉時代以降は単独で可能を表す場合がある。 4 自発「(自然と )~する」 ➡「心情語+る・らる」という公式がすべてだが、この心情語とい うのが曲者。一般的には「思ふ(思ひ出づ・思ひ知る・思ひ嘆く)・しのぶ・泣く」に代表され る「心」に関係する語が上にあると「る・らる」は自発になるが、最終的には文脈判断になる。 Aの選択肢をみると、 「私のような宮仕えに慣れない里人は、いるかいないかさえ『知られるはずもない』」

1 「知られるはずでもない」と 「知られてしまうのもいけない」が受身の訳、 「知ることができそうにもない」が可能の訳、 「知っておられるとは考えられない」が尊敬の訳、 「知 らなければならないわけでもない」は「る」に該当する訳がないので×。 ここでの文脈は、 と受身になっている箇所ので、正解は 。 は「べし」の訳が間違っている。ここの「べし」は当然 (あるいは強めの推量)なので、「~はずだ」と訳す。私のような宮仕えに慣れない者は宮中では誰にも 「知られはずがないわ」と謙遜している文脈。 2 3 4 5 1 2

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1 2 B 作者ともう一人の女房が話をしていると、突然現れた源資通がやってきた。それに対して、もう 一人の女房が、「さはれ、ただ折からこそ」と言ったという文脈。傍線部B直前の「さはれ」は、「もう どうにでもなれ」と覚悟を決める語なので、 や のように「気にしない」というものではない。また、 「せっかくの機会だから話をしておこう」という積極的な態度でもない。 残った と では、 「折から」の訳として「場合に応じて」と訳している が正解。「折から」は「ちょ うどそのとき。折が折なので」の意だが、ここでは「その場に応じて」ぐらいの意味。「こそ」の下に 省略されている内容として「適当に振る舞うことにしよう」というのも合っている。 F は「とみに」の意味さえ知っていれば、一発で正解は 「すぐには」とわかる。 トミ ー君 急だ とみ(なり)=急だ G 「なかなかに」は古文単語として頻出語のひとつ。これも単語の意味さえ知っていれば一発で正解 は とわかるが、現代語混同しやすいのでしかりゴロで覚えよう。 なかなか 金 かえって こない なかなか=かえって H 「まばゆかりぬ」は、 「まばゆし」の文脈的な意味のり方がポイント。直前に「はたなく」=「みっ ともない」とあるところから、この「まばゆし」は「まぶしい」という視的な意味ではく、心情語 の「気恥ずかしい」の意で使われていると判断できるので、 ・ ・ は×。 次にぬ」は「ぬべし」となっているところから、完了助動詞「ぬ」終止形であって、打消の助 5 3 4 4 3 1 1 2 5

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第5講  『更級日記』

4 1 3 動詞「ず」の連体形ではないので、打消の訳になっている が×で、正解は 「気恥ずかしい思いになっ てしまう」。  「ぬべし」の「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形。ただし、完了の意味はなくなり、強意になっており、 下の「べし」の意味を強めている。 助動詞「ぬ」が強意になるのは下に推量の助動詞を伴う場合で、「つべし」「ぬらむ」「ぬべし」「なま し」「なむ」などの形がある。 問二 C「おとなしくしづやかなるけはひにて」は「おとなし」の意味がポイント。 おとなし い子は 大人びている おとなし=大人びている 古語の「おとなし」には現代語の「おとなしい」の意なく、「大人し」と漢字をあてるように「大 人びている。思慮分別がある」の意なので、正解は 「分別がありおだやかな様子」。 D「うちつけのけさうびて」には重要古語が二つ入ってい。 打ち付け た顔面 突然 死 うちつけ(なり)=突然である け っ そう 変えて 恋い慕う けさう=恋い慕うこと  「うちつけ」は突然なさまを表しており、これだけでも正解は とわかる。 解答 A= B= F= G= H= 3 4 3 1 4 3

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3 作者は恥ずかしさから奥に引っ込みたかったのだが、傍線部Eの直前に「世の中のあはれなることど もなど、こまやかに言ひ出でて」とあるように、源資通の話の内容が非常にしみじみとした情趣がある ものだったがゆえに、「さすがに」=「そうはいってもやはりと思い返して、引っ込むことをやめた のである。傍線部Eの「節々」というのは源資通の話のふしぶしであり、その話に魅力を感じたから「き びしう引き入りがたい」=「黙って奥に引っ込むわけにはいかない」というこになったので、正解は 。 問四 傍線部①「いま一人」というのは、作者と一緒に話をしていた同僚の女房と考えられる。突然やっ てきた源資通と会話しているのも作者とその同僚の女房なので、 「われも人も」とあるカの「人」が①の「い ま一人」と同じ人物。 傍線部②の「いま一人」は、源資通にとって「まだ知らぬ人」にあたる人物であり、それは今まで宮 解答 解答 C= D= 3

4 3  「けさう」は 「懸想」 と漢字で書き、「けさうす」=「思いをかける」、「けさうぶみ」=「恋文」など の形で使われる。「けさうぶ」は本来「恋しているように振る舞う」ことだが、ここでは世間一般の男 の浮気なさまとして「好色めいた態度」と訳してある。 問三 傍線部Eの頭の「さすがに」という副詞は、「そうはいってもやはり」と訳す。 さすがに 忍者 とはいってもやはり さすがに=そうはいってもやはり

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第5講  『更級日記』

― ― ― P OINT 中に出仕していなかった作者のことを指している。作者に該当するのは、さきほどみたカとペアで出て きたオの「われ」なので、これが正解。 問五 「なり」の識別 1 断定の助動詞「なり」   「~だ・~である」と訳せる。接続は体言か連体形。 2 伝聞・推定の助動詞「なり」 伝聞は「~そうだ・~と聞いている」、推定「~らしい・~ようだ」と訳せる。 接続は終止形だが、ラ変型のものには連体形に付くので注意。 3 動詞「なる」   「成る」と漢字を当てて、意味が通る。 4 ナリ活用の形容動詞の活用語尾   「に」の識別と同じで、全体で物事状態・様子・性質を表す。   「 かなり」「 げなり」「 らなり」となるものが多い。 波線部aの「なれ」は「やう」という体言に接続しており、 「である」と訳せるので断定の助動詞「な 解答 ①=カ ②=オ

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1 P OINT り」の已然形。正解は 。 波線部bの「なり」はちょっと難しい。「ざなり」というのは元の形に戻すと「ざるなり」であり、 この場合の「なり」は伝聞・推定なので正解は 。 ラ変型の活用語の連体形「 る」は、伝聞・推定の助動詞「なり」に付くと撥 音便化し、さらに無表記になる場合が多い。 元の形 撥音便形 無表記形 ラ変 あ る なり あ ん なり あなり 形容詞 うつくしか る なり うつくしか ん なり うつくしかなり 形容動詞 静かな る なり 静かな ん なり 静かななり 助動詞 ざ る なり ざ ん なり ざなり 助動詞 べか る なり べか ん なり べかなり 助動詞 な る なり な ん なり な なり ※「ななり」の「な」は断定の助動詞「なり」連体形撥音便「なん」の「ん」が表記されない形。 すでに学習したが、 「終止形接続の助動詞はラ変型活用語には連体形に付く」という大切な法則があっ た(P 参照)。終止形接続の助動詞は「ウ段」に接続するのが特徴であり、普通、活用語の終止形は 「ウ段」なので問題ないのだが、ラ変型の終止形だけ「イ段」である。そこで、 終止形接続の助動詞は、 2 ― ※ 14

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第5講  『更級日記』

P OINT

5 覚えておこう。まとめると、 撥音便「ん」の下、あるいは撥音便「ん」が無表記になった形の下にある 「なり」は伝聞・推定の助動詞 である、となる。また同じことが推定の助動詞「めり」にも言えるので、 ここでついでに覚えておこう。 波線部cの「なる」は「あれなり」という形容動詞連体形の一部なので、正解は 。 問六 波線部dの「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形。一度学習したが、もう一度確認しておこう。 「ぬ」の識別 未然形+ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形=「~ない」と打消の意がある。 ぬ 連用形+ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形=「~た」と完了の意がある。 解答 a= b= c= 1 2 5 -

ラ変型の活用をする語には終止形ではなく、ウ段である連体形「 る」に付くことになる。 そうした語 は、動詞のラ変以外にも、形容詞や容動詞、また助動詞にもいくつか存在している。 ここでは、そうした文法的な知識を踏まえたうえで、ラ変型の活用語が、伝聞・推定の助動詞「なり」 に接続した場合の形をまとめておいた。表にもあるようにたとえば「あるなり」という形が撥音便化 して「あんなり」となり、さらに無表記となって「 り」となることが多い。こうした形をしっかり

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1 選択肢を見ていくと、 は文末にあり、係り結びもないので「ぬ」は終止形、つまり完了「ぬ」。 は「ぬ」の下に「にや」とあり、 り」連体形接続なので、 この「ぬ」は打消「ず」の連体形 とわかり、 が正解。 「にや」の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形。下に「あらむ(ん)」が省略されることが多い。 は「笑ひ」という連用形に接続しているので「ぬ」は完了。 はひっかけで、「絶え/ぬれ/ば」 と品詞分解でき、「ぬ」は完了の助動詞ぬ」の已然形「ぬれ」の一部。 は と同じく連用形に接続 している「ぬ」なので完了。 問七  「月の(=が)くまなく(=かげりがなく)あかからむ」とあるところから、この二重傍線部「あ か」は月光がすみずみまで明るいことを意味しているので、 「明か」が正解。「くまなし」が大きな ヒントになっている。 熊梨 食べる 抜け目なく 、 かげりがない くまなし=1抜け目がない 2かげりがない 問八 傍線部Xの直前にあるように、源資通がやってきたことに対して、筆者と同僚の女房としては「逃 げ入り」たかったわけだが、その理由は自分たちは身分不相応と考えたことによる。 解答 解答 2 3 4 5 3 4 2 4 「にや」の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形。断定の助動詞「な

2

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第5講  『更級日記』

63 具体的にそうした身分について触れている箇所は、冒頭部分の「上達部・殿上人~」の箇所。上達部・ 殿上人に直接対面する人は、決まったレベルの人であるということが書かれている。制限字数が三十字 以内なので、「上達部・殿上人などに対面する人は定まりたるやうなれば」が正解。 なお、「 上達部 」は「 かんだちめ 」あるいは「かんだちべ」と読み、「摂政・関白・太政大臣・左大臣・ 右大臣・大納言・中納言・参議、および三位以上の人の総称。参議は四位であるがこれに準ぜられた。 別名「 公 くぎょう 卿 」 。  「 殿上人 」は「 てんじょうびと 」と読み、基本的に「四位・五位、および六位の 蔵 くろうど 人 」のこと。 清 せいりょう 涼 殿 でん の殿上の間に昇ることを許された人たちを指す。P で一度学んだが、もう一度確認しておいてほし い。 解答 上達部・殿上人などに対面する人は定まりたるやうなれば(二十六字)

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出 典 解 説  『 更  『更級日記』の内容は、作者が最晩年に至って自らの人生を振り返ってみて、少女時代への懐旧 と悔恨を込めて綴った「回想記」といえる。有名な場面としては、源氏フリークだった少女時代に 待望の『源氏物語』を手に入れて暗記するほど読み漁り、自分も光源氏のような男性に出会いたい

さらしな 級 日記』は平安中期の日記文学で、作者の 菅 すが 原 わらの 孝 たか 標 すえの 女 むすめ の父は学問の神様と呼ばれる菅 原道真の子孫、叔母は『 蜻 かげろう 蛉 日記』の作者 藤 ふじわらみちつなのはは 原道綱母 という文学的にとても恵まれた環境に育っ た。菅原孝標女は他にも『浜松中納言物語』『 夜 よる(よわ) ( 半 )の 寝 ねざめ 覚 』を書いたという説があり、文学 史で問われることがあるので注意。 と夢見るシーン。しかし、実際の生活は彼女が思い描いたような生活ではなく、宮仕えも夢想した 物語世界とはまるで別物だった。物語ばかりに夢を見て勤行やお寺参りをないがしろにしたからこ んな惨めな運命になったにちがいない、と後悔することになるのだった。

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 『更級日記』解答欄

第5講  『更級日記』

第5講

問八

問七 4

問六 5

1 問五 a b c 各3 2 5

問四 ① カ ② オ 各3

3 4 問三 5

3 問二 C D 各3

1 問一 A B F G H 各2 4 3 1 3

は 定 ま り た る や う な れ ば

上 達 部 ・ 殿 上 人 な ど に 対 面 す る 人

2 4

95

96 上達部・殿上人などに対面する人は定まり たるやうなれば、うひうひしき里人は、あり なしをだに知らるべきにもあらぬに、十月つ なので、物慣れない様子の里人であ 私などは 、その存在さえ 知られるはずでもないのに、十月上旬のたいそう暗い夜、不断 経に、声のきれいな僧たちがお経を読む時間だといので、そ ちらに近い戸口の所に、 同僚の女房と 二人だけで出て行き、読 経の声を聞きながら話などをして、戸にもたれかかっていると、 参上して来る 殿上人(=源資通)が いたが、「逃げ込んで、 局 にいる女房たちを 呼んで来るのもみっともないこと。どうとで もなれ、場合に応じて適当に振る舞うことにしよう。こうして ここにいよう」と言う 連れの女房が いるので、 私は そばで(男 性と女房の話を)聞いていると、 男性は 分別がありおだやかな 様子で話をしているのが、好ましい感じであ。 男性が 「もう一人は誰ですか」などと 私のことを 尋ねて、世 第5講『更級日記』口語訳 いたちごろのいと暗き夜、不断経に、声よき 人々読む程なりとて、そなた近き戸口二人 ばかり立ち出でて聞きつつ、物語して寄り臥 してあるに、参りたる人のあるを、「逃げ入 りて、局なる人々呼び上げなどせむも見苦し。 さはれ、ただ折からこそ。かくてただ」と言 ふいま一人のあれば、かたはらにて聞きゐた るに、おとなしくしづやかなるけはひにて、 ものなど言ふ、くちをからざなり。 「いま一人は」など問ひて、世の常のうちつ けのけさうびてなども言ひなさず、世の中の あはれなることども 、こまやかに言ひ出 でて、さすがにきびしう引き入りがたい節々 上達部や殿上人に直接対面する人は決まった身分の人のよう 間の男によくある、だしぬけな好色めいた態度もなく、世の中 の無常なことなどを、しみじみと話し出すので、やはりこちら もきっぱりと、相手を無視て局に身を引くわけにもいかない

とみに立つべくもあらぬほど、星の光だに見 えず暗き、うちしぐれつつ、木の葉にかか る音のをかしきを、「なかなかに艶にをかし き夜かな。月のくまなくあからむも、はし たなくまばゆかりぬべかりけり」など言ふ。 なぁ。月が少しのかげりもなく明るかったら、間が悪くさぞか し気恥ずかしい思いになってしまうでしょうよ」などと言う。

ありて、われも人も答へなどするを、「まだ 知らぬ人のありける」など、めづらしがりて、

男性が 「まだ私の知らない方もいたのですね」などと言って、 私を 珍しがり、すぐには立ち去る様子もないうちに、星の光さ え見えない暗い夜に、さっとしぐれが降り、それが木の葉にか かる音が趣深のを、 男性は 「かえって優雅で風情のある夜だ

場面も多くあって、私も連れの人も受け答えなどしていると、

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学習テーマ 出家パターン 陰暦月 3  「なむ(ん)」の識別 古文読解においては、まず「文法」と「単語」という二つの柱を制覇すれば基礎は出来上がる。 この二つは短期集中で勉強し、その後は繰り返し何度も復習するやりかたが正しい勉強法だ。 次に「解釈」へと入ることになるのだが、解釈力を付けるのには少し時間がかかる。演習問題を 通じて、焦らずじっくり力を付けていこう。 今回はテーマ1と2で 「出家」と「陰暦月」という古典常識を扱う が、それ以外にも、この問題 集では多くの古典常識を網羅していた。古文に慣れ親しむ意味でも、そした知識貪欲に吸収 してほしい。テーマ3の 「なむ(ん)」の識別 は、識別問題で出る順3位。 この問題集も残り3題だ。最初に書いたように、とにかく目の前にあることを日々確実にこなせ た人が、最後に成功をつかんでいる。 どんなことがあってもこの問題集を最後まで完走し、繰り返 してマスターしてほしい。 『平家物語』 98 第 6 講 問題編 32 ページ 1 2

第6講  『平家物語』

問一 傍線部A「世にあらん者」は、そのあとにある「世になき者」と対義語の関係になっている。 滝口の父が息子の結婚相手として考えていたのは、 「出仕なんどをも心やすうせさせん」とあるように、 宮中への出仕が容易になるような高いレベルの相手だったのに、現実には息子の滝口は「世になき者」 =「とるに足らない者」を好きになってしまったとう関係をつかむ。ここでの「世にあらん者」とい うのは世間的な地位や名声のある者」という意味。 文中に対句的な関係がある場合、それをヒントにして解く! 「世にあらん者」のむこになして ≒ 「世間的な地位や名声のある者」の婿にして ⇔ 「世になき者」を思ひそめて ≒ 「とるに足らない者」を好きになってしまって 問二 傍線部B「様をさへかへ」は「出家すること」を意味しているが、「出家すること」を表す語句 は古典常識として非常に重要なのでまとめておこう。 解答 世間的な地位や名声のある者(世間で評判のある者) 解答 出家すること

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