極める古文2 センター試験編

「帰りたまはむまでは、そなた 空を見む。 若き老いたるとなき浮かべる身の、遠き舟路 にさへ漕ぎ離れたまはむに、波風の心も知ら ず、たれもむなしくあひみぬ身とならば、や がてその浦に身をとどめて、あ つ領巾振り けむためしともなりなむ」 と出で立ちたまへば、大将、限りある宮仕へ

せど、使ひ まる人につけて 息の緒に君が心 大将は、 「難波の浦まで送らむ」 とのたまひしかど、母宮、 「限りあらむ神の誓ひにてこそ添はざら この国の境をだにいかでかは離れむ」 とのたまひて、去年より松浦の山に宮をつく りて、 け身をも投ぐがに

国に最も近い国の境だけでも、どうして離れましょうか、いや 私は唐の国を望む国境の松浦山から離れません」 とおっしゃって 去年から肥前の松浦の山に御殿を造って、 「 あの子 (=弁の君) が

今はもう、 あるお言葉を賜 が、やはり機会 逃 も、 弁の君は は人ごみに紛れて姿を消した て、 神奈備の皇女付きの女房 息の緒に…=私の命にあなたのお ださるなら、きっと航路も穏やかになり き分けて、無事に帰 てくるでしょう。 父の大将は、 「難波の浦まで見送りをしよう」 とおっしゃったが、母君は、 「衆生を救うために神仏がたてた誓願も限りがあるでしょうか ら、 息子の弁の君と

血の涙を流すほど切ない

一緒にはいられないけれども、せめて唐の

お帰りになるときまでは、 そちら (=

のもとに、次の歌を贈る。

神奈備の皇

弁の君は

恨めしいと思う

一言も情け

唐土 )

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