センター現代文一問一答必修編

大学を出  定年退職して て老人に適当な勤 やが 五万円でもいい 尽し、あとは 年でもあるまいに、あれじゃじじむ 員という地位に 凝った。中年以降は麻雀かゴルフで土日を費や 人の 真 ま 似 ね であって、他人の消失した今となっては行為の動機 父が或る小さな水銀灯会社の相談役として就職できた時 食も進み適度の威厳を保つほどに肉もついたの ある。しか 談役というのは実質的な仕事がなくて退屈であるし、午後になる ら盗み見される が、実に辛いのだという。 彼は弟と相談し、すべての原因は父の老衰にあると結論 た。会社をやめ 退職金はあらかた使い尽していたから、いま住んでいる百坪の土地を売るより 入はないからと話し合った。父は息子 ちの意見に、お前たちのいいようにしてく さくて無力な老人のそれであった。 黒ずくめの紳士の一行が来訪したのは、彼が不動産屋に行ってから数日後である 何でも金 んだだけ皮膚の皺が増え、 思えば父には何の趣味もなかった。若い

為 な すこともなく、終日家に居 相 ふ さ わ 応 しい娯楽なので、失職中の身には何の魅

煙 た ば こ 草 を立て続けにのむので持病の

頃 ころ には 円 (注5) 本を律義に買い

喘 ぜん 息 そく は悪化し、のべつ肉を引きちぎ 嬉 うれ しげな様子を彼はよく覚えている。父は若がえったよう

揃 そろ え、切手

瓩 キロ もあった体重が五十瓩台に 蒐 しゆう 集 しゆう に精を出し、十六ミリや八ミリの活動撮影

無 ぶ 聊 りよう に耐えられな

睡 ねむ 気 け がおこり、

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辛 つら いとこぼしはじめた。相

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咳 せき をした。まだそんな

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