センター現代文一問一答必修編
第 13 講 小説
ために、そ たびに彼は石垣の間 袂 たもと へ入れた。…… 要するに彼はこの吝嗇な島田 A 夫婦の心の奥には健三に対する 彼らが長火鉢の前で差し向かいにす 「お前のおとっさんはだれだい」 しかし
彼は独楽の 健三は島田 方を向いて彼を指さした。 「じゃお前のおっかさんは」 健三はまた 常 顔を見て彼女を指さした。 これで自分たちの要求を一応満足させると、今度は同じよ 「じゃお前の本当のおとっさんとおっかさんは」 健三はいやいやながら同じ答え 繰り返すよりほかに仕方がなかっ 合わせて笑った。 ある時はこんな光景がほとんど毎日のように三人の間に起こった。ある時は 常はしつこかった。 「お前 どこで生まれたの」 こう聞かれるたびに健三は、彼の記憶のうちに見える赤い門―― らなかった。お常はいつこの質問を掛けても、健三が差しつかえなく同じ返事のできるよう
失 な くなるのが心配
河 か 岸 し ぎわの 泥 ど 溝 ぶ の中に
蟹 かに の穴を棒で突ッつい
浸 つ けた。とこ
く (注5) 扱 あつか い 所 じょ の土間を抜けて
高 たか 藪 やぶ でおおわれた小さな赤い門の
薪 まき 積み場の
柵 さく と柵との間
家 うち をあげて答えなければな
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