みんゴロ古文読解
怖 もを取らせ、名を問ひ聞き、いま新しきには、名 をつけて、興じ給ふ。「人はすべてつくろふとこ ろあるはわろし」とて、 眉 まゆ さらに 抜き給は ず 、歯 ぐろめ さらに 、「 うるさし 、きたなし」とてつけ 給は ず 、いと白らかに笑みつつ、この虫どもを 朝 あしたゆふべ 夕 に愛し給ふ。人びと 怖ぢ わびて逃ぐれば、そ の 御 おん 方 かた は、いとあやしくなむ ののしり ける。かく 怖 お づる人をば、 「 けしからず 、ばうぞくなり」とて、 いと 眉 まゆ 黒 ぐろ にてなむにらみ給ひけるに、いとど心地 なむ まどひ ける。 お ぢせず、 いふかひなき を召しよせて、箱の虫ど
2 第一部
てしまったので、男の童 で 物おじをせず、 つま らない身分の者 を姫君は呼び寄せて、箱の虫を 取り出させ、虫の名を尋ね聞き、初めての新し い虫には名前を付けて面白がりなさる。「人は何 でも、化粧したりして取りつくろうところがあ るのはいけないことだ」とおっしゃって、眉毛 など 全く お抜きになら ず 、お歯黒も 全く 「 めん どうで 、汚い」とおっゃっておつけになら な い 。たいそう白い歯を見せて笑いながら、この 虫たちを朝に夕べにかわいがっていらっしゃる。 女房たちが虫を 恐れて 途方にくれて逃げだすと、 この姫君は、たいそう 大きな声で叱りつける の であった。このように虫を怖がる女房たちを、 「虫 を怖がるのは よくない こと 不作法だ」とおっ しゃって、とても黒々とした眉でにらみなさっ たので、女房たちはますます心が乱れて どうし てよいかわからなくなっ てしまった。
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