みんゴロ古文出典

易   難 入試 出題箇所を チェック ! 鴨長明の作品としては 最上位にランクイン。 難易度も高く、文学史 も要注意。 誠に、ある ま ※ じき 事をたくみたるは はかなけれ ど、よくよく思へば、此の世の楽しみには、 心を慰むる にしかず 。一二町を作り満てたる家とても、これをいしと思ひならはせる人目 こそ あれ 、誠には、我が身の起き伏す所は一二間に過ぎず。その外は、皆親しき 疎 うと き 人の 居所のため、もしは野山に住む べ ※ き 牛馬の料をさへ作りおくにはあらずや。かく よしなき 事に 身を煩はし、心を苦めて、百千年あらむために材木を選び、 檜 ひはだ 皮 ・瓦を玉・鏡と磨きたてて、 何の 詮 かはある。ぬしの命 あだなれ ば、住む事久しからず。或いは他人の 栖 すみか となり、 或いは風に破れ、雨に 朽ち ぬ。いはむや一度火事出で来ぬる時、年月の営み、片時の間に 雲 うん 烟 えん となりぬるをや。しかあるをかの男が あらまし の家は、走り求め、作り磨く煩ひもなし。 雨風にも破れず、火災の恐れもなし。なす所はわづかに一紙なれど、心を宿すに不足なし。 『 発 ほっ 心 しん 集 しゅう 』 学習院大学 本当に実現するはずもないことを計画するのは むなしいことである が、よくよく考えてみると、この世の楽しみは を満足させる に越したことはない 。一町、二町の広さいっぱいの家でも、これをすばらしいと思うのは世間の人の目 で あるが 、実際には、自分が寝起きするところはほんの一、二間の広さにすぎない。そのほかには、みな親しい人やたいして 親しくもない 人の 居所のため、あるいは野山に住むべき牛や馬の小屋まで作っておくのではないか。このように つまらない ことに 身を煩わし、心を尽くして、何百年何千年も家がもつように材木を選び、檜皮葺きの屋根、瓦を玉、鏡と磨きたてて、 何の 甲斐 があろうか。持ち主の命は はかない ので、ずっと住むことはできない。あるいは他人の家となり、 あるいは風で傷み雨で 崩れ て しまう。ましてひとたび火事が起こった時には、長年の営みがほんの一瞬の間に 煙となってしまうではないか。それなのに、あの男が 計画した 家は、材木を探し求め、家を作り磨きたてる面倒もない。 雨風にも壊れず、火事の心配もない。なす所は、わずかに紙一枚であるけれど、心を宿すには不足はない。 DATA FI LE

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