新・ゴロゴ漢文問題集 基礎・必修編 v1.01
いようか」と。少年が答えるには、「他でもない鼠のこと ですよ」と。私は言った。「鼠のことをどうして老虫と名 づけるのか 少年が言うには、「呉の地ではずっとそ う呼んでいるのです」と。ああ、鼠は老虫の 名を勝手に 使って、私をあわてふためかして逃げさせようとした。何 とも笑 しまうことだ。 書き下し文 現代語訳 楚 そ の人 ひと は虎 とら を謂 い ひて老 らう 虫 ちゆう と為 な し、姑 こ 蘇 そ の 人 ひと は 鼠 ねずみ を 謂 い ひて 老 らう 虫 ちゆう と 為 な す。 余 よ 長 ちやう 洲 しう に 官 くわん し、事 こと を以 もつ て婁 ろう 東 とう に至 いた り、郵 いう 館 くわん に宿 しゆく す。燭 しよく を 滅 めつ し 寝 しん に 就 つ くに、 忽 たちま ち 碗 わん 碟 てふ 砉 けき 然 ぜん として 声 こゑ 有 あ り。 余 よ 故 ゆゑ を 問 と ふ。 閽 こん 童 どう 答 こた へて 曰 い はく、 「 老 らう 虫 ちゆう なり」と。 余 よ は 楚 そ の 人 ひと なり、 驚 きやう 錯 さく に 勝 た へずして 曰 い はく、「 城 じやう 中 ちゆう 安 いづく んぞ 此 こ の 獣 けもの 有 あ るを得 え んや」と。童 どう 曰 い はく、「他 た 獣 じう に非 あら ず、 鼠 ねずみ なり」と。 余 よ 曰 い はく、「 鼠 ねずみ 何 なん ぞ 老 らう 虫 ちゆう と 名 な づくる」と。童 どう 謂 い ふ「呉 ご の俗 ぞく に相 あ ひ伝 つた ふる こと爾 しか るのみ」と。嗟 あ 嗟 あ 、鼠 ねずみ 老 らう 虫 ちゆう の名 な を冒 をか し、余 よ をして驚 きやう 錯 さく して走 に げんと欲 ほつ せしむる に至 いた る。良 まこと に笑 わら ひを発 はつ するに足 た れり。
46 楚の人は虎のことを老虫と言い、姑蘇の人は鼠のことを 老虫と言う。私が長洲に長官として赴任していた時に、所 用で婁東という町に至り、宿屋に泊まった。あかりを消し て就寝しようとしたところ、急に食器ががたがたと音を立 てた。私は理由をたずねた。門番の少年が答えるには、 「老
虫です」と。私は楚の出身なので、あわてふためく心を抑 えきれずにこう言った。「まちの中にどうしこんな獣が
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