新・ゴロゴ漢文問題集 基礎・必修編 v1.01

第20講 反語3

書き下し文 その人は苦しくなって言うには、「私 特別に黄があるわ けではありません。ただ恥じ恐れ入る気持ちがあるのみで す」と。 獄 ごく 吏 り 一 いち 人 にん を 引 ひ きて 至 いた る。 曰 い はく、「 此 こ の人 ひと 生 い くるとき常 かつ て人 ひと を殺 ころ すも、幸 さいは ひに して死 し を免 まぬが る。 今 いま 当 まさ に命 いのち を還 かへ すべし」と。 其 そ の人 ひと 倉 さう 皇 くわう として妄 みだ りに亦 ま た黄 くわう 有 あ りと言 い ふ。 冥 めい 官 かん 大 おお いに怒 いか り、 之 これ を詰 なじ りて曰 い はく、 「 蛇 じや 黄 くわう ・ 牛 ぎう 黄 くわう 皆 みな 薬 くすり に 入 い ること、 天 てん 下 か の 共 とも に知 し る所 ところ なり。汝 なんぢ は人 ひと 為 た り、何 なに の黄 くわう か之 こ れ 有 あ らん」と。 左 さ 右 いう 交 こもごも 訊 と ふに、 其 そ の 人 ひと 窘 くる しむこと 甚 はなは だしくして 曰 い はく、「 某 それがし には 別 べつ に 黄 くわう 無 な し。 但 た だ 些 いささ かの 慚 ざん 惶 くわう 有 あ るのみ」 と。

重要語句

▪ 但

▪ 某

▪ 交

副詞では「こもごも」と訓む。 「かわるがわる」の意。 「それがし」と訓む。一人称の代名詞であ 場合と、名指しせずにぼかし 示代名詞として用いられる場合とがある。本文では前者。 限定形で「ただ~のみ」と訓む。 「~だけ」の意。 (→第

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黄がどちらも薬に入っていることは世の中の誰もが知って いることである。お前は蛇でも牛でもなく人間だ、どうして 黄をもっていようか」と。役人がかわるがわる問いただすと、

わてて私にも黄があると口から出まかせで言った。それを聞 いて冥界の裁判官は大いに怒り、詰問するには、「蛇黄・牛

現代語訳 監獄の役人が一人の人間を冥界の裁判官の前に引き連れて きて言うには、「この人間は生前に人を殺したが、運よく死 罪を免れました。命をもって償うべきです」と。その人はあ

22講参照)

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