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10 解説 重要語 「アイデンティティ」で見たとおり、自分が自分であることに確信が持てるには、他者から認められて いるということが必須の条件です。誰もが心の中で、自分のありのままを理解し、受け入れてほしいと願っていま す。そして、その裏返しで、理解してくれない他者を力づくで排除したい衝動にも駆られます。 しかし、他者は他者である以上、お互いに完全に理解することはできません。むしろ、 理解できないからこそ、 私は他の誰でもない私であり、誰からも「自由」であると言える のではないでしょうか。 例えば、ある対戦型のゲームをしている場面を考えてみてください。ルールの範囲内ならば、自分に不利益とな る間違ったプレーを選択することも「自由」です。逆に、完全無比で最善手しか 指さない(指せない)のであれば、 私はプレーヤーとして「不自由」でしょう。 次に、対戦相手のことも考慮に入れます。相手も私と同じように、つねに最善の 選択をするわけではありません。 時に私の想定外の手を指してくることもあるでしょう。相手は私の意のとおりに 動いてくれるわけではありません。 しかし、だからこそ、私は次の手を考える「自由」を享受することができます。 例文で筆者は、「 『自由である』ことと『服従する』ことの反転が生じる可能性」について指摘しています。アイ ドルがファンに推してもらうために要望をべて聞き入れていたら、それは「服従」であって「自由」では ま せん。現実は逆です。 思いどおりにならない「不自由」な他者こそが、私を「自由」な存在とする のです。

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