語彙・テーマ

解説 日本を代表する文豪である夏目漱石は、一九〇〇年に文部省の命令でイギリスに 「神経衰弱」に陥っ て、二年半ほどで打ち切って帰国の途につきました。精神的なストレスとしては、まったく足りなかった官給の学 費の問題や、研究成果を出さなければならないというプレッシャーなどが指摘できますが、何よりも大きかったの は、日本人とイギリス人の生き方の違いに衝撃を受けたこと、今で言うところのカルチャー・ショックでした。 漱石は後に行った講演「現代日本の開化」において、日本の開化(近代化)は、社会の内部から自然と発生した もの(内発的開化)ではなく、 列強各国の圧力によって無理やり進められたもの(外発的開化)であったため、日 本人は自己を見失い、虚無感や不安の中に生きることなった と述べています。要するに、漱石だけでなく日本社 会全体が西洋近代のカルチャー・ショックを受け、「神経衰弱」に陥ったと言う のです。 こうした経験から、漱石は自己の内面に巣食うエゴイズムを見つめる作品を書き続けました。それは、他者に迎 合する生き方をしてきた日本人に対して、欧米人のような内面的欲求に基づく自己本位の生き方を求めるものでし た。 留学しますが、

漱石が生き方の転換を求めるほどにカルチャー・ショックを受けたのは、例文で筆者が言うように、短期間留 学のうちに「有機的な感覚体験が存在全体をゆりうごかす」という経験をしたからです。外国で生活をするという のは、そして、外国語を用いるというのは、表面的なことにとどまりません。 言葉も、私たちの存在も、歴史や文 化に根ざしています。だからこそ、存在がゆりうごかされる のです。

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