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解説 神の軛から解放されて、個人が自由を手に入れるとは、自分が何者であるのかについては自分で決める、神に決 められるわけでも、他人に指図されるわけでもないということを意味します。「近代」には、他から独立した主体 的で強い個人のあり方として、「近代的自我」が成立します(詳しくは基本テー マ9「エゴイズム」で後述)。

10 しかし、重要語 「アイデンティティ」の項で説明したように、私とは他者との関係において成り立っている存 在です。他者から承認されるこで、初めて自分が自分であることに確信が持てます。だとしたら、 主体的で自由 な個人と言っても、他者が不在なのであれば、それは根無し草ということになってしう でしょう。 それは、自然と人類との関係にも言えることです。神の摂理の下に置かれていた中世において、人類は自然の一 部でした。しかし、「近代」にいたって自然を支配する神のいるべき場所に立ちます。たしかに、科学によって導 き出される法則は、自然を人類にとって都合の良いようにコントロールする力となり しかし、その法則は、 自分は何者かという問いに対して、何の答えも与えてはくれません。 自然から切り離されてしまった からです。 私たち現代人は「自然を守れ」言います。しかし、自然を破壊しているのは、自然の外部にる私たち自身 す。だとすると、 自然を守るために最も適当な方法は人類がいなくなることであるという、なんとも皮肉な逆説 が 成立します。「自然との共生」と口にするのは簡単ですが、そこに、自然から切り離された人類が、自然との関 係を結びなおという、難しい課題が横たわっているのです。

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