極める古文1 基礎・必修編

て、あるはめづらかに興ある事をむねし、 おどろおどろしきさまの事多くなどして、い づれもいづれも、もののあはれなるすぢなど は、さしもこまやかに深くはあらず。 また、

よろづに心を入れて書けるものにして、すべ ての文詞のめでたきことはさらにもいはず、

これより後のものどもは、狭衣などは、何事 ももはらこの物語のさまをならひて、心をい れたりと見ゆるものからこよなくおれ り。そのほかもみなことなることなし。 ただ、こ物語ぞこよなくて、ことに深く、

なる古物語どもは、何事もさも深く心を入 れて書けりとしも見えず。ただひとわたりに

60 ここらの物語書どもの中に、この物語は、 ことにすぐれて、めでたきものにして、大か た先にも後にもたぐひなし。まづこれより先 たくさんの物語の書物の中で、この(=源氏)物語は、特に きわだってすばらしいものであって全く先にも後にもこれに 類するほどすばらしい物語はない。まずこれより以前に書かれ 第3講  『源氏物語玉の小櫛』口語訳

べてに心を注いで書いてある物語であって、すべての文章の言 葉遣いがすばらしのは言うまでもなく、この世に暮らす人々 の様子、春夏秋冬折り折りの空の様子、木草の有様まで、すべ

それほど細く深くは書いいない。またこれよりも後に書 かれた物語は、『狭衣物語』などは、何事もひたすらこの物語 の書き方を真似して、丹精して作っているとは思う けれども 、 できばえは甚だしく劣っている。その他の物語についてもべ て異なるところはない。 ただ、この物語が格別にすぐれ て、特に描写が深く、す

て、 ものは珍しく面白い事を中心し、おおげさな様子の 事が多かったりなどして、どの物語も、物の情趣に関する事は、

た古い物語は、何事につてもそれほど深く心を傾けて書いて あるようにも見えない。ただひととおりに書いているのであっ

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