極める古文1 基礎・必修編

今は昔、女院、内裏へはじめて入らせおは しましけるに、御屏風どもをせさせ給ひて、 歌よみどもに詠ませさせ給ひけるに、四月、 第4講  『古本説話集』口語訳 ゐり給へれば、「歌詠ども、はかばかしきど ももえ詠み出でぬに、さとも」と、誰心 にくがりけるに、御前にまゐり給ふや遅きと、 殿の、「いかにぞ、あの歌は。遅し」と仰せ られければ、「さらにはかばかしくつかまつ らず。悪くてたてまつりたらんは、まゐらせ たくいい歌が詠めません。下手な歌を献上すぐらいならば、 献上しなほうよいくらいです。歌人たちのばらし歌の 今となっては昔のこと、 女院彰子が 宮中にはじめて入内され た時に、御屏風をお作りになって、歌人たちに歌を詠ませなさっ た時に、四月に 藤の花が 風流に咲いている絵を描いた屏風の一 面を 四条大納言公任が 当たって、(それに合う歌を)お詠みに なることになったが、その歌の発表の日になって、 人々は それ ぞれ歌を作って参上したが、 公任が なかなか参上しなかったの で、 道長は 使いをやって遅いと何度も催促なさった。権大納言 行成は御屏風を承って、 大納言公任の歌を 書くように 道長が 命 じなさったが、さてその 道長は いよいよ立ったり座ったりして じれながらお待ちになっていると、 大納言公任が 参上なさった ので、「ほかの歌人たちはたいした歌を詠めないが、いくらな んでも 大納言公任は 名歌を詠んできたであろう」と、誰もが期 待していたところ、 公任が道長の 御前に参上するやいなや、 道 長が 「どうした、歌は、遅いぞ」とおっしゃるので、 公任は 「まっ 藤の花おもしろく咲きたりけるらを、四条 大納言あたりて詠み給ひけるに、その日にな りて、人々歌ども持てまゐりたりけるに、大 納言遅くまゐりければ、御使して遅きよし をたびたび仰せられつかはす。権大納言行成、 御屏風たまはりて、書くべきよしなし給ひけ れば、いよいよ立ち居待たせ給ふほに、ま

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