極める古文1 基礎・必修編

28 今は昔、大隅守なる人、国の政をしたため おこなひ給ふあひだ、郡司のしどけなかりけ れば、「召しにやりて戒めん」と言ひて、さ きざきのやうに、しどけなきことありけるに は、罪に任せて、重く軽く戒むる 今はもう昔の話だが、 大隅守である人が 国の政治をなさって いるとき、 郡司が だ らしなかったので、「呼びに人をやって罰 しよう」言って、以前のようにだらしないことがあったとき には、罪の程度に応じて、重くあるいは軽く罰することがあっ たが、(なかなか改まらず、)一度でなくたびたびだらしないこ とがあったので、今度ばかりは厳重に罰しようということで、 呼びつけるのであった。 「ここに呼んで連れて参りまし」と(呼 びに行った) 使いの者が 申し上げたので、以前そうしたように 第1講  『宇治拾遺物語』口語訳 れば、一度にあらずたびたびしどけきこ とあ 重く戒めんとて、召すなりけり。 「こ こに召して率て参りたり」と、人の申しけれ ば、さきざきするやうにし伏せて、尻頭にの

何事につけてか、これを許さんと思ふに、こ とつくべきことなし。過ちどもを片端より問

ぼり居たる人、笞を設けて、打つべき人設け て、さきに人二引き張りて出で来たるを見 れば、頭は、黒髪もまじらずいと白く、年 老いたり。 見るに打ぜんこといとほしく覚えければ、

うつぶせにして、尻や頭のほうに乗りかっている人や、むち を準備して打つことになっている人はその準備をして、前の二 人が引っ張っ出てきたのを見たところ、 その男は 頭に黒髪も 混じらず、すっかり白髪で年老いていた。 それを見るとむち打つことが気の毒に感じられたので、何か

にかこつけてこれを許そうと思ったが、口実にするようなこと がない。しでかした過ちをかたっぱしから問いつめたところ、 ただもう年老いていることを弁解のよりどころにして答えてい

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