極める古文3 中堅~上位大突破編

さて院の住ませ給ひける時に、夜半ばかり に、西の対の塗籠を開けて、人のそよめきて 参る気色のありければ、院見遣らせ給ひける に、日の装束うるはしくしたる人の、太刀帯 きて笏取り、畏まりて二間ばかり去きて居た りけるを、院「彼は何人ぞ」と問

今は昔、川原の院 み給ひける家なり。陸 りて、潮の水を汲み入れて り。様々にめでたくをかしきこ りて住み給ひけるを、その大臣失せ その子孫にてありけ 人の、宇多の院に たりけるなり。然れば宇多の院 その川原の 院に住ませ給ひける時に、醍醐の天皇は御子 におはしませば、度々、行幸ありてめでたか りけり。

第4講『今昔

たところ、 「この家の主の翁でございます」と申し上げるので、 院が「融の大臣か」とお尋ねになったところ、 「さようでござ

今はもう昔のこと てお住まいになった家で て 造って、海水を汲み入れて、 らしく、趣の限りをつくして住み なった後は、 その子孫にあたる人が、 た。そこで、 宇多院がその川原の院にお住 醍醐天皇は院の御子でいらっしゃるので、たび があり、この上なくめでたいことであった。 さて、院がお住まいになっていたときに、ある夜半ほ 西の対屋の塗籠の戸を開けて、誰かがそよそよと衣ずれの音 させてやってくる気配がしたので、院がそちらに目をおやりに なると、朝廷での昼の正装(=束帯姿)を端然とした人が、太 刀を腰に帯びて笏を手に持って、かしこまって二間ほど離れた 所にいたが、 そこで院が「そこにいるのは誰か」 とお尋ねになっ

庭は 陸奥の国の塩竃の形を

まね

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