みんゴロ極める古文1
陸奥紙に書きてたてまつり給へばひろげて 前に置かせ給ふに、帥殿よりはじめて、そこ
なれば、許したぶべきなり」と、さまざまに 逃れ申し給へど、殿あやにくに責めさせ給へ ば、大納言いみじく思ひわづらひて、懐より、
やうなることなりかし。これらだにかく詠み そこなへば、公任はえ詠み侍らぬもことわり
こそ、さりともと、思ひ給へつるに、『岸の やなぎ』といふことを詠みたれば、いとこと
言、「いみじく候ふわざかな。此度は、誰も え詠みえぬたびに侍るめり。中にも、永任を
歌なくは、大方、色紙形を書まじきことな り」などまめやかに責め申させ給へば、大納
みじく逃れ申し給へど、殿、「あるべきこと にもあらず。異人の歌なくてもありなむ御
82 ぬには劣りたることなり。歌詠むともがらの、 中に、たいしたことのない歌が書かれましたならば、長く後世 までも、不名誉な名を残すことになりましょう」どとたい そう辞退なさったが、 殿は、「とんでもないことだ。他の人の すぐれたらん中に、はかばかしからぬ歌書か れたらむ、長き名に候ふべし」とやうに、い
期待していたので、「そうはいっても、こ大納言はつまらな い歌をお詠みになるまい」と思っているとさっと帥殿が読み 上げなさる、 むらさきの…=紫の雲かと見えるほど美しく咲いている藤
ら陸奥紙に書いた歌をさし出しなさると、道長は紙を広げて置 きなさったところ、帥殿はじめ大勢の上達部や殿上人たちが
うかお許しください」などと、さまざに逃れなさるが、殿は きびしく責めになるので、公任はたいそう思い悩んで、懐か
でいては、本当に変ですね。このような人でさえも詠み損なう のですから、私が詠むことができませんのも当然ですので、ど
も上手に歌を詠むことができないようですね。中でも永任なら ばよい歌をと思っておりましたが、『岸のやなぎ』などと詠ん
歌はなくてもよいだろう。しかしあなたの歌がなければ、全く 色紙形を書ことができないことである」などと真剣に責め申 し上げなさると、 公任は、「本当に困りました。今回はどなた
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