みんゴロ極める古文1

入りて折る。さすがにざれたる遣戸口に黄 なる生絹の、単袴、長く着なたる童の、を かしげなる、出で来てうち招く。白き扇の、 いたうこがしたるを、「これに置きて参らせ

れたるを、「くちをし花の契や。一ふさ折 りて参れ」と宣へば、この押しあけたる門に

このもかのも、あやしくうちよろぼひてむ ねむねしからぬ軒のつまなどに、蔓ひまつは

しき垣根になむ、咲き侍りける」と申す。げ にいと小家がちに、むつかしげなるわたりの、

御随身つい居て、「かの白く咲けるをなむ夕 顔と申し侍る。花の名は人めきてかうあや

いと青やかなる葛の、心地よげに蔓ひかかれ るに、白き花ぞ、おのれひとり笑の眉開けた る。「遠方人に物申す」とひとりごち給ふを、 にしみて、しかし世の中はどこでも仮の住まいなのだと思い直 してみれば、豪華な御殿もこれと同じことである。切り懸けめ

124 けたる。見いれの程なく、ものはかなき住を、 ので、自分を誰であると知るだろうか、いや誰であるとは知ら ないだろうと気お許しになって、少し車をそばに寄せて御覧 あはれに、何処かさして、と思ほしなせば、 玉の台も同じことなり。きりかけだつ物に、 になったところ、門は蔀のよう扉を押し上げてある。奥行き も深くく、なんとなく頼りない住まいなので、しみじみと身

あちらこちらにみすぼらしく倒れかり、しっかりとして頼れ そうだとはいえない軒先などに、つる草に夕顔の花が這いまつ わりついているので、 「残念な花の運命だなぁ。一房折って持っ て来い」と源氏がおっしゃると、随身はごくそばの押し上げて

でございますよ」と申しあげる。なるほどそのことばのとおり 本当に小さな家ばかりで、いかにもむさくるしいこの辺りの、

御随身がひざまずいて、「あの白く咲いている花を夕顔と申し ます。花の名は人並みですが、こように粗末な垣根に咲くの

いた塀に、たいそう青々としたつる草が気持ちよさそうに這い かかっているが、そこに白い花が自分だけはいかにも華々と咲 いている。「 ずっと向こうの人に お尋ねします。そこに白く咲 いてるのは何の花ですか」と 源氏は 独り言をおっしゃると、

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