みんゴロ古文読解
みんなのゴロゴ・ 古文読解 オンラインフリー版
『古文読解ゴロゴ』4大特長 特長 1 重要単語&文法を学習しながら古文読解力を鍛える!
30 この本の構成として最も力を入れたのが、 「読んでいくにつれ自然に古文に慣れ親しみ、 最後には入試に対応できる力をつける」 というものです。単語も文法も、最重要・最頻 出なものから次第難易度が上がっていくよう工夫を凝らしています。また、 選んだ古文 出典は入試最頻出のものばかり なので、全 講義を読み切れば入試古文の基本的な文章 を一通り読んだことになります。 難易度が高い大学入学共通テストの古文対策としても 「習うより慣れろ」 式の学習を することが有効です。古文を読むことが楽しくなるくらい、慣れ親しんでください。 特長 2 入門レベルから共通テスト対策までバッチリ!
28 80 この『古文読解ゴロゴ』は、入試古文で頻出する 重要単語・文法をひとつひとつ学びな がら、古文の読解力をしっかりと伸ばす ことを目的にした本です。『古文単語ゴロゴ』と 並行して使えば、古文の得点力アップは確実です。これまでの生徒の 偏差値アップの最高 記録は ➡ です。ぜひみんなも記録にチャレンジしてみてください。
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1 特長 3 「音読➡口語訳➡単語➡講義➡文法」で立体的に古文を理解 各講に共通した流れがあります。まず最初は 「古文&口語訳」 ページから始まります。 ここでは上段の古文を音読してください。同時に下段の口語訳を見ておおよその内容を頭 に入れましょう。次の 「古文単語チェック」 にて重要単語がゴロで確認できます。さらに「 ゴ ロゴプレミアム講義」 を読んで、文学史や出典知識の理解を深めます。そして「 古文文 法・虎の巻」 と 「品詞分解チェック」 にて文法事項を完全にマスターしてください。そこま で済んだら最後にもう一度「古文&口語訳」ページに戻り、再び古文を音読します。読む と同時に口語訳が頭に浮かぶようになれば 講完成です。これを 講続けることによって、 入試本番にも対応できる強固な古文読解力が鍛えられます。 特長 4 参考書がスマホでも読める! 電子ブック付き
3 この『古文読解ゴロゴ』はデジタルコンテンツが付属しています。スマホでアクセスすれば、 電子ブックで本書がチェックできるうえに、学習に役立つコンテンツも提供していく予定です。 ぜひそれらを有効活用して、日々の学習のクオリィを高めていきましょう。使用法などの 詳細は、巻末の袋とじページをご覧ください。 30
『古文読解ゴロゴ』使用方法 古文の力をつけるための最大のポイントは 「始めたからにはやりつづける!」 ということです。 この本を手にとって勉強しようと思った、その最初の気持ちを忘れず、最後までやり通してください。 また、一度だけ読み通して終わりにするのではなく、何度も繰り返して読み、完全にマスターするまで この本を使い込んでください。以下、本書の具体的な使用方法を説明します。 ❶ 各講において、まず最初は 古文の音読 からスタートします。本文では重要古文単語が太字になって
おり、口語訳と対応させて確認できるようになっています。下の段の口語訳の部分にチェックシートを かぶせて赤字の口語訳を消し、自分で口語訳できるようになるまで何度も繰り返し勉強してください。 特に 薄いアミの張ってある単語は最重要単語 なので、ゴロでの確認を欠かさずやりましょう。 ❷ 「ゴロゴプレミアム講義」 は「文学史」を中心に本文の内容を講義したものです。また「古文文法・ 虎の巻」の補足説明もしています。気軽に楽しくんでもらっていいのですが、入試のツボをついた講 義内容になっているので、実は要チェックです。 ❸ 「古文文法・虎の巻」 は「入試でる順」で文法をわかりやすく解説したものです。本文と対応さ せながら何度も確認し、例文ともども暗記するよう心掛けください。この「古文文法・虎の巻」
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5 略 号 のマスターが古文読解の基礎力となるので、ここが頑張りどころです。大学入学共通テスト古文の文 法対策としても十分な内容なので、しっかりマスターしましょう。演習用教材としては『古文文法ゴ ロゴ』があるので、そちらで問題演習をこなして得点力アップにつなげてもらえると幸いです。 ❹ 「品詞分解チェック」 は最後の確認になります。問題形式になっているので、下の解答を見ずに正し い文法説明を言えるようにしましょう。重要な文法事項は繰り返し出てくるので、確実にマスターし てください。 = 助動詞 = 助動詞以外の単語 = 係助詞 = 結びの語 未 = 未然形 用 = 連用形 終 = 終止形 体 = 連体形 已 = 已然形 命 = 命令形 尊 = 尊敬語 謙 = 謙譲語 丁 = 丁寧語 動 = 動詞 補動 = 補助動詞 名 = 名詞 副 = 副詞 形 = 形容詞 (ク ク活用/シク=シク活用) 形動 = 形容動詞 (ナリ=ナリ活用) 格助 = 格助詞 接助 = 接続助詞 副助 = 副助詞 係助 = 係助詞 終助 = 終助詞
目 次
9 10 ぐさ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 6 大 やまと 和物 もの 語 し ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 索 引 … ……………………………………………………………………………………………… 18 ま ⋮⋮⋮⋮⋮ 9 枕 まくらの 草 そう 子 がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 源 げん 氏 じ 物 もの 語 第二部 「重要単語・文法マスター編」 …………… 1 伊 い 勢 せ 物 もの 語 がたり ⋮ 6 源 げん 氏 じ 物 もの 語 ⋮⋮ 26 34 40 10 85 86 鏡 かがみ ⋮⋮⋮ ⋮ 第三部 「パーフェクト敬語編」 …………………… 1 徒 つれ 然 づれ 草 ぐさ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 6 大 おお 鏡 94 き ⋮⋮ 8 大 おお 鏡 かがみ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ き ⋮⋮ 9 古 こ 今 こん 著 ちょ 聞 もん 集 じゅう ⋮⋮⋮ 増 ます 102 110 116 し ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 8 紫 むらさき 式 しき 部 ぶ 日 にっ 記 き ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 10 157 158 166 7 源 氏 物 しょう ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 枕 まくらの 草 そう 子 174 180 9 源 氏 物 186 10 第一部 『古文読解・入門編』 ……………………… つれ づれ 1 徒 然 草 がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 2 堤 中 納 言 物 つつみ ちゅう な ごん もの 語 がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 語 がたり ⋮⋮ 7 十 訓 じっ きん 抄 しょう ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 日 にっ 記 き ⋮⋮⋮⋮⋮ し ⋮⋮⋮ ⋮ 3 宇 治 拾 遺 物 う じ しゅう い もの 8 更 級 さら しな 4 玉 勝 間 たま かつ 5 伊 勢 物 語 い せ もの がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮ き ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ がたり ⋮⋮⋮⋮⋮ にっ 記 2 大 やまと 和物 もの 語 がたり ⋮⋮ 7 紫 式 部 日 むらさき しき ぶ 3 土 佐 日 記 と さ にっ 4 蜻 蛉 日 記 いずみ かげ ろう にっ 泉式 しき 部 ぶ 日 にっ 記 き ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 5 和 かがみ ⋮⋮⋮⋮⋮ じ もの 語 がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ じ もの 語 がたり ⋮⋮⋮ 2 宇 治 拾 遺 物 う じ しゅう い もの 語 がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ げん 3 無 名 草 子 む みょう ぞう 4 古 本 説 話 こ ほん せつ わ 集 しゅう ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ げん 5 無 名 抄 む みょう
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1 「の」はがーっと同格であって パート① ⋮⋮⋮ 「係り結び」は入試文法でる順第1位! ⋮⋮⋮⋮ 「にや」の下に省略されているもの? ⋮⋮⋮⋮ 15 17 18 古文文法・虎の巻 一覧 5 無 む 名 抄 16 「ね」の識別は意外にムズい! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「らむ」は現在推量の助動詞なのだ! ⋮⋮⋮⋮⋮ 主語が偉い人なら「る・らる」は尊敬! ⋮⋮ 9 源 氏 物
8 「む」は「水滴かかってえーん」! ⋮⋮ 15
4 狙われる下二段活用動詞「得・寝・経」! ⋮⋮⋮ 「をみ語法」は「を」がなくても成り立つ! ⋮⋮ 完了「ぬ」の連用形には大切! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 意志・願望表現の総まとめ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「なむ」の識別をマスターしよう! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「見ゆ」と「見る」は別の活用語! ⋮⋮ 「ぬ」と「つ」には完了以外に強意の意がある! ⋮⋮⋮ 6 「やは・かは」は反語! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 12 45 13 46 14 52 24 25 26 27 28 29 30 31 打消語は超・大切! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
14 男もすなる日記とい ものを女もしてみむとてするなり。 ⋮ 3 ミーならば、イーなので ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「り」かちゃんサ未四已! ⋮⋮ 四段の「給ふ」は已然形と命令形に注意! ⋮⋮⋮ 16 22 5 23 24 7 30 31 9 32 10 38 11 44
2 形容動詞の活用を覚えよう! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「こそ」の結びの形容詞・已然形に注意! ⋮⋮⋮ 「逃ぐれ・怖づる」を文法的に説明せよ! ⋮⋮ 「と」の前の「む(ん)」は意志! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「の」はがーっと同格であって パート② ⋮⋮⋮ 連用形+「なむ」は「な」と「む」に切れる! ⋮⋮ 「べし」は「すいかゴロゴロとめてよ」! ⋮⋮⋮⋮ 20 21 22 23 心情語につく「る・らる」は自発! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮
第一部 『古文読解・入門編』 ……………………… つれ づれ し ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 索 引 … ……………………………………………………………………………………………… 1 徒 然 草 がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 源 げん 氏 じ 物 もの 語 がたり ⋮⋮⋮ 第二部 「重要単語・文法マスター編」 …………… 1 伊 い 勢 せ 物 もの 語 がたり ⋮ 6 源 げん 氏 じ 物 もの 語 ⋮⋮ ぐさ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 6 大 やまと 和物 もの 語 がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 2 堤 中 納 言 物 つつみ ちゅう な ま ⋮⋮⋮⋮⋮ 9 枕 まくらの 草 そう 子 ごん もの 語 がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 語 がたり ⋮⋮ 7 十 訓 じっ きん 抄 しょう ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 日 にっ 記 き ⋮⋮⋮⋮⋮ し ⋮⋮⋮ ⋮ 3 宇 治 拾 遺 物 う じ しゅう い もの 8 更 級 さら しな 4 玉 勝 間 たま かつ 5 伊 勢 物 語 い せ もの がたり ⋮⋮⋮⋮⋮ にっ 記 き ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 2 大 鏡 かがみ ⋮⋮⋮ ⋮ 第三部 「パーフェクト敬語編」 …………………… 1 徒 つれ 然 づれ 草 ぐさ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 6 大 おお 鏡 やまと 和物 もの 語 がたり ⋮⋮ 7 紫 式 部 日 き ⋮⋮ 8 大 おお 鏡 かがみ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ き ⋮⋮ 9 古 こ 今 こん 著 ちょ 聞 もん 集 じゅう ⋮⋮⋮ 増 ます むらさき しき ぶ 3 土 佐 日 記 と さ にっ 4 蜻 蛉 日 記 いずみ かげ ろう にっ 泉式 しき 部 ぶ 日 にっ 記 き ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 5 和 かがみ ⋮⋮⋮⋮⋮ じ 物 もの 語 がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ じ もの 語 がたり ⋮⋮⋮ 2 宇 治 拾 遺 物 う じ しゅう い し ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 8 紫 むらさき 式 しき 部 ぶ 日 にっ 記 き ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ もの しょう ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 枕 まくらの 草 そう 子 語 がたり ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 7 源 氏 げん 3 無 名 草 子 む みょう ぞう 4 古 本 説 話 こ ほん せつ わ 集 しゅう ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ げん みょう
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19 「ぬ」の識別超・基本! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 副助詞「だに」は類推か最低限! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
こそドロ、以前刑事だったけれども ⋮⋮⋮⋮⋮ ヤ行下二段活用動詞は活用の行に注意! ⋮⋮⋮
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49 「まゐる」は三つにまたがる重要な敬語! ⋮⋮⋮ 「侍り」は丁寧語と謙譲語 ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「まゐらす 「まゐる」の一段高い敬意を表す謙譲語 ⋮ 「まうづ」を中心に 参上する ↕ 退出する」の関係を整理しよう ⋮ 178 184 52 190 172 「つかうまつる」は謙譲語! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「おぼしめす」は「おぼす」より一段高い敬意を表す 語 ⋮ その他の重要な敬語をまとめて覚えよう! ⋮⋮ 50 「せたまふ 「させたまふ」は「尊敬+尊敬」? 「使役+尊敬」? ⋮⋮ 「 まかづ」は謙譲語。ただし、まれに丁寧語もある! ⋮ 「なめり」は断定+推定! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 呼応の副詞は入試頻出! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「いか︱」で始まる副詞は解釈の鍵を握る! ⋮⋮ 51 「きこしめす」は最高敬語! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「奉る」は %謙譲語、 %尊敬語! ⋮⋮⋮⋮⋮ 53a 191 53b 192 54 198 55 204 56 85 敬語の補助動詞をまとめて覚えよう! ⋮⋮⋮⋮ 「おはす」はサ変の尊敬語! ⋮⋮ ヤ行下二段の「聞こゆ」は謙譲語に注目! ⋮⋮⋮ 15 205 57 206 58 212 59 218 60 219 61 226 62 228 108 34 「むず」は打消はないぞ! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「に」の識別入試の合否を左右する! ⋮⋮⋮⋮ 「なり」の識別も入試の合否を左右する! ⋮⋮⋮ 114 35 120 36 「にて」がわかれば識別問題卒業だ! ⋮⋮⋮⋮ 四段の「たまふ」は尊敬語! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 121 37 122 38 128 39 130 40 136 41 「召す」はいろいろな語の尊敬語 ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 142 42 148 43 「候ふ」は丁寧語と謙譲語 ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 154 44 162 45 163 46 164 47 170 48 171 !! 下二段活用の「給ふ」は謙譲語だ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 二つの「給へ」の識別は入試では超・頻出! ⋮⋮ 大橋(おーはす)巨泉でいらっしゃ、サー変 ⋮ 33 「し」の識別は意外に大切! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 「いかで ~ 意志・願望」 =「なんとかして ~ したい・してほしい」 ⋮⋮ カ変「来」とサ変「す」の確認! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 反実仮想「ましかば~まし」は大切! ⋮⋮⋮⋮⋮
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第一部
古文読解 入門編 第一部では、核となる最頻出単語100語と、基礎的な文法 事項をマスターすることが目標です。 学習は古文本文を音読して、対応する口語訳を目で追うこ とからスタートします。 有名出典10作品を取り上げているので、内容をじっくりと 堪能しながら、古文の世界に慣れていきましょう!
第一部 1 あらまほしき こそ、仮の 宿りとは思へど、興あるものなれ。 、のどやかに住みなしたる所は、さし 入りたる月の色も、ひときはしみじみと見ゆるぞ かし 。 いまめかしく きららかなら ねど 、木立もの ふりて、わざとならぬ庭の草も 心ある さまに、 簀 すの 子 こ ・ 透 すい 垣 がい の たより をかしく 、うちある 調 ちゃう 度 ど も昔お ぼえて 安らかなる こそ、 心にくし と見ゆれ。 多くの 工 たくみ の 心を尽くしみがきたて、 唐 から の 、大和 の 、珍しく、 えならぬ 調 ちゃう 度 ど ども並べ置き、 前 せん 栽 ざい の 草木まで心のままならず作りなせるは、見る目も 苦しく、いと わびし 。さても やは 、長らへ住む べき 。 理想的 であること は、どうせ短い一生を託す仮の宿だ とは思うけれども、興味のあるものである。 身分が高く教養もある人が 、ゆったりともの 静かに住んい所は、差し込む月の光も、一 段と心にしみるよに感じられるも であるよ 。 現代風 でもなく、きらびやかでも ないが 、木々 が古びた趣があって、特に手入れをしたとも見 えない庭の草も 趣がある 様子で、竹で編んで張っ た縁側や 間を透かして作った垣根 の 配置 も 趣深 く 、ちょっと置いてある道具類も、古風な感じ がして、 落ち着きがある のは、 奥ゆかしいこと だ と思われる。 これに反して多くの大工たち が 一生懸命に立 派に造り立て、中国 のもの や我が国 のもの で、 珍しく、 何とも言いようもなく立派な 道具類を 並べ置いて 庭先の植え込み の草木までも、自 徒 つ れ 然 づ れ 草 ぐ さ 作者 兼 けん 好 こう 法 ほう 師 し 随筆 鎌倉時代末 家 居 いへ ゐ の つきづきしく 、 よき人の 住居 が 、住む人と 調和がとれていて 、
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また、時の間の煙ともなりなんとぞ、うち見るよ り 思はるる 。おほかたは、 家 いへ 居 ゐ にこそ、ことざま は おしはからるれ 。 然のままでなく手を加えてあるのは、見ただけ で不快で、ひどく つらい気がする 。そのように 凝ったところで、いつまでも長生きして住んで いることが できようか、できはしまい 。また、
1 第一部
火事にでもあえば一瞬の間の煙となって焼け しまうに決まていると一目見ただけでも 自 然と感じられ 。だいたいは住まいによって、 主人の人柄や心情などは 自然と推測されるので ある 。
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◦ヲー、樫の木だ。趣がある
① 現代風だ。 ② 軽薄だ。 ◦今おめかしするのが現代風 ③ 分別がある。 ◦ 所のアリは思いやりがあって風流心がある。 もののわかったやつだ ① 趣がある。 ② おかしい。 ③ かわいい。 ④ 興味深い。 いまめかし こころあ をかし ① 情けがある。 ② 趣がある。
① 似合っている。ふさわしい。 ① 理想的だ。 ② ありたい。 ◦あらまー星一徹、理想的、そうありたいわ ① なんとも言えないほどよい。 ◦えー奈良漬、なんとも言えいほどよい つきづきし あらまほし こころにくし えならず ② 調和している。 ◦月々死ぬ目にあっている ③ 不審だ。 ◦所の憎しみ、なぜか奥ゆかしい
※ = 文中での意味 ◆ 重要単語チェック
① 奥ゆかしい。 ② 恐るべきだ ① つらい。 ② さびしい。 もの悲しい。 ③ みすぼしい。貧しい。 ◦ワサビしみるー、貧乏はつらくての悲し わびし
前栽 (せんざい)
透垣 (すいがい)
草木。
垣。 屋内から観賞するめに、庭前に植えた
板または竹を少し隙間を開けて組んだ
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多くの受験生が誤解しているのは、鴨長明の『方丈 記』との成立順で、どうも兼好法師のほうが古いとい う印象を与えるらしく『徒然草』→『方丈記」と勘 違いしている生徒が多い。 正しい成立順は『方丈記』 →『徒然草』で、 『方丈記』は鎌倉初期成立、 『徒然草』 は鎌倉末(南北朝時代)成立 なので百年以上『方丈 記』のほうが早く成立している。
『徒 つれ 然 づれ 草 ぐさ 』 筆」だが、入試では「吉 よし 田 だ 兼 けん 好 こう 」だったり「卜 うら 部 べ 兼 かね 好 よし 」だっ たりと、作者名はイマイチ一定しない。ただ一般的に は兼好法師と呼ぶのがもっともポピュラーだ。ちなみ 今回の文章でも、この世を無常ととらえるわりには 現世での住居論を展開しているあたり、俗世との接点
といえば、もちろん兼 けん 好 こう 法 ほう 師 し が書いた「随 に卜部家が神官をしていた「吉田神社」は京都市の左 京区の京都大学のすぐそばで、あの有名な銀閣寺の近 くだ。 をもつ『徒然草』らしい内容になっている。兼好法師 の生きた南北朝時代か見れば、平安時代はもう遠い
第一部
01 ゴロゴプレミアム講義 内容的には、人生訓的な随筆が多く、 が底流 に流れているとはいうものの、現代にも通じる人間観 察や思想が書かれていて読みやすくおもしろい。『方 丈記』のほう平安末から鎌倉初期時代の変遷期に 書かれているぶん、 「無常観」 の度合いは強い。 無常観
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いずれにせよ、『徒然草』の古文は受験生にとって も読みやすく、内容的にも得るところの多ものなの で、是非一読をおすすめする。
昔になっているはずだが、文化的には 貴族の風流 心をよしとする立場をとっている。ただ、「をかし」 の『枕草子』は違って、男性的・武士な思想も強 く、単なる懐古趣味には終わっていない。
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古文文法・虎の巻
格助詞の ◦このうち②連体修飾格の の は「の=の」で特に問題ない。また③同格の の はやや難しい のでP で扱うとして、まずは①主格の の を制覇しよう! 、住む人と調和がとれていて、理想的であることは、 、ゆったりともの静かに住んでいる所は
1 のはがーっと同格であって パート① ◦格助詞 の は助詞の中ではダントツの大切さだ。まずはその意味から見てみよう。
例文②
例文①
69 訳 訳 家居のつきづきしく、あらまほしきこそ、 住居 が
よき人の、どやかに住みなしたる所は、 身分が高く教養もある が
①主格「~が」 ②連体修飾格「~の」 →この二つが大切! ③同格「~で・~であって」 ④体言の代用「~のもの・~のこと」 ⑤連用修飾(比喩)「~のように」 ※用例が少なく、和歌中にしか出てこない。
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古文文法・虎の巻
1 38 第一部
2 「係り結び」は入試文法でる順第1位! ◦文中で何箇所か「係り結び」の法則が使われているが、この「係り結び」は入試文法中、 でる順第1位といっていいものだ。 ◦普通文末は終止形になるのだが、こ「係り結び」の法則ある場合は以下のように文末 が連体形か已然形になる。要注意だ! ○ 体 さてもやは~住むべき。
「係り結び」の法則 ※や・かが疑問か反語かは文脈による。
かは・やはについてはP 参照。
例文④ 例文③ 例文② ○ 已 安らかなるこそ、心にくしと見ゆれ。 係助詞 意味 文末(結び) ぞ 強意 なむ(なん) 連体形 や ①疑問 か ②反語 こそ 強意 已然形
例文① ○ 体 とぞ~思はるる。 ○ 已 あらまほしきこそ~興あるものなれ。
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古文文法・虎の巻
3 ◦助動詞の中で、入試頻度1位は る ・ らる だ。この る ・ らる は次の4つの意味をもつ。 ◦中でも④自発が最もよく問われるが、この自発の る ・ らる を見分けるポイントは、上に「心 情語」があるかどうかだ。心情語として有名なものとしては「思ふ・おしはかる・しのぶ・ 泣く」など。 自然と 感じ られる 。 自然と 推測 されるのである 。 心情語につくるらるは自発! ① 受身 =(~に)~される ② 尊敬 = ~なさる・お~になる ③ 可能 = ~できる ④ 自発 =(自然と)~される るらる の意味
例文② 自発の るらる ~とぞ 係助 、うち見るより 思 心情語 は る 自発「る」体 る。 ~と、一目見ただけでも 家居にこ 係助 そ、ことざまは お 心情語 しはから る 自発「る」已 れ。 住まいによって、主人の人柄や心情などは る 心情語+ 例文① 訳 訳
らる = 自発 「(自然と)~される」
可能 4.8%
過去問正解分析
受身 19.5%
自発 38.1%
尊敬 37.6%
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家 居 ども並べ置き、 前 せん 栽 ざい の草木まで心のままならず作りなせるは、見る目も苦しく、 いと わびし。さても ⑮ やは 、長らへ住む ⑯ べき 。また、時の間の煙ともなりなん と ⑰ ぞ 、うち見るより思は ⑱ るる 。おほかたは、 家 いへ 居 ゐ に ⑲ こそ 、ことざまはおしは から ⑳ るれ 。 ①格助(主格) ②シク・形・体 ③係助(強意) ④断定「なり」已結び ⑤格助(主格) ⑥ナリ・形動・用 ⑦ヤ・下二・体 ⑧ナリ・形動未 ⑨打消「ず」已 ⑩打消「ず」体 ⑪ヤ・下二・用 ⑫係助(強意) ⑬ヤ・下二・已(結び) ⑭格助(体言の代用) ⑮係助(反語) ⑯可能「べし」(結び) ⑰係助(強意) ⑱自発「る」体(結び) ⑲係助(強意) ⑳自発「る」已(結び) の はしみじみと ⑦ 見ゆる ぞ かし。 いまめかしく ⑧ きららかなら ⑨ ね ど、木立ものふり ④ なれ て、わざとなら ⑩ ぬ 庭の草も 心ある さまに、 簀 すの 子 こ ・ 透 すい 垣 がい の たよりをかしく、う て安らかなる 、心にくしと 。 ちある調 ちゃう 度 ど も昔 ⑪ おぼえ 多くの 工 たくみ の心を尽くしみがきたて、 唐 から ⑭ の 、大和の、珍しく、 えならぬ 調 ちゃう 度 ど ⑫ こそ ⑬ 見ゆれ
◆ 品詞分解チェック 、仮の宿りとは思へど、興あるも よき人 ⑤ の 、 ⑥ のどやかに 住みなしたる所は、さし入りたる月の色も、ひとき いへ ゐ ① の つきづきしく、 ② あらまほしき ③ こそ 。
第一部
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第一部 2 大納言の御むすめ、 心にくく、 なべて ならぬさま に、親たち かしづき 給ふ事かぎりなし。この姫君 の の給ふ 事、「人びとの花や蝶やとめづるこそ、 。人はまことあり、本地たづ ねたるこそ、 心ばへ をかしけれ」とて、よろづの 虫 の おそろしげなるをとり集めて、「これが成ら む さまを見む」とて、さまざまなる 寵 こ 箱 ばこ どもに入 れさせ給ふ。中にも、「かはむしの心ふかきさま したるこそ 心にくけれ 」とて、 明 あけ 暮 くれ は耳はさみを して、手のうらにうつぶせて まぼり 給ふ。 若き人びとは、 怖 お ぢまどひければ、 男 を の 童 わらは の 物 蝶を 愛する 姫君 が 住みなさる家のお隣に、按 察使の大納言の姫君が住んでいて、 奥ゆかしく、 普通で はない様子であるので、親たちが 大切に 育て なさることは限りもない。この姫君が おっ しゃる ことに、「世間の人々が、花よ蝶よと愛 するのは何にもならず、 不思議なことです 。人 間には誠実な心があり、物の本質を追求してこ そその人の 心の有様 が趣深いのである」とおっ しゃって、いろいろな虫 で 恐ろしそうなものを 取ってきて集めて、「この虫が成長していく よう な 様子を見よう」といって、様々な箱に姫君は 入れさせなさる。虫たちの中でも、「毛虫が思慮 深そうな様子をているのが 奥ゆかしい 」とおっ しゃって、姫君は明けても暮れても顔にかかる 髪を耳に挟んで、手の平の上に毛虫を乗せて じっ と見つめ ていらっしゃる。 若い女房たちはその様子に、恐れてとり乱し 堤 つつみ 中 ちゅう 納 な 言 ご ん 物 も の 語 がたり 作者未詳 物語 平安時代後期 蝶 てふ めづる 姫君 の 住み給ふかたはらに、 按 あ 察 ぜ 使 ち の はかなく あやしけれ
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怖 もを取らせ、名を問ひ聞き、いま新しきには、名 をつけて、興じ給ふ。「人はすべてつくろふとこ ろあるはわろし」とて、 眉 まゆ さらに 抜き給は ず 、歯 ぐろめ さらに 、「 うるさし 、きたなし」とてつけ 給は ず 、いと白らかに笑みつつ、この虫どもを 朝 あしたゆふべ 夕 に愛し給ふ。人びと 怖ぢ わびて逃ぐれば、そ の 御 おん 方 かた は、いとあやしくなむ ののしり ける。かく 怖 お づる人をば、 「 けしからず 、ばうぞくなり」とて、 いと 眉 まゆ 黒 ぐろ にてなむにらみ給ひけるに、いとど心地 なむ まどひ ける。 お ぢせず、 いふかひなき を召しよせて、箱の虫ど
2 第一部
てしまったので、男の童 で 物おじをせず、 つま らない身分の者 を姫君は呼び寄せて、箱の虫を 取り出させ、虫の名を尋ね聞き、初めての新し い虫には名前を付けて面白がりなさる。「人は何 でも、化粧したりして取りつくろうところがあ るのはいけないことだ」とおっしゃって、眉毛 など 全く お抜きになら ず 、お歯黒も 全く 「 めん どうで 、汚い」とおっゃっておつけになら な い 。たいそう白い歯を見せて笑いながら、この 虫たちを朝に夕べにかわいがっていらっしゃる。 女房たちが虫を 恐れて 途方にくれて逃げだすと、 この姫君は、たいそう 大きな声で叱りつける の であった。このように虫を怖がる女房たちを、 「虫 を怖がるのは よくない こと 不作法だ」とおっ しゃって、とても黒々とした眉でにらみなさっ たので、女房たちはますます心が乱れて どうし てよいかわからなくなっ てしまった。
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① 不思議だ。 ② けしからぬ。 ③ 卑しい。 ④ 粗末だ。 ◦あっヤシの実だ、いや、しいたけだ、 ③ あわてる ④ ひどく (~する)。 ◦窓ふき屋、道に迷ってひどく あわてる あやし おづ まどふ そーまつぼっくりだ、不思議だな ① 迷う。 ② 思う悩む。
① おっしゃる。 ◦のりたまフリフリおっしゃる のたまふ
◦鍋って 普通、すべってく ② 大切に世話をする。 ◦菓子、づっくりと大切に育てる なべて かしづく ① 大切に養い育てる。
③ 不審だ。 ◦所の憎しみ、なぜか奥ゆかしい こころにくし
※ = 文中での意味 ◆ 重要単語チェック
① 奥ゆかしい。 ② 恐るべきだ。 ① すべて。 ② 普通。 ③ 一面に。 ④ (なべてならず)並一通りではない。
① 怖がる。恐れる。 ◦オヅの魔法使いを怖がる
① 面倒だ。 ② 嫌味だ。 ③ すぐれている。 ◦うるさいし 面倒で嫌味だなぁ うるさし
① どうしようもない。 ② つまらない。 ③ 身分が低い。 ◦誘拐なしはつらない いふかひなし
① 見つめる。 ② 見張る。 ◦まもる君を見つめる まもる・まぼる
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02 ゴロゴプレミアム講義 この物語は短編集というところが特徴で、以下のタイ トルのものでできている。「花桜折る少将」「このつい で」「虫めづる姫君」「逢坂越えぬ権中納言」「はなだ の女御 「はいずみ」 「ほどほどの懸想」 「貝合はせ」 「思 はぬ方にとまりする少将」「よしなしごと」。全部短い 文章で、内容も比較的容易なので一読してみるのもい いかもしれない。 などがあるが、どれも『源氏物語』の影響を受けてお り、いかに『源氏物語』の存在が大きかったかがわかる。 文学史ゴロとしては、 「中納言、寝覚めの衣とりかへる」 と覚える。 『浜松中納言物語』『夜の寝覚』は、あの菅 すが 原 わらの 孝 たか 標 すえの 女 むすめ が書いた と言われている。彼女の日記である『更 な ごん もの がたり 』は平安時代後期に成立した物語 。
「はいずみ」はおしろいとお歯黒とを間違って塗って しまう滑稽談。などなど、それなりに当時は面白がっ
つつみ ちゅう 君」は、服装などがすべて当時の伝統慣習に反逆した 姫君が、毛虫などの恐ろしげな虫を愛するというお話。
『 堤 中 納 言 物 語 「花桜折る少将」は好きな美女と間違えて老尼を連 れ出してしまうというオチ。今回扱った「虫めづる姫
第一部
2
級日記』を読めばわかることだが、彼女は『源氏物語』 大好き少女で、一種のマニアのレベル。それだけに『源 氏物語』に対する思い入れはものすごく、その彼女が 『源 影響を受けてこれら作品を書いたの は当然と言えば当然と言える。
て読まれたのではないかと思われる内容をもつ。 文学史的には、『源氏物語』の影響を受けて成立し た平安時代の物語群ひとつとして入試に頻出する。 『源氏物語』以後の平安の物語としては、『 浜 はま 松 まつ 中 ちゅう 納 な 言 ごん 物 もの 語 がたり 』 『夜 よる の寝 ね 覚 ざめ 』 『狭 さ 衣 ごろも 物 もの 語 がたり 』 『とりかへばや物語』
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古文文法・虎の巻
例文① 識別しよう よろづの虫の お ナリ・形動・体 そろしげなる をとり集めて、 を取ってきて集めて、 ※この例文の場合も、直前にいとを入れてみて「いとおそろしげなる」となっても意味が通るので、 おそろしげなるが形容動詞とわかる。 静かなり ○ いと静かなり = とても静かだ ➡ 形容動詞 静かなり 犬なり × いと犬なり = とても犬だ ➡ 名詞+断定 なり 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 なら なり なり なる なれ なれ に 形容動詞 ナリ活用 ◦形容動詞なのか「名詞 なり 」なのかを見分けるコツは、直前に「 いと (=とても)」 を入れて意味が通るかどうかで判断することだ。 恐ろしそうなもの + ○× 訳 いろいろな虫で
4 ◦形容動詞の活用で気をつけてほしいのは、ナリ活用の形容動詞の活用語尾が断定の助動詞 なり と全く同じである点だ。 形容動詞の活用を覚えよう!
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古文文法・虎の巻
例文① ◦補助活用と呼ばれる活用は、下に助動詞が付く。例えば 心にくからず 、 心にくかりけり 、 心にくかるべし などとなる。 ◦「係り結び」の結びとしては本活用の連体形、已然形を使う。 心ふかきさましたこ 係助 そ 心 ク・形・已 にくけれ。 思慮深そうな様子をしているのが 奥ゆかしい 。 ◦右の例のような已然形の時は助動詞 けり と混乱するので、 左の例と見比べて違いをっかりと理解しておこう。 心ふかきさましたるこ 係助 そ 心 ク・形・用 にくかり け 過去「けり」已 れ。 思慮深そうな様子をしているのが 奥ゆかしかった 。 係助詞こその結びの時の 心にくけれと心にくかり けれの違いに注目! 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 く く し き けれ ○ ➡ 本活用 から かり ○ かる ○ かれ ➡ 補助 例文② 形容詞 ク活用 訳 訳
5 ◦まず形容詞の活用をしっかりマスターしよう! ここでは 心にくし を例に、ク活用の活 用を見てみよう。
こその結びの形容詞・已然形に注意!
第一部
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古文文法・虎の巻
例① ◦この時、最も間違えやすいのが連体形・已然形のところだ。 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
6 ◦下二段や上二段の動詞は現代語の感覚でとらえると間違えやすいので気をつけよう。まず は 逃ぐ怖づ を例に活用させてみよう。 逃ぐれ 怖 お づるを文法的に説明せよ!
上二段と下二段の 連体形・已然形に注意
逃ぐ 逃げ 逃げ 逃ぐ 逃ぐる 逃ぐれ 逃げよ × 終止形 逃げる
怖づ 怖ぢ 怖ぢ 怖づ 怖づる 怖づれ 怖ぢよ × 終止形 怖ぢる 已然形
例② 逃ぐれ=ガ 4 行下二段活用・ 連体形 已然形 or ―uれ=已然形 下二段 怖づる=ダ 4 行上二段活用・ ※uのところの行が活用の行 ―uる=連体形 上二段 例③ 怖づれ=ダ 4 行上二段活用・
逃ぐる=ガ 4 行下二段活用・
連体形
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◆ 品詞分解チェック ① めづる 姫君 ② の 住み給ふかたはらに、按察使の大納言の御むすめ、 ③ 心にく く なべてなら ④ ぬ さまに、親たちかしづき給ふ事かぎりなし。この姫君 ⑤ の の給 ふ事、「人びと ⑥ の 花や蝶やとめづる ⑦ こそ 、はかなく ⑧ あやしけれ 。人はまこと あり、本地たづねたる ⑨ こそ 、心ばへ ⑩ をかしけれ 」とて、よろづの虫 ⑪ の ⑫ おそ ろしげなる をとり集めて、「これが成ら ⑬ む さまを ⑭ 見 ⑮ む 」とて、さまざまなる 寵箱どもに入れさせ給ふ。中にも、「かはむしの心ふかきさましたるこそ心に くけれ」とて、明暮は耳はさみをして、手のうらにうつぶせてまぼり給ふ。 (中略) 人びと ⑯ 怖ぢ わびて ⑰ 逃ぐれ ば、その御方は、いとあやしく ⑱ なむ ののしり ⑲ ける 。 かく ⑳ 怖づる 人をば、「けしからず、ばうぞくなり」とて、いと眉黒にてなむに らみ給ひけるに、いとど心地なむまどひける。 ①ダ・下二・体 ②格助(主格) ③ク・形・用 ④打消「ず」体 ⑤格助(主格) ⑥格助(主格) ⑦係助(強意) ⑧シク・形・已(結び) ⑨係助(強意) ⑩シク・形・已(結び) ⑪格助(同格) ⑫ナリ・形動体 ⑬婉曲「む」体 ⑭マ・上一・未 ⑮意志「む」終 ⑯ダ・上二・用 ⑰ガ・下二・已 ⑱係助(強意) ⑲過去「けり」体(結び) ⑳ダ・上二・体 蝶
第一部
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第一部 3 宇 う 治 じ 拾 しゅう 遺 い 物 も の 語 がたり これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家 の隣より火いできて、風をしおほひてせめければ、 逃出て大路へいでにけり。人のかかする仏も おは し けり。又 衣 きぬ きぬ妻子なども、 さながら 内に有け り。それもしらず、ただ逃出たるを事にして、 む かひのつら にたて り 。みれば、すでに我家にうつ りて、煙、ほのほをくゆりけるまで、大かた むか ひのつら に立てながめければ、 あさましき ことと て、人どもき とぶらひ けれど、さはがず。「 いか に 」と人いひければ、むかひにたちて、家のやく るをみて、打うなづて、時々笑けり。「 哀 あはれ 、し つるせうとく 哉 かな 。 年 とし 比 ごろ はわろく書ける物かな」と
見ると、火は既に自分の家に燃え移っていて、 煙や炎がくすぶり出すころまで、その間じゅう 道の向かい側 に立って眺めていたので、「これは 驚き呆れる ことになった」といって人々が 見舞 いに来 たけれども、良秀は少しも騒がない。「 ど うしました 」と人々が言ったところ、良秀は道 の向かい側に立って、家が焼けるのを見てうな ずき、時々笑っていた。「 ああ 、たいへんなもう けものをしたことよ。 長年 まずい絵を書いてい
作者未詳 世俗説話 鎌倉時代前期 これも今はもう昔のこと、絵仏師の良秀とい う者がいた。隣の家から火事が起こり、風がそ の火を追って火が迫ってきたので、逃げ出して 表の大通りへ出 人が注文して描かせた仏も 家の中に いらっしゃっ た。また衣服も着ていな い妻や子供たちも、 そのまま 家の中にいた。良 秀はそのことは知らず自分だけ逃げ出したのを よいことにして、 道の向かい側 に立ってい た 。
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こはいかに
いふ時に、とぶらひにきたるもの共、 「
、
かくてはたち 給へる ぞ。 あさましき ことかな。物 のつき 給へる か」といひければ、「何条物のつく べきぞ。 年 とし 比 ごろ 、不動尊の火焔を あしく かきけるな り。今見れば、かうこそもえけれと、心得つるな り。是こそせうとくよ。此道を立てて世に あら ん には 仏 だに よくかき 奉らば 、百千の家もいでき な ん 。わたう達こそ、させる能もおはせ ねば 、物を もおしみ 給へ 」といひて、あざわらひてこそたて りけれ。其後 にや 、良秀がよぢり不動とて、いま に人々 めで あへり。 書いていただ今火事を見ると、こうして燃 えるものだと納得できのである。このことが 分かったことこそがもうけもだ。仏画師とし て 生計を立てて行く としたら 、仏 さえ 上手に描 き 申し上げるならば 、百や千の家も作ることが できよう 。あなたちは、これといった才能も お持ちで ないので 、なにかと物を惜しみ なさっ てください 」と言って、あざ笑って立っていた ということだ。その後から であろうか 、良秀の よじり不動といって、その絵を今なお人々が 感 心し あっている。
3 第一部
たものだ」と言うときに、見舞いに来た人々が、 「 これはどうして 、このように立ち なさっている のか。 驚き呆れた ことだ。物の怪でも取り付き なさった か」と言うと、良秀は「どうして物の 怪が取り付こうか。 長年 不動尊の火炎を 下手に
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① しみじみと趣がある ② かわいい。気の毒だ。など ③ ああ。 ◦ああ晴れたとしみじみとする ③ 感心する。 ◦目ぇづっと愛する、感心だ あはれ(なり) だに めづ
① 訪れる。 ② 問う。 ③ 見舞う。 ④ 弔問する ◦飛ぶピラフ、見舞いに訪れる とぶらふ
① 驚き呆れる。 ② 興ざめだ。 ③ 話にならない。 ④ ひどい。 ◦朝目覚ましに驚き呆れる あさまし
◦さなぎのガメラ、 全部 もとのまま さながら
① いらっしゃる。 (「あり」 の尊敬語) ② (尊敬の補助動詞) ~ていらっしゃる。 ◦大橋 (おーはす) 巨泉でいらっしゃる、サー変 ① 長年。数年来。 ◦年ごろは長年続かない おはす としごろ
※ = 文中での意味 ◆ 重要単語チェック
① もとのまま。そのまま。 ② 全部。 ③ (打消表現を伴って)全然 (~ない)。
① 悪い。 ② 下手だ。 ② ~さえ。 ◦ダニにせめてもらうだけでも、さえは幸せ あし あり ① 生きている。 ② 生活する。 生計を 立てる。 ③ 存在する。 ◦アリも生きている ① せめて~だけでも。
③ 卑しい。 ◦あっしが悪い、下手だ
① 愛する。 ② 賞美する。
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今回の古文文法・虎の巻で扱っている「り」「給ふ」 「ば」はいずれも文法の枠を越えて古文読解にからむ =確定条件とは全く別物なので、現代語の感覚で古文 を読んでいる人は早目にこの二つの違いを頭にたたき 込もう!
『宇 う 治 じ 拾 一つ一つが完結したストーリーをもっているため、入 試で出題されやすい。説話ではこの『宇治拾遺物語』 が最もよく出題されるが、他にも、前述の『今昔物語 集』、『古 こ 本 ほん 説 せつ 話 わ 集 しゅう 』、 鴨 かもの 長 ちょう 明 めい 作の『発 ほっ 心 しん 集 しゅう 』 、『古 こ 今 こん 著 ちょ 聞 もん 集 じゅう 』、『十 じっ 訓 きん 抄 しょう 』などが、入試出典の上位にランクさ れる。 已然形の「給ふれ」などの形の場合は一語で謙譲語。 「尊敬+完了」の「給へ/る」「給へ/れ」との違いを 識別することが大切。 また接続助詞「ば」のマスターは古文読解の基本 中の基本。「未然形+ば」=仮定条件と「已然形+ば」
03 ゴロゴプレミアム講義 で、 内容的には世俗説話と言われるもの。説話は平安時代 の『今昔物語集』が最大のものだが、鎌倉時代に入る と『宇治拾遺 』をはじめとして数多くの説話が成 立した。 「説話」というジャンルは古文的にはわりと平易で、 しゅう 遺 物 語 い もの がたり 』は鎌倉時代前期に成立した説話
第一部
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ものなので、しっかりマスターしてほしい。 完了の助動詞「り」は、接続が特殊で文中にも頻出 する受験生泣かせの助動詞だ。特に「給ふ」と組み合 わさって「給へ/ら・給へ/り・給へ/る・給へ/れ」 などの形で出てきた時は要注意。いずれも 四段の「給 ふ」の已然「給へ」に完了の助動詞「り」が付いた ものなので、「給へ」は尊敬 となる。 一方、後でも出てくるが、「給ふ」には下二段のも のもあり、そちらは謙譲語。例えば連体形の「給ふる」、
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古文文法・虎の巻
7 ◦接続助詞 ば は現代語の用法と混乱するので、古文読解においてなるべく早目に制覇して おきたいものだ。現代文で「雨が降れば、試合は中止だ」という場合、「降れば」は仮定 条件で「もし雨が降るならば」の意になるが、古文での「雨降れば」は 確定条件 になり、 「 雨 が降ったので 」となる全く違う意味になってしまうのだ。 、 ミ 未然形+「ば」 ー な =「~ならば」 らば 、 イ 已然形+「ば」 ー な =「~ので」 ので ① 未然形 + ば = 順接仮定条件「(もし)~ならば」 たので 、
例文③
接続助詞ば 仏だによくかき 奉 未 ら ば、 仏さえ上手に描き申し上げる と 、こうして燃えるものだと、 例文① 訳
今 見
訳
ならば ② 已然形 + ば = 順接確定条件 ⒜ 原因・理由「~ので」 ⒝ 単純接続「~たところ・~すると」 ⒞ 恒常条件「~するといつも」
今火事を見る
已 れ ば、かうこそもえけれと、
例文②
訳 風をしおほひてせめ け 已 れ ば、 風がその火を追って火が迫ってき
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古文文法・虎の巻
完了り の接続 ◦サ変の未然形は せ 、四段の已然形は エ段 (のばすと「︱エ」になる)なので、要するに 完了 り はエ段に付く助動詞だ、とまとめることができる。 これを 「エ段+ら・り・る・れ」 と呼んでいる! ている のか。 エ段に付く「ら・り・る・れ」 は必ず完了「り」! サ さ 変の未 み 然形 +り 四 し 段の已 い 然形 ➡ エ段 + ➡ エ段 + らりるれは完了! ら 完了 り の活用したもの りるれ
8 りかちゃんサ さ 未 み 四 し 已 い ! ◦完了の助動詞 り は非常に特殊な接続をするので、まずはその確認から。
例文②
例文①
訳 むかひのつらに た タ・四・已 て り 完了「り」終 。 道の向かい側に立ってい た 。 こはいかに、くてはたち 給 ハ・四・已 へ る 存続「り」体 ぞ。 これはどうして、このように立ちなさっ 訳
第一部
3
※完了りには存続「~ている」
の意味もあるので注意!
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古文文法・虎の巻
四段活用の給ふ は 尊敬語 たか。 ◦完了 り との組み合わせでも頻出し、入試でもよく問われる。「給へらば」「給へりけり」 「給へれど」など形に注意。 ◦命令形 給へ は「~してください」と訳すのがポイント。 物をもおしみ 給 ハ・四・命・尊 へ 。 物を惜しみ なさってください 。 ➡ 四段活用の給ふは尊敬語 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 給は 給ひ 給ふ 給ふ 給へ 給へ 例文② 例文① 9 訳 訳 ◦ハ行四段活用の 給ふ ① 本動詞「お与えになる・下さる」 ② 補助 ~なさる・お~にな このうち、②の補助動詞の用法が最も多く、文中に頻出する。 は大きく二つに分けると次のようになる。 物のつき 給 か。 物の怪でもとりつき ハ・四・已・尊 完了「り」体 へ る なさっ
四段の給ふは已然形と命令形に注意!
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◆ 品詞分解チェック これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家の隣より火いできて、風をし おほひてせめければ、逃出て大路へいで ① に ② けり 。人のかか ③ する 仏も おはし け り。又 衣 きぬ ④ き ⑤ ぬ 妻子なども、 さながら 内に有けり。それもしらず、ただ逃出た るを事にして、 むかひのつら に ⑥ たて ⑦ り 。(中略)「 哀 あはれ 、しつるせうとく 哉 かな 。 年 とし 比 ごろ はわろく ⑧ 書け ⑨ る 物かな」といふ時に、とぶらひにきたるもの共、「 こはいか に、かくてはたち ⑩ 給へ ⑪ る ぞ。 あさましき ことかな。物のつき給へるか」とい ひければ、「何条物のつくべきぞ。年 とし 比 ごろ 、不動尊の火焔をあしくかきけるなり。 今見れば、かうこそもえけれと、心得つる ⑫ なり 。是こそせうとくよ。此道を 立てて世にあら ⑬ ん には仏 だに よくかき ⑭ 奉ら ⑮ ば 、百千の家もいでき ⑯ な ⑰ ん 。わ たう達こそ、させる能もおはせ ⑱ ね ⑲ ば 、物をもおしみ ⑳ 給へ 」といひて、あざわ らひてこそたりけ。(後略) ①完了「ぬ」用 ②過去「けり」終 ③使役「す」体 ④カ・上一「着る」未 ⑤打消「ず」体 ⑥タ・四・已 ⑦完了(存続)「り」終 ⑧カ・四・已 ⑨完了「り」体 ⑩ハ・四・已(尊敬) ⑪完了(存続)「り」体 ⑫断定「なり」終 ⑬仮定「ん(む)」体 ⑭ラ・四・未 ⑮接助( 条件) ⑯強意「ぬ」未 ⑰推量「ん(む)」終 ⑱打消「ず」已 ⑲接助「ば」(確定条件) ⑳ハ・四・命(尊敬)
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第一部 4 玉 た 勝 か つ 間 ま 作者 本 もと 居 おり 宣 のり 長 なが 随筆 江戸時代後期 兼好法師がつれづれ草に、花は盛りに、月は く まなき をのみ見るもの かは とかいへ る は、いかに ぞや。いにしへの歌どもに、花は盛りなる、月は くまなき をも見たるよりも、花のもとには風を か こち 、月の夜は雲を いとひ 、あるは待ち、をしむ 心づくし を詠め る ぞ多くて、心深きも、ことにさ る歌に多かるは、みな、花は盛りをのどかに見 ま ほしく 、月は くまなから むことを思ふ心 の せちな る からこそ、さも え あら ぬ を嘆きたる なれ 。いづ この歌に かは 、花に風をまち、月に雲をねがひた るはあらむ。 さるを 、かの法師が言へ る ごとくな るは、人の心にさかひたる、後の世の さかしら 心 兼好法師が、その著『徒然草』に、「花は満開 の時に、月は 一点の曇りもない 時にだけ眺める べきもの であろうか、いや、そうとは限らない 」 とかいっ ている のは、どうであろうか。古歌な どには、花は満開であるのを、月は 一点の曇り のない のだけを眺めたのよりも、花の咲いた下 では風の吹くのを 嘆き 、月の夜は雲が月を隠す のを 嫌い 、あるいは花の咲き、月の出るのを待ち、 花の散り、月の入るを惜しむ もの思い を詠ん だ ものが多くて、情趣が深いのも、ことにそう いう歌に多いのは、それはみな、花は満開のと ころをのどかに見 たいと思い 、月 くまなく照っ てい てほしいと願う心 が 切実である からこそ、 そう することができない 様子を嘆いているの で ある 。どこのだれ 、花咲いている時に 風の吹くのを待ち望み、月の照っている時に雲 の出るを願も があるだろうか、そんなも ま
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の つくり 風 みやび 流 にして、まことの みやび心 にはあら ず。かの法師がいへ る 言 こと ども、この たぐひ 多し。 すべて、 なべて の人のねがふ心にたがへ る を みや び とするは、つくりごとぞ多かりける。恋にあへ る をよろこぶ歌は心深から で 、あはぬを嘆く歌の み多くして心深きもあひ見むことをねがふから なり。人の心は、うれしき事はさしも深くはおぼ えぬものにて、ただ心にかなはぬことぞ深く身に しみてはおぼゆる わざ なれば、すべてうれしきを よめ る 歌には心深きはすくなくて、心にかなはぬ すぢ を悲しみうれへたるに あはれなる は多きぞか し。 さりとて 、 わびしく 悲しきを みやび たりとて ねがは むは 、人のまことの心ならめや。 のはない 。 それなのに 、あの兼好法師がいっ て いる ようなことは、人情に背いた、後世の こざ かし 心から出た 偽りの風流 であって、真情か ら出た誠の 風流心 ではない。あの法師がいっ て いる 多くの言葉には、の 種類のもの が多い。 すべて、 普通 の人が願っている心に反 している ことを 風雅 と考えるのは、不自然な偽り事が多 いものである。恋人に会っ た ことを喜ぶ歌は情 趣が深く なくて 、会わないことを嘆く歌ばかり が多く詠まれて情趣が深いのも、人はもともと 恋人に会うことを願うからである。人の心とい うものは、うれしいことはそれほど深く印象に 残らぬもので、ただ思い通りにならなかったこ とが、深く身にしみて思われる こと であるので、 すべて、うれしいことを詠ん だ 歌には情趣が深 いものは少なくて、思うにまかせぬ 方面 を、悲 しみうれえている歌に、 しみじみと印象深いも の が多いのであるよ。 そうだからといって 、 つ らく 悲しいことを、 風流 であると考えて望む と した、それは 、果たして人間の真情であろうか、 そうではあるまい。
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◦せっちん ひたすら 大切だ
◦所、ヅックシ もの思い
① 嫌う。 ◦伊藤夫人は嫌いだ いとふ
① 他のせいにする。 ② 嘆く。 不平を言う。 ◦「カッコつっけるな、 お前のせいだ」 と嘆く ③ こざ い。 ◦坂下 かしこい、こざかしい かこつ さかしら(なり)
※ = 文中での意味 ◆ 重要単語チェック ③ 隠し立てがない。 ◦クマ梨食べる、抜け目なく。かげりがない ができない。 ◦えー、ずっとできないの? くまなし え(~ず) ① 抜け目がない。 ② かげりがない。
せち(なり)
こころづくし
③ 素晴らしい。 ④ 切実だ。
① ひたすらだ。 ② 大切だ。
① あれこれとものを思こと。
◦みーやビカビカ都会風 みやび
◦鍋って 普通、すべってく ① しみじみと趣がある。 ② かわいい。 気の毒だ。立派だ。など ③ ああ。 ◦ああ晴れたとしみじみとする なべて あはれ(なり)
① 都会風(に洗練された優雅さ)。風流。
① かしこい。 ② 気丈だ。 ① すべて。 ② 普通。 ② 一面に。 ③ (なべてならず)並一通りではない。
① (下に打消表現を伴って) ~すること
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『玉 たま 勝 かつ 間 ま 』 なが (1730~1801) は『源氏物語』の注釈書である げん 氏 じ 物 もの 語 がたり 玉 。『玉勝間』は本居 宣長の随筆で、彼の文学観・学問観・人生観を綴った もの。 「国学」というのは江戸時代に起こった学問で、古 今回の『玉勝間』は本居宣長の随筆で、比較的読み やすい。古文文法・虎の巻では「は・かは」は反語 もと おり のり 居 宣 長 『源
中でも せた。弟子としては本居宣長の他に、村 むら 田 た 春 はる 海 み 、加 か 藤 とう かげ などがいる。大学入試でも、賀茂真淵・村田春海・ 辞考』 千 蔭 ち
の作者、 たま の小 お 櫛 ぐし 』 でも有名な 江戸時代後期の国学者 事記』『日本書紀』『万葉集』『源氏物語』などの古典 を研究して、古代日本の思想・文化をあきらかにしよ うとしたもの。 国 こく 学 がく 四 し 大 たい 人 じん と呼ばれる、 荷 か 田 だの 春 あずま 満 まろ 、 賀 か 茂 もの 真 ま 淵 ぶち 、 本 もと 居 おり 宣 のり 長 なが 、平 ひら 田 た 篤 あつ 胤 たね によって完成された。 賀茂真淵 は本居宣長の師であり、 『冠 などの『︱考』シリーズを書いて国学を発展さ 『万葉考』 いや降らないだろう」と訳す。結論として「反語=打 消」なので、この場合だと結論は「雨は降らない」と いうことを押さえるがポイントだ。 が多い、というテーマを扱う。たとえば入試で「雨や は降らん」とあれば、口語訳は「雨が降るだろうか、
04 ゴロゴプレミアム講義 本
第一部
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そして本題の本居宣長であるが、センター試験です でに複数出題されたという点で特筆すべき人であり、 今後も要チェックの人物。前述の『源氏物語玉の小櫛』 の他に、三十年を費やして完成させた『古事記』の注 釈書 『古事記伝』 、国学入門書の 『初 うい 山 やま 踏 ぶみ 』 などがある。
加藤千蔭は上位大学でよく出題されるので注意が必要 だ。
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古文文法・虎の巻
1 ◦入試文法でる順 位の係り結びの中で、 や ・ か は①疑問、②反語の2つの意味をもって いる。そのどちらで使われているかの判断は文脈によるしかないが、 やはかは という形 で使われるとほとんどが反語の意味になる。 であろうか 、 いや 、そうとは限ら ない 。 10
例文②
例文①
係助詞 や か 文脈判断 月はくまなきをのみ見るものかは。 月は一点の曇りもない時にだけ眺めるべきもの ※文末にかがあり、結びない用法。 いづこの歌にかは、花に風をまち、月に雲をねがひたるはあらむ。 どこのだれの歌に、花の咲いている時に風の吹くのを待ち望み、月の照っている時に雲の出 るのを願うものがある だろうか 、 いや 、そんなものは ない 。 やはかはは反語! や ①疑問 か ②反語 やは ≒ 反語 「~だろうか、いや~ではない」 かは 訳 訳 ➡
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◆ 品詞分解チェック 兼好法師がつれづれ草に、花は盛りに、月は ① くまなき をのみ見るもの ② かは とか ③ いへ ④ る は、いかにぞや。いにしへの歌どもに、花は盛りなる、月は くま なき をも ⑤ 見 たるよりも、花のもとには風を かこち、月の夜は雲を いとひ、あ るは待ち、をしむ 心づくし を ⑥ 詠め ⑦ る ぞ多くて、心深きも、ことにさる歌に多 かるは、み、花は盛りをのどかに ⑧ 見 ⑨ まほしく 、月は くま ⑩ なから ⑪ む ことを 思ふ心の ⑫ せちなる から ⑬ こそ 、さも え あら ぬ を嘆きたる ⑭ なれ 。いづこの歌に ⑮ かは 、花に風をまち、月に雲をねがひたるはあら ⑯ む 。 さるを、かの法師が ⑰ 言 へ ⑱ る ごとくなるは、人の心にさかひたる、後の世の さかしら 心のつくり 風 みやび 流 にして、まことのみやび心 ⑲ に はあらず。かの法師がいへる 言 こと ども、この たぐ ひ 多し。(中略) さりとて、 わびしく 悲しきをみやびたりとてねがは ⑳ む は、人 のまことの心ならめや。 ①ク・形・体 ②係助(反語) ③ハ・四・已 ④完了(存続)「り」体 ⑤マ・上一用 ⑥マ・四已 ⑦完了「り」体 ⑧マ・上一未 ⑨願望「まほし」用 ⑩ク・形・未 ⑪婉曲「む」体 ⑫ナリ・形動・体 ⑬係助(強意) ⑭断定「なり」已(結び) ⑮係助(反語) ⑯推量「む」体(結び) ⑰ハ・四・已 ⑱完了(存続)「り」体 ⑲断定「なり」用 ⑳仮定「む」体
第一部
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第一部 5 伊 い 勢 せ 物 も 作者未詳 歌物語 平安時代前期 むかし、 あてなる 男ありけり。その男のもと な りける 人を、 内 ない 記 き にありける藤原の敏行といふ人 、かのあじなる人、案をかきて、かか の 語 がたり
りければ せてやりけり。 めで まどひ にけり。さて男 の よめ の ながめ てあふよしもなし 返し、例の男、女にかはて、 漬つ らめ涙川 ながると 聞かば頼ま む る、 つれづれ 漬 袖のみ ひ 浅みこそ袖は ち
よばひ けり。されど若ければ、 文 ふみ も をさをさしか ら ず、ことばもいひしらず、 いはむや 歌はよま ざ にまさる涙川
さへ
身
昔、 高貴な 男がいた。その男の所 にいた 女の 人に、内記だった藤原敏行という人が 言い寄っ た。けれども女はまだ若かったので、 手紙 も 一 人前にしっかり書け ず、言葉の使い方も知らず、 まして 歌は詠ま なかったので 、その主人が、下 書きを 、女に書かせて送 。それを見て 男は ひどく 感心し てしまった。さてその男 が 詠 んだ歌、 =(長雨のために川の水が増すように、) 所在 ない もの思い の涙の量が増て涙の川とな り袖が 濡れる ばかりで、二人の会う手立てが ないことだ。 その男からの返歌を、例の男が女に代わって詠 んだ、 =あなた流す涙川が浅いので袖しか 濡れ な いのでしょう。涙が深い流れとなり身体 まで 流れると 聞くならば あなたを 頼りにいたしま
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男、 文 ふみ おこせたり。 得て のふりぬべになむ見 わづらひ はべる。 身さいは 、この雨はふら じ 」といへりければ、例 の男、女にかはりてよみてやらす。 身を知る雨はふりぞまされる とよみてやれりければ、みのもかさも取あへ で しとどにぬれて まどひ 来にけり。 と言ってよしたので、例の男が、女にかわっ て詠んで送った。 =幾度も私を思ってくれるのかくれないのかあ なたに 尋ねることが難しいので 、その答えが ひあらば かずかずに思ひ思はず だ 。 男が女に手紙をよこした。 契りを結んだ 後の に幸運があるならば
めで
て、いままで、
り ければ、男いといたう なる 。 「雨
といへ 巻きて文 ふ 箱 ばこ に入れてありとなむいふ のちのこと なりけり 。 問ひがたみ
5 第一部
しょ う。 と言っ た ので、男はたいそう 感心し て、現在ま で手紙を巻いて文箱に入れてある ということ 。「雨が降りそうなのであなたの 、この雨は降ら ないだろう 」
こと であった 所へ行こうか どうしようか思案し ています。 私 わかる雨がますます強く降ることです。(強 い雨を冒してあなたが来るかどうかで、あな たの愛がわかるので) と詠んで送ったので、男は蓑も笠も身につけ な いで 、びっしょり濡れて あわてて やってきた。
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③ 感心する。 ◦目ぇづっと愛する感心だ めづ
◦ヲー、さお指して しっかりしてる をさをさし
② 上品だ。優雅だ ◦あてだっせ、上品で 身分が高いのは ① 書物。 ② 手紙。 ③ 漢学。漢詩。 ◦文男、手紙と本を読んでカンカンガクガク あて(なり) よばふ ふみ ① 言い寄る。 ② 呼び続ける。 ◦よー、バフバフ言い寄る
※ = 文中での意味 ◆ 重要単語チェック
① 愛する。 ② 賞美する。
① しっかりしている。大人びている。
① 身分が高い。高貴である。
◦わづらふ 鹿寝る、病気になる わづらふ
① あてにする。 ② 信頼する。 ③ あてにさせる。④ 頼みに思わせる。 ◦タコ飲む男をあてにする たのむ
① 濡れる。水につかる。 ◦ひつこくすると濡れる ひつ
② 詩歌を節をつけて口ずさむ ◦長嶋無理にもの思う、 長嶋無理に歌を詠む ながむ
④ ひどく (~する)。 ◦窓ふき屋、道に迷ってひどく あわてる まどふ
① 病気になる。 ② 苦しむ。 ③ ~しかねる。どうしようか思案する。
① 迷う。 ② 思い悩む。 ③ あわてる。 ① もの思いに沈んでぼんやりと見る。
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もの 皇女に恋して駆け落ちの末、捕まって離れ離れにされ る悲恋話(身分違いが生んだ悲恋)などが書かれこ とになる。 『伊勢物語』は「昔、男ありけり」と語り出されている。 「歌物語」だけに、各段に必ず和歌が詠まれているが、 中でも男女の和歌のやりとりが中心。今回も男の歌に 一人。身分も教養もある上に、歌詠み上手だったのだ から、そりゃあモテモテだったろうと想像される。平 安貴族の 「みやび(=都会風に洗練された美意識) 」 を代表する人物とも言え、あの『源氏物語』の光源氏 も、このプレイボーイ在原業平に少なからず影響され ていると言われている。 原 業 平 対して女が返歌しているが、実は本当に歌を詠んだ は女ではなく、女の保護者にあたる「あてなる男」。
『 伊 勢 物 語 在 ひら 。そこから別名『在五中将の日記』『在 五が物語』と呼ばれたりする。主人公の在原業平は、 がたり 』は平安時代前期の「歌物語」 で、主人 公は あり わらの なり
い せ 祖父が平城帝というれっきとした皇族の血筋なのだ が、藤原氏の他氏排斥によて出世の道は閉ざされて いる。そこで都を離れて地方に下る「東 あずま 下 くだ り」の話や、
05 ゴロゴプレミアム講義
第一部
5
何かと知恵を貸したりしていた。『枕草子』における 清少納言中宮定子の関係、あるいは紫式部と中宮彰 子の関係なども、要するに中宮の知恵袋として、女房 の清少納言や紫式部が雇われていたわけだ。 さて、話を『伊勢物語』に戻すと、落ちぶれている とは言え、主人公の在原業平は皇族の末 まつ 裔 えい で六歌仙の
の下手な場合など)は、代作者がいた。また、身分の 高い貴族女性には「女房」が仕えており、彼女ちが
こうしたことは当時多く行われていたことで、若い 女性やまだ教養が十分でない女性の場合(というか歌
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古文文法・虎の巻
助動詞なりの識別 巻きて文箱に入れてありと な 係助 む い 終 ふ な 伝・推「なり」体 る。 手紙を巻いて文箱に入れてある であった 。 す サ変・終 なり 伝聞推定 す サ変・体 る なり 断定 ➡ 11 男も す 終 な 伝・推 る 日記といふものを女もしてみむとて す 体 る な 断定 り 。 ◦ なり という助動詞は二つの意味がある。まずはこの二つをちゃんと識別して覚えること が大切だ。そのための最高の例文が「男もすなる」で始まる 『土佐日記』(作・紀貫之) の冒頭文だ。この一文をぜひ暗唱してしまおう! 。 「~にいる・~にある」となる場合がある。 ということだ 終 (ただしラ変型は連体形) 止形+なり 伝聞「~ということだ・~そうだ」 推定「~らし・~ようだ」 連体形 +なり 断定「~だ・である」 体言 ※存在を表し、 例文① にいた 人を、
例文②
訳 得てのちの こ 体言 と な 断定 り け 過去 り 。 契りを結んだ後のこと
訳 訳
例文③
その男の も 体言 と な
り け 過去 る 人を、 その男の所
断定の存在用法
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古文文法・虎の巻
12 ◦動詞の中でよく問われる下二段活用だが、さらに特殊な形で、たった三つしかないものと して 得 う ・ 寝 ぬ ・ 経 ふ が狙われる。この三つの下二段は語幹と語尾の区別がなく、現代語とは 違う活用をするので見てみよう。 狙われる下二段活用動詞 得 う ・寝 ぬ ・ 経 ふ !
特殊な下二段 活用動詞 ◦どれも連体形と已然形が間違えやすいがわかるかな? また活用の行にも注意で、 得 は ア行 、 寝 は ナ行 、 経 は ハ行 であって、決してラ行ではない! 得 う 得 え 得 え 得 う 得 う る 得 う れ 得 え よ × 得 え る・ 得 え れ 寝 ぬ 寝 ね 寝 ね 寝 ぬ 寝 ぬ る 寝 ぬ れ 寝 ね よ × 寝 ね る・ 寝 ね れ 経 ふ 経 へ 経 へ 経 ふ 経 ふ る 経 ふ れ 経 へ よ × 経 へ る・ 経 へ れ
例文①
得
※ 得
訳 ア・下二・用 てのちのことなりけり。 契りを結んだ後のことであった。
う はここでは「結婚する」の意味。
第一部
➡ 接続助詞 て は連用形に付くので 得 え は連用形。
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連体形 と 已然形 に注意!
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が~ので
」と
古文文法・虎の巻
例文① ので ◦実はこの「をみ語法」は を の部分がなくて、「 み 」だけでも 「が~ので」と訳すことがある。本文中の例がそれにあたる。 浅みこそ袖は漬つらめ あなたの流す涙の川 が 浅い ので 袖しか濡れないのでしょう。 ※形容詞浅しの語幹「浅」に接尾語みの付いたもの。 かずかずに思ひ思はず問ひがたみ 幾度も私を思ってくれるのかくれな かあなたに尋ねること が 難しい ので ※形容詞がたしの語幹「がた」に接尾語みの付いたもの。 ヲー、ミーが形容詞なので 例文② 例文③ 訳 訳 訳 ゴ 瀬 を 速 み が 川瀬の流れ
13 「をみ語法」はをがなくても成り立つ! ◦「をみ語法」とは、「瀬を速み」=「流れが速いので」のように、「を~み」=「 訳すものだが、実はこれがちょっとクセモノなのだ。 速い 形容詞の語幹 +
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(前略) 浅みこそ袖は漬つ ① らめ わづらひはべる。身さいはひあら ⑭ ば 、この雨はふら ⑮ じ 」といへりければ、例 の男、女にかはりてよみてやらす。 かずかずに思ひ思はず問ひがたみ身を知る雨はふり ⑯ ぞ まされ ⑰ る と と ⑦ なむ 。 男、文おこせたり。 ⑨ 得 てのちのこと ⑩ なり けり。「雨 いふ ⑧ なる ⑪ ふり ⑫ の ぬ ⑬ べき になむ見
② 頼ま ③ とよみてやれりければ、みのもかさも取りあへ ⑱ で 、しとどにぬれて ⑲ まどひ来 ⑳ に けり。
◆ 品詞分解チェック ④ いへ ⑤ り ければ、男いと ⑥ いたう めでて、いままで、巻きて文箱に入れてあり 涙川身さへながると聞か ば む
第一部
5
⑨ア・下二・用 ⑩断定「なり」用 ⑪格助(主格) ⑫完了(強意)「ぬ」終 「り」体(結び)
⑲カ変・用 ⑳完了「ぬ」用
⑱接助(打消)
⑰完了(存続)
⑯係助(強意)
⑮打消推量「じ」終
⑬推量「べし」体 ⑭接助(仮定条件)
⑦係助(強意) ⑧伝聞「なり」体(結び)
③意志「む」終 ④ハ・四・已 ⑤完了「り」用 ⑥ク・形・用(ウ音便)
②接助(仮定条件)
①現在推量「らむ」已(結び)
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第一部 6 大 や 和 物 も ごと、 御 遊び あり。「このわたりのうかれめども、 あま 、 と の 語 がたり にけり。 てい じ みかど 、鳥 とりかひのゐん 飼院 に おはしまし 例の
亭 子 の 帝 た まゐりて さぶらふ なかに、声 おもしろく ばら の 申すやう、「 大 おほ 江 え の 玉 たま 淵 ぶち がむすめと申す者、 めづらしう まゐりてり」と申しければ、 見させ 、さま かたち も清げなりければ、 あはれ がり たまうて、うへに召しあげたまふ。「そもそ もまことか」など 問はせたまふに 、鳥飼といふ題 を、みなみな人びとに よませたまひにけり 。 おほ せ たまふやう、「玉淵はいと らうあり て、歌など よくよみ き 。この鳥飼といふ題をよく つかうまつ たまふに
ま あるものは 侍 はべ りや」と問はせたまふに、うかれめ よし
作者未詳 歌物語 平安時代中期 し上げている 中で、声が 趣深く 、 風情 のある者 が控えているか」と亭子の帝がお尋ねなさると、 遊女たち が 申しあげるには、「大江の玉淵の娘と いう者が 素晴らしく 参上しております」と申し あげたので、帝が 御覧になると 、姿も 容貌 も美 しい様子であっので、 しみじみと感心 なさっ て、上にお呼び寄せなさる。そして、「一体全体、 大江の玉淵の娘だというのは本当のことか」な どと お尋ねなさった時に 、鳥飼という題をお出 しになって、お供の人みんなに歌を 詠ませなさっ た 。そこで帝が おっしゃる には、「大江の玉淵 は、いう 熟練してい て、歌なども巧みに詠 ん だ 。おまえがこの鳥飼という題を上手に 詠ん だ としたら 、それによって玉淵の本当の子と思 亭子の帝が離宮の鳥飼の院に お出かけになっ た。 いつもの ように 管弦の遊び を催しなさる。 「この辺の遊女たちが、 たくさん 参って お仕え申
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む 」とおほせたまひけり。 うけたまはり て、 すな 、 あさみどりかひある春にあひぬれば なく す。帝、御袿
はち とよむ時に、帝、 ののしり あはれがりたまうて、
り たら むに したがひて、まことの子とはおもほさ
御 しほたれ たまふ。人びともよく 酔 ゑ ひたるほどに 。「 ありとある 上 かん 達 だち 部 め 、みこたち、四位 五位、これに物ぬぎて取らせざら む 者は、座より 立ちね 」とのたまひければ、かたはしより、 上 かみ 下 しも て、酔ひ泣きいと うちき ひとかさね、
袴 はかま たまふ みな かづけ たれば、 かづき あまりて、ふた 間 ま ばか り積てぞ置きたりける。
かすみならねどたちのぼりけり
6 第一部
お う 」とおっしゃった。そのおことばを お受け て、玉淵の娘は すぐに 、 =薄緑色にかすむ、生きがいのある春に巡り合っ たので、春霞ではないが〔=取るに足らない 卑しい者すが〕、霞が立ち上るようにこの御 殿に参上したのです。 と歌を詠んだ時に、帝は 大声をあげて しみじみ と感動しなさって、 涙を流し なさる。おそばの 人々も十分に酔っているときであって、感動の あまり酔い泣き またとない ほどにする。帝が 御袿一揃い袴とを褒美として お与えになる 。 そして帝は「ここにいる すべての 上達部や皇子 たち、四位、五位の殿上人よ、この娘に着物を 脱いで与えない ような 者は、この座から 立ち去っ てしまえ 」とおっしゃったので、片端から、 身 分の高い人も低い人も みな衣服を 与え たので、 玉淵の娘は いただき 余って、二間ほどに積み重 ねて置いたのであった。 し
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① 素晴らしい。 ② 新鮮だ。 ③ 見慣れない。例がない ◦めづらしいのは素晴らしく 新鮮だ ③ 褒美として与える。 ◦カズ君、潜って褒美をもらう めづらし になし かづく ① 水中に潜る。 ② 褒美としていただく。
① お仕えする。 ② ございます。 ③ ~ます。~でございます。 ◦ 「三郎 はベリーマッチョでございます」 とお仕えする ④ 風情。趣 ⑤ そぶり。 ◦よし子様の風情あるそぶりには理由がある あそび さぶらふ・はべり よし ① 由緒。 ② 手段。方法。 ③ 理由。
① 詩歌管弦。 ② 神事としての芸能・狩猟。行楽。 ◦遊び欲しいか、缶蹴りゲンコ ① 慣れている。 経験を積んでいる。 ◦らうめんアリ食う、慣れている らうあり ① 容貌。顔かたち。
※ = 文中での意味 ◆ 重要単語チェック ① いつもの。 ② 普通の。 ③ いつものように。 ◦「例のをくれ」「いつものですね、旦那」 ② 外形。姿 ◦形より大きさをご要望 れいの かたち
① またとない。 比べるものがい。二 つとない。 ◦ニーナ死ぬな、またとない
① 泣く。涙で袖が濡る。 ② しずくが垂れる。 ◦しほ、たるんでるぞ。ポタポタ 泣くな しほたる
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ゴ 与える)」場合が多く、また頂いた側はそれを肩にか けるという動作で、「かづく(=褒美を頂く)」のが作 法だった。その様子を想像するとなかなか風情がある ように思えるね。 威勢 のいい大和君が、 「ヘーイチューハイ」 と歌うたう のだから誰も逆らえなかっとも言えるかな。 当時、和歌をすばらしく詠んだりした場合の褒美と しては、今回のように着物を「づく(=褒美として 『 大 和 物 語 代中期に成立した「歌物語」 。平安の歌物語は、その 後成立した『平 へい 中 ちゅう 物 もの 語 がたり 』を入れて全部で三つ。 ゴロは「威勢のいい大和君が、『ヘーイチューハイ』 と歌うたう」。「威勢 → 『伊勢物語』 」、「大和君 → 『大 和物語』 」、「ヘーイチューハイ → 『平中物語』 」、「歌 うたう → 『歌物語』 」と、なかなかうまく入っている ゴロのつもり(笑)。 『大和物語』は「歌物語」とは言うものの、やや説 話的で、「 姨 おば 捨 すて 山 やま 」のお話などが入っている。その意 もの がたり 』は前回の『伊勢物語』についで平安時 やまと 味では比較的読みやすい文章だ。また『伊勢物語』の ように一人の主人公がいるわけでもなく雑多な短編集 といっていい内容になって 。 今回は、「亭子の帝」が大江の玉淵の娘が詠んだ和
06 ゴロゴプレミアム講義
歌に感動して涙まで流し、さらには褒美として着物を 「たまふ(=お与えになる)」というお話。 まわりの上 かん 達 だち 部 め たちも酔っ払っていたとはいえ、褒 美の着物が積み上がって二間(3m以上)にもなった というだから、大した感動ぶり。まあ、帝の命令
第一部
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古文文法・虎の巻
完了ぬ ◦このうち、連用形 に 、終止形 ぬ 、命令形 ね が識別問題で頻出する。ここでは連用形 に に絞ってマスターしよう。実は完了の助動詞 ぬ の連用形 に は次のようにある決まった形 で出てくることが大半なのだ な に ぬ ぬる ぬれ ね
14 完了ぬの連用形には大切! ◦完了の助動詞 ぬ はなにかとよく出てくる。そこでまずは活用の確認から。
例文①
完了の助動詞ぬ の連用形に り 。 鳥飼の院にお出かけになっ た 連用形+ に 完了「ぬ」用 + 訳 鳥飼院に お サ・四・用 はしまし に 完了「ぬ」用 過去「けり」終 け
。 けり の活用したもの ➡ けら・けり・ける・けれ
けむ の活用したもの ➡ けむ・けめ き の活用したもの ➡ き・し・しか たり の活用したもの ➡ たら・たりたる・たれ
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古文文法・虎の巻
15 ◦古文を解釈していく上で、助動詞 む (ん)は非常に大切な役割を果たす。ここでしっかり む (ん)の意味と訳を覚えよう!
例文②
例文①
推量の助動詞むの意味 よくつかうまつりたら む 仮定 にしたがひて、まことの子とはおもほさ む 意志 。 上手に詠んだ としたら ような 者は、 意志「~しよう」➡ 一人称+む(ん) ※P 参照 推量「~だろう」➡ 三人称+む(ん) 68 水 い て き か か か かって って え えーん ーん 訳
す これに物ぬぎて取らせざら む 婉曲 者は、 この娘に着物を脱いで与えない 訳
むは「水滴かかってえーん」!
滴 、それによって玉淵の本当の子と思お う 。 婉曲「~ような」➡ む(ん)+体言(助詞) 仮定「~としたら」➡ むに・むは など 勧誘「~してはいかが ➡ 二人称+む(ん) 適当「~するのがよ」
第一部
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過去問正解分析
その他 19.1%
仮定 7.7% 推量 7.7%
意志 38.1% 婉曲
21.2%
こそ~め 13.5%
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古文文法・虎の巻
16 ◦文中に ね が出てくると識別問題になる可能性が高い。それは、意外に受験生が二つの ね について覚えていないという盲点を突いたものだ。
ねの識別 ◦完了 ぬ と打消 ず は ぬ と ね という同形をそれぞれ持っているので、この二つの ぬね が 入試では問われる。見分け方のコツとしては、まず意味と訳が全く違うので文脈判断で識 別する。さらに ね が命令形なら完了、已然形なら打消、というように活用形で確認すれ ば完璧だ。 かすみ な 断定「なり」未 ら ね 打消「ず」已 ど 春霞 ではない が 座より 立 タ・四・用 ち ね 完了「ぬ」命 。 この座から 立ち去ってしまえ 。 な ─ に ─ ぬ ─ ぬる ─ ぬれ ─ ね 命 ➡ 連用形 に付く ず ず ず ぬ ね 已 ○ ➡ 未然形 に付く ざら ざり ○ ざる ざれ ざれ 完了ぬの命令形 「してしまえ」 打消ずの已然形 「~ない」 ねの識別は意外に難しい! 例文① 例文② 訳 訳 ね
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てい よくみ ⑦ き 。この鳥飼といふ題をよく ⑧ つかうまつり たら ⑨ む にしたがひて、ま ことの子とはおほさ ⑩ む 」とおほせたまひけり。(中略)
亭 子 の 帝 、 鳥 もそもまことか」など問は ② せ ③ たまふ に、鳥飼といふ題を、みなみな人びとに よま ④ せ ⑤ たまひ にけり。 ⑥ おほせ たまふやう、「玉淵はいとらうありて、歌など じ みかど とりかひのゐん 飼院 に ① おはしまし
みな ⑰ かづけ
人びともよく ⑪ 酔 ゑ ひ たるほどにて、酔ひ泣きいと ⑫ になく す。帝、御 袿 うちき ひとか 。「ありとある め 、みこたち、四位五位、これに物ぬぎて あまりて、ふた間 さね、 袴 はかま ⑬ たまふ 取らせ ⑭ ざら ⑮ む 者は、座より立ち ⑯ ね 」とのたまひければ、かたはしより、 上 かみ 下 しも たれば、 上 達 部 かん だち
◆ 品詞分解チェック にけり。例のごと、御遊びあり。(中略)「そ
⑱ かづき
ま ばかり積みて ⑲ ぞ 置きたり ⑳ ける 。
第一部
6
⑲係助(強意) ⑳過去「けり」体(結び)
⑱カ・四・用自動詞)
⑭打消「ず」未 ⑮婉曲「む」体 ⑯完了(強意)「ぬ」命 ⑰カ・下二・用(他動詞)
⑪ハ・四・用 ⑫ク・形用 ⑬ハ・四終(尊敬)
⑩意志「む」終
⑧ラ・四・用 ⑨仮定「む」体
⑦過去「き」終
⑥サ・下二・用
④使役「す」用 ⑤ハ・四・用(尊敬)
①サ・四・用 ②尊敬「す」用 ③ハ・四・体(尊敬)
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第一部 7 十 じ 訓 き 作者未詳 世俗説話 鎌倉時代中期 和泉式部、保昌が妻にて、丹後へ下りたりける あとに、 歌 うた 合 あはせ どものありけるに、 小 こ 式 しき 部 ぶの 内 ない 侍 し 、歌 詠みにら れ て、歌を詠みけるに、定頼中納言た はぶれて、小式部内侍 の 局 つぼね にありけるに、「丹後へ つかし ける人は参りたりや。いかに 心もとなく おぼすらん 。」と言ひ入れて、 局 つぼね の前を過ぎけるを、 御 み 簾 す よりなから ばかり 出でて、わづかに 直 なほ 衣 し の袖 を控へて 大江山いくのの道の遠ければ まだ ふみ もみず天 あま の橋 はし 立 だて と詠みかけける。 思はずに 、 あさましく て、「こはいかに、かかる 和泉式部が藤原保昌の妻として、丹後の国に 下った後に、京で歌合せがあったとき、娘の小 式部内侍がその歌詠みの一人に選ば れ て、歌を 詠んだのを、定頼中納言がふざけて、小式部内 侍 が 部屋に控えている所に向かって、「丹後に いる母の和泉式部に おやりになっ た者は戻って きましたか。どれほど 気がかりにお思いになっ ているでしょう か。」と言葉をかけて、小式部 内侍の 部屋 の前をお通りになったので、小式部 内侍は すだれ から身を半分 ほど 出して、定頼中 納言の 衣服 の袖を引き止めて、 =丹後の国の大江山や生野に行く道のりは遠い ので、私はまだ天の橋立まで 足を運んだこと もありません(母から 手紙 も見ておりませ ん)。 と歌を詠みかけた。 思いがけない 素晴らしい歌に 驚い て、定頼中 っ ん 抄 しょう
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やう 袖を引き放ちて逃げ 小式部これより歌詠みの世に おぼえ 出で来にけ り。これはうちまかせて、理運のことなれども、 かの 卿 きゃう の心には、これほどの歌、 ただいま 詠み出 だす べし とは、知られざりけるにや。 納言は「これはいったいどうしたことだ、小式 部内侍がこのような素晴らしい歌を詠むことが できるのだろうか。いや、できるはずがない 」 と だけ いって、返歌することもできずに、袖を 引き払って、あわてて お 逃げ になっ てった。 小式部内侍はこのことがあってから、歌人の 世界でその 評判 が立つようになった。このこと やは ある。」と られ ばかり けり。 言ひて、 返 歌 かへし うた にも及ばず、
は、一般的に見て(小式部内侍の歌詠みとして の実力から考えて)、当然の運であったけれど も、あの定頼中納言心の中では、これほどの 素晴らしい歌を、 即座に 詠むことが できる とは、 予想外のことだったのであろうか。
7 第一部
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① 今ごろ~しているだろう。 ② どう ① 書物。 ② 手紙。 ③ 漢学。漢詩。 ④ 足を踏み入れる。 ◦文男、手紙と本を読んでカンカンガクガク ふみ
① お思いになる。 ◦大ボスがお思いになる して~ているだろう。 ③ ~ような。 ◦ラムちゃん今ごろ何しているだろう おぼす らむ
① 待ち遠しい。 ② 不安だ。 気掛かりだ。 ③ ぼんやりしてる。はっきりしない。 ◦ 所元金なし 不安だ。 お金届くかはっきりしなくて待ち遠しい ① (よい) 評判。世評。うわさ。 ② 寵愛を受けること)。信任。 ◦オーボエ吹きは評判いい、超ー愛してる こころもとなし あさまし おぼえ ① 驚き呆れる。 ② 興ざめだ。 ③ 話にならない。 ④ ひどい。 ◦朝目覚ましに驚き呆れる
① (人を) おやりになる。派遣なさる。 ② お与えになる。 ③ 行かせる。 ◦つかさはスコスコおやりになる つかはす
※ = 文中での意味 ◆ 重要単語チェック
直衣 (のうし)
御簾 (みす)
局 (つぼね)
天皇や貴人の平服。
簾の尊敬語。
神殿や貴人の御殿に用いる簾。
た固定の部屋)を持つ女官。
宮中で自分の局(屏風や几帳で仕切られ
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『 十 訓 抄 少し後に成立した の歌人としての面目躍如たる場面で、「大江山」歌 は彼女の代表歌として百人一首にも採られている。こ の和歌は修辞法として、 「縁語」「掛 かけ (懸) 詞 ことば 」「体言止め」 ちなみに「縁語」というのは、和歌の中で、ある言 葉と意味上あるいは発音上縁のある言葉を用いて表現 効果を上げることで、例えば「雪」→「消ゆ」などだが、 もいたのだから、豪 ごう 華 か 絢 けん 爛 らん なメンバーだ。 入試で出題され場合は簡単にはわからないレベルの 高いものが多く、一種の連想クイズのようにる。一 方の「 掛 かけ (懸) 詞 ことば 」は、一つの音に二つ以上の意味を もたせる表現法で、例えば「ふる」に「降る」と「経 ふ る」を掛けというように、これもクイズの問題に似 てく。 じっ きん が使われており、瞬時にこんなすごい和歌を詠みかけ られたのであれば、定頼中納言ならずともビックリ仰 天、「まいりました」と言うしかない。 母の和泉式部も天才級の歌人であり、娘の小式部内 侍もその才能を引き継いだということなのだろうが、 この二人が仕えていた 中宮彰子 のもとには、あの 『源
07 ゴロゴプレミアム講義 鎌倉時代中期の説話 で、内容的には 世俗説話と言われるもの。十の儒教徳目での教訓話か ら成っている。 今回取り上げた箇所は、和 いずみ 泉式 しき 部 ぶ の娘、小 こ 式 しき 部 ぶの 内 ない 侍 し 「大江山」の歌の修辞法としては、「橋」が「ふみ」 の縁語。「生野」の「いく」に「行く」が掛けられ、 また「ふみもみず」に「踏みもみず」と「文(=手紙) も見ず」とが掛けられている。句末の「天の橋立」は 体言止め。 しょう 』 は第3講で扱った『宇治拾遺物語』より 氏物語』の紫式部 や、 『 栄 えい 花 が 物 もの 語 がたり 』を書いた 赤 あか 染 ぞめ 衛 え 門 もん
第一部
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古文文法・虎の巻
17 ◦推量の助動詞で代表的なものは む だが、ここでその む を中心に推量の助動詞をまとめて らむは現在推量の助動詞なのだ!
推量の助動詞 みよう! ※終止形接続のべしまじらむはラ変型活用のものには連体形に付くので注意。 う 体 つくしかる べし、静 体 かなる まじ、べ 体 かる らむなど。 いかに心もとなく お サ・四・終 ぼす ら 現在推量 ん 。 どれほど気がかりにお思いになっ ているだろう 。 ラムちゃん今ごろ何しているだろう 過去推量 = 用 + けむ 「~ただろう」 現在推量 = 終 + らむ 「~ている (未来)推量= 未 + む 「~だろう」 未 + む ➡ 打消 未 + じ ➡ 強め ➡ 強め 終 + べし ➡ 打消 終 + まじ 例文① 推 量 打消推量 訳 ゴ
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古文文法・虎の巻
例文① ◦ るらる は尊敬の度合いとしてはかなり低く、
尊敬の る らる 袖を引き放ちて逃げ ら 尊敬「らる」用 れ け 過去 り 。 定頼中納言は、袖を引き払って、あわてて お 逃げ 給ふ 偉い人が主語 ~ る・らる = 尊敬「~なさる・お~になる」 16 ◦助動詞 るらる はP で見たように ①受身 ②尊敬 ③可能 ④自発 このうち最も大切な 18 ④自発
訳 のほうが一般的。 ◦尊敬の度合いは、次のようになる。
に次いで入試に出てくるのは ていった。 主語が偉い人ならるらるは尊敬! ②尊敬 だ。 になっ
るらる ∧ 給ふ ∧ させ給ふ
しめ給ふ
せ給ふ
第一部
、の四つの意味をもつ。
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古文文法・虎の巻
19 ◦ にや 、 にか の下に省略されているものを平仮名三文字で答えよ、という問いが入試では 頻出する。答えは「 あらむ 」だ。 にこそ の場合も大切で、「 あらめ 」が答えになる。 にやの下に省略されているものは?
例文①
「にや・にか」 「にこそ」の形 知られざりけるにや。 。 ※にや、にかのには断定の助動詞なりの連用形で、係助詞やかは疑問。そして下に「あらむ」が 省略されているので、訳としては「~であろうか」となるところも注意。 体言 に や 体言 連体形 + に か (あら む 体 ) 連体形 + に こそ(あら め 已 ) 省略語 ➡ 省略語 ➡ 訳 この場合のには断定の助動詞なりの連用形 予想外のことだったの であろうか
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◆ 品詞分解チェック (前略) 「丹後へつかはしける人は参りたりや。
直 衣 と詠みかけける。 言ひて、返 かへし 歌 うた にも及ば ⑬ ず 、袖を引き放ちて逃げ ⑭ られ けり。 小式部これより歌詠みの世におぼえ ⑮ 出で来 にけり。これはうちまかせて、 きゃう の心には、これほどの歌、ただいま詠み出だす とは、知られ ける ⑩ 思はずに ⑪ やは ⑫ ある 。」とばかり 理運のことなれ ⑯ ども 、かの 卿
① いかに ② 心もとなく おぼす ③ らん 。」と 言ひ入れて、 局 つぼね の前を過ぎけるを、 御 み 簾 す よりなら ④ ばかり ⑤ 出で て、 ⑥ わづかに 、あさましくて、「こはいかに、かかるやう なほ し の袖を控へて 大江山いくのの道 ⑦ の ⑧ 遠けれ ⑨ ば まだふみもみず天 あま の橋 はし 立 だて
⑰ べし
⑱ ざり
に
⑲ や。
第一部
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⑱打消「ず」用 ⑲断定「なり」用
⑰可能「べし」終
⑬打消「ず」用 ⑭尊敬「らる」用 ⑮カ変・用 ⑯接助(逆接確定条件)
⑪係助(反語) ⑫ラ変・体(結び)
⑩ナリ・形動・用
⑧ク・形・已 ⑨接助(確定条件)
⑦格助(主格)
④副助 ⑤ダ・下二・用 ⑥ナリ・形動・用
(「いかに」の結び)
①副詞(疑問) ②ク・形容詞・用 ③現在推量「らん」体
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第一部 8 更 さ 級 し 日 に 心ぐるしがり て、母、物語などもとめて見せ給ふ ゆかしく おぼ ゆるまゝに、「この源氏の物語、一の巻よりして、 みな見せ 給へ 」と、心の内にいのる。親 の 太 うづ 秦 まさ に こもり給へるにも、 こと事なく 、この事を申して、 いでむまゝにこの物語見はて む と思へど、見えず。 いと くちをしく 、思ひなげか るる に、をばなる人 の 田舎よりのぼりたる所に わたい たれば、「いと 私がこんなふうに ふさぎ込ん でばかりいるの を、心も慰め よう と 苦心し て、母が、物語など を探し求めて見せなさるので、なるほど母の配 慮のとおりに 自然と 心が慰められていく。源氏 物語の紫の上にまつわる巻を見て、続きが読み たく 思われるが、人に相談することなども でき ない 。だれもまだ家の者は都に慣れていないこ ろで、物語を 見つけることができない 。とても 気がかりで 、続きが 見たく 思われるので、「この 源氏物語を、第一の巻から終わりまですべて見 せ てください 」と心の中で祈る。親 が 太秦の広 隆寺に籠りなさったときにも、 他のことを祈る こともなく 、このことだけをお祈りして寺から 出たらすぐにこの源氏物語を全部読も う と思う けれど、見ることはできない。ても 残念だ と 自然と 思い嘆か れる ときに、おばにあたる人 で 田舎から京に上っている人所に親が私を 行か ら に、げに おのづから なぐさみゆく。紫のゆかりを 。誰もいまだ都なれぬほどにて、 。いみじく 、 な っ 記 き 作者 菅 すが 原 わらの 孝 たか 標 すえの 女 むすめ 日記 平安時代中期 かくのみ思ひ くんじ 見て、つゞきの見 まほしく おぼゆれど、人かたら ひなども えせず え見つけず 心もとなく
たるを、心もなぐさめ む
と、
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うつくしう 生ひなりにけり」など、あはれがり、 めづらしがりて、かへるに、「なにをか たてまつ らむ 。 まめまめしき 物は まさなかり なむ 。 ゆかし く し給ふ なる ものを たてまつらむ 」とて、源氏の 五十余巻、 櫃 ひつ に入りながら、『ざい中将』、『とを ぎみ』、『せり河』、『しらゝ』、『あさうづ』などい ふ物語ども、一袋とりいれて、えてかへる心地の うれしさぞ いみじき や。 せ たところ、おばが「とても かわいらしく 成人 したことよ」などと、私のことをしみじみとか わいがり、珍しがって、帰りがけに、「何を 差し 上げよう か。 実用的な ものは よくない でしょう 。 見たい とお思いになっている と聞いている もの を 差し上げよう 」といって、源氏物語の五十余 巻を箱に入ったまま全部、そのほか『在中将』、 『とをぎみ』、『せり河』、『しらら』、『あさうづ』 などという幾つかの物語を、一袋に入れて私に くれたのを、貰って帰る気持ちのうれしさといっ たら たいへんなものだっ 。
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◦ユカ知りたい ゆかし
① ひょっとして。 ② 偶然。 たまたま。 ③ 自然と。ひりでに。 ◦ 小野塚らはひょっとして 偶然 自然植物園へ行った? ① 待ち遠しい。 ② 不安だ。 気掛かりだ。 ③ ぼんやりしてる。はっきりしない。 ◦ 所元金なし 不安だ。 お金届くかはっきりしなくて待ち遠しい おのづから こころもとなし
◦所苦しそう、 気の毒だ。気掛かりね こころぐるし
※ = 文中での意味 ◆ 重要単語チェック ② つまらないもの足りない。 ◦口押し戻されて残念だ、もの足りないなあ くんず くちをし ① ふさぎこむ。気がめいる。 ◦クーン、ずっとふさぎこむ ① 残念だ。くやしい。情けない。
① 気の毒だ。 ② 気掛かりだ。心配だ。苦心する
① 見たい。 聞きたい。知りたい。読み
たい。 ② なんとなく慕わしい。
① 程度がはなはだしい。 ② 素晴らしい。 ③ ひどい。大変だ。 ◦いいミジンコ、 はなはだ 素晴らしい、いやひどい いみじ
② 思いがけ 予想外 ◦まさに梨、よくない まさなし
① まじめなさま。 ② 実用的なさま。 まめ(なり) ③ 勤勉なさま。 ◦マメはまじめだ、実用的だ
① かわいい。かわいし ② きれいだ。 ③ 立派だ。みごとだ。 ◦うっ、つくしんぼかわいいぞ うつくし
① よくない。不都合だ。
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孝 標 女 で、入試出典としては常に上位にランクされている。 今回扱った部分は、菅原孝標女の少女時代、上総から
08 ゴロゴプレミアム講義 で、作者は 菅 むすめ 。成立はだいたい1060年前後だが、内容 的には少女時代から夫と死別した晩年にいたるまでの 数十年の回想記になっている。 菅原孝標女は少女時代『源氏物語』などを耽読した 文学少女で、父任国上 かずさ 総から帰京するやいなや、 『源 たか すえの
すが わらの 原 文章が中古のものとして非常にオーソドックスであ り、文法的にも入試で出題しやすい要素を多く含むの どちらも『源氏物語』の影響を受けており、さすが菅 原孝標女、という内容になっている。しかし、すごい 血統だねぇ。
『更 さら 級 しな 日 にっ 記 き 』は平安時代中期の日記 氏物語』を手に入れてむさぼるように読み尽くしと いう経歴の持ち主。しかし成長すにつれ、現実世界 の中で苦悩し、晩年に至るにつれ信仰に生きるように なる。
帰京した頃の回想部分で、『源氏物語』を手に入れた 経緯とその喜びとを描いている。 ここでは「同格の『の』」と「『と』の前の『む』は 意志」と「連用形+『なむ』」を取り上げたが、 いず れも入試では超・頻出 のものばかり。ぜひ古文文法・ 虎の巻でしっかりとマスターしてほしい。 菅原孝標女は、父方の先祖に学問の神様「 菅 すが 原 わらの 道 みち 真 ざね 」、母方の伯母に『 蜻 かげ 蛉 ろう 日 にっ 記 き 』を書いた「 藤 ふじ 原 わらの 道 みち 綱 つなの 母 はは 」をもつという超ーエリートの血筋。それゆえ 『源氏物語』にあこがれるのは当然して、実は彼女 は『更級日記』以外にも、 『 夜 よる の 寝 ね 覚 ざめ 』『 浜 はま 松 まつ 中 ちゅう 納 な 言 ごん 物 もの 語 がたり 』 を書いたとも言われている。この二つの作品は
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古文文法・虎の巻
例文① 「ゆかしくし 給 ハ・四・終 ふ な 伝聞 る ものをたてまつら む 意志 」とて、 「見たいとお思いになっている 」といって、 ※ここのなるは伝聞。四段動詞に付く場合、なりが伝聞・推定か断定かは見た目では区別が付かない。 文脈判断になるので気をつけよう。 いでむまゝにこの物語見はて む 意志 と 寺から出たらすぐにこの源氏物語を全部読も う と 未 + む意志「~しよう」 と ➡ との前のむ(ん)は意志! と覚えよう。 ん との前のむ(ん)は意志! 例文③ 例文② 意志のむ 53 ◦推量の助動詞 む (ん)はP で勉強したが、文中で最もよく出てくるのが意志の む (ん)だ。 さらにこれが入試で問われる場合は むと という形の箇所に集中している。 ものを差し上げ よう 20 訳 訳 訳 心もなぐさめ む 意志 と、 よう と、 心も慰め と聞いている
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古文文法・虎の巻
例文① 過去問正解分析 で 田舎から京に上っている人の所に ※ここでは「人」の二つの条件を同格ののでつないでいる。 条件① をばなる人 条件② 田舎よりのぼりたる人 この二つを同格のでつないでいる。 ① 主格「~が」 ② 連体修飾格「~の」 ③ 同格「~で・であって」 ④ 体言の代用「~のも・~のこと」 ⑤ 比喩「~ように」 古語の「の」は、「が」「で」 と訳すのが大切! 主 格「 〜 が 」 51.9% 23.1% 17.3% 7.7% その他 連体修飾格 「~の」 同格 「~で」 格助詞のの意味 21 整理しておこう。 が上位大学では頻出する。 訳 ◦この中で 人 ③同格 を 条件① ばなる おばにあたる人 の 田 同格 条件② 舎よりのぼりたる 所に
14 ◦格助詞 の の主格の用法についてはP で勉強したが、ここで格助詞 の のすべての用法を
のはがーっと同格であって パート②
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古文文法・虎の巻
連用形+「なむ」 なむ が形容詞に付く場合、補助活用の だろう ◦
なむ 」の識別がある。詳しくはP 連用形+「なむ」はなとむに切れる! 」をマスターしよう。
22 ◦同形品詞識別の代表的なものとして「 て、ここでは 連用形に付く 「 なむ
例文① 連用形に付く。 まめまめしき物は ま 形「まさなし」用 さなかり な 完了「ぬ」未 む 推量「む」終 。 実用的なものはよくない 。 ※︱(し)かりなむという形で覚えておこう。 訳
連用形+「なむ」= な 完了「ぬ」未 + む 推量「む」 ➡
98 で勉強するとし 完了 ぬ はこの場合、強意の意味になり、訳を する必要はない。 推量 む は文脈によって、意志や適当・勧誘や 婉曲などになるので注意が必要。P 参照。
53 ◦ちなみに同じ形容詞の連用形でも次の 場合は「なむ」は係助詞。 形「まさなし」用 係助詞
例文② ま
さな く な む 。 ※形容詞の本活用の連用形の下には助動詞 は付かない。上記との違いに注意。
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◆ 品詞分解チェック かくのみ思ひ くんじ たるを、心もなぐさめ ① む と、 心ぐるしがり て、母、物 語などもとめて見せ給ふに、げにおのづからなぐさみゆく。紫のゆかりを見て、 つゞきの見 ② まほしく ③ おぼゆれ ど、人かたらひなども ④ え せ ⑤ ず 。誰もいまだ都 なれぬほどにて、 え見つけず。いみじく心もとなく、 ゆかしくおぼゆるまゝに、 「この源氏の物、一の巻よりして、みな見せ ⑥ 給へ 」と、心の内にいのる。親 ⑦ の 太 うづ 秦 まさ にこもり給へ ⑧ る にも、 こと事なく、この事を申して、いで ⑨ む まゝにこ の物語見はて ⑩ む と思へど、 ⑪ 見え ず。いと くちをしく、思ひなげか ⑫ るゝ に、を ばなる人 ⑬ の 田舎よりのぼりたる所に ⑭ わたい たれば、「いと うつくしう ⑮ 生ひ ⑯ な り にけり」など、あはれがり、めづらしがりて、かへるに、「なにをか たてま つらむ。 まめまめしき 物は まさなかり ⑰ な ⑱ む 。 ゆかしく ⑲ し 給ふ ⑳ なる ものをた てま 」とて、(後略) ①意志「む」終 ②願望「まほし用 ③ヤ・下二・已 ④副詞(不可能) ⑤打消「ず」終 ⑥ハ・四・命尊敬) ⑦格助(主格) ⑧完了「り」体 ⑨婉曲「む」体 ⑩意志「む」終 ⑪ヤ・下二・未 ⑫自発「る」体 ⑬格助(同格) ⑭サ・四・用(イ音便) ⑮ハ・上二・用 ⑯ラ・四用 ⑰完了(強意)「ぬ」未 ⑱推量「む」終 ⑲サ変・用 ⑳伝聞「なり」体
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第一部 9 枕 まくらの 草 そ う 子 し 作者 清 せい 少 しょう 納 な 言 ごん 随筆 平安時代中期 もの見におそく出でて、ことなりにけり、白き しもとなど見つけたるに、近くやりよするほど、 わ びしう 、下りても 往 い ぬ べき ここちこそすれ。知ら れじと思ふ人のある に 、前 なる 人に教へてものい はせたる。 いつしか と待ち出でたる 稚 ち 児 ご の 、 五 い 十 日 か ・ 百 もも 日 か などのほどになりたる、行く末、いと 心 もとなし 。 なにごとにもあれ、いそぎてものへ行く べき を りに、まづわが さるべき ところへ行くとて、ただ いまおこせ む とて、出でぬる車待つほどこそ、い と 心もとなけれ 。 大 おほ 路 ぢ 行きけるを、「 さななり 」 とよろこびたれば、 外 ほか ざまに往ぬる、いと くちを 祭りの行列見物に遅く出掛けて、既に行列は 始まってしまい、検非違使のつく白い杖などを 見付けたのに、牛車を行列に近付ける間は、 つ らく 、いっそ車から降りて歩いて行き たい 気持 ちがする。見にきいることを気づかれまいと 思う人が目につい ので 、前 に座っている 女房 にわけを言って応対させているのは、どうな ることかと気気でな。 早く早く と待ちかね てやっと生まれてきた赤ん坊 が 、生後、五十日目・ 百日目の祝いのころになると、かえっこの子 供の前途を思う 不安になる 。 何事でもあれ、急用でどこかへ行か なくては ならない ときに、だれかが先に、自分が しかる べき ところへ行かなければならないと言い、す ぐに車をお返しし よう と言って、出ていった車 を待っている間は、大変 気がかりだ 。大通りを 通っていた車を、「 帰ってきたらしい 」と喜ん
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し 。まいて、もの見に出で む とてあるに、「こと 、うちすて ても往ぬべきここちぞする。また、人の歌の返し とく すべきを、 え 詠み得 ぬ ほども 心もとなし 。 懸 け 想 さう 人 などはさしもいそぐ まじけれ ど、 おのづから またさるべきをりもあり、まして、女も、ただに いひかはすことは、ときこそはと思ふほどに あ いなく ひがごと もあるぞ かし 。 でいると、別のほうへ行ってしまうのは、大変 残念あ 。とりわけ、祭りの行列見物に出掛 け よう と思って待つうちに、「行列はもう通っ て いるでしょう 」と、だれか が 言ったのを聞くのは、 つらことだ 。 祭りの行列見物や、お寺 参り などで、一緒に 行く 予定になっている 人を乗せに行った ときに 、 牛車の後の口を建物につけて待つが、 すぐに 乗 ら ないで こちらを待たせるのも、大変 気がかり で 、捨てておいて出発してしまいたい気がする。 また人からの歌の返事は 早く しなければなら ないのを詠むことが できない ときも、 気がか りだ 。相手が 恋人 などである場合は、それほど 急ぐ 必要もないだろう が、 自然と また、急がね ばならぬ場合もありまして、女性同士の場合も、 直接にやりとりする歌の返事では、早いのがい いと思うので、 つまらない 返歌をして 間違い を するこもあるものである よ 。 はなり ぬらむ 」と人 の いひたるを聞くこそ わびし けれ 。 もの見、寺 まうで などに、もろともにある べき 、車をさしよせて、 人を乗せに行きたる に とみに も乗ら で 待たするも、いと 心もとなく
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② 急だ。すぐに ◦トミー君、急だ ① (下に打消表現を伴って) ~すること ができない。 ◦えー、ずっとできないの? ① ~よ。~ね。 ◦貸しだよね、と念を押す え(~ず) ひがごと かし
+ ◦いつ鹿来るの? 早く見たい ① そうなるのが当然である。 ② そうなる ② つまらないもの足りない。 ◦口押し戻されて残念だもの足りないなあ いつしか ( 願望) さるべき くちをし たい・してほしい) 運命にある。③ しかるべき。④ 立派な。 ◦猿ベキッ、鹿ルベキッ! 当然 立派だ ① ひょっとして。 ② 偶然。 たまたま。 ③ 自然と。ひりでに。 ◦ 小野塚らはひょっとして 偶然 自然植物園へ行った? けさう おのづから ① 残念だ。くやしい。情けない。 ① つまらない。 ② 気に食わない。 ③ むやみに。わけもなく。 ◦愛なしではつまらない、 わけもなく ムカつくわ あいなし
※ = 文中での意味 ◆ 重要単語チェック
とみ(なり)
① 急なこと。急ぎ。
① (下に願望表現を伴って) 早 く(~し
① 間違い。あやまり。 ② 道理に外れた行為。悪事。 ◦東に後藤家は間違いだ
① 恋い慕うこと。 ② (「懸想人」で)恋人。 ◦けっそう変えて恋い慕う
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『 枕 草 子 も言う。 一条天皇の 中 ちゅう 宮 ぐう 定 てい 子 し に仕え、紫式部と並び称された 才女であったが、政権が藤原道長︱ 中 ちゅう 宮 ぐう 彰 しょう 子 し に移る は左遷、 隆 たか 家 いえ は流罪)、清少納言も中宮定子没後は不 遇であったと言われている(いつの世も負け組はツラ イね)。 清少納言の随筆『枕草子』の全体構成と詳しい内容 については 『枕草子・徒然草を3日で極める』 (『源氏 物語を3日で極める』購入特典・付属電子ブック) に 女房たち程度。そこで、ざっとでいいので清少納言を めぐる人間関係を把握しておくこが、入試得点力 をアップする最短の道ともいえる。 まくらの そう 清 せい 少 納 言 しょう な ごん 。父は清 きよ 原 はらの 元 もと 輔 すけ なので、清 きよ 原 はらの 元 もと 輔 すけの 女 むすめ と ただ『枕草子』の登場人物というのは、実は数が限 られており、仕えた「中宮定子」を中心に、その夫で ある一条天皇や 上 かん 達 だち 部 め 、 殿 てん 上 じょう 人 びと 、そしてまわりの し 』は平安時代中期に成立した随筆
は につれ、中宮定子側は落 らく 魄 はく していき(定子の兄、伊 これ 周 ちか 譲るとして、今回取り上げた箇所は『枕草子』の典型 的な文章のひとつで、清少納言が自分の価値観で物事
09 ゴロゴプレミアム講義 で、作者
をスパッと論じている箇所。 『枕草子』はよく 「『をかし』の文学」 と呼ばれる。「を かし」というの「知的に興趣がある」ことを言うが、 清少納言は身の回りの出来事や風物について、当時の 女性らしい視点で書き記している。また宮中の見聞記 の段で何人か登場人物がいる場合には、古文特有の「主 語の省略」が起きるので、非常に読みづらく、受験生 泣かせになる。
第一部
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古文文法・虎の巻
当然 30.8% べしは「すいかゴロゴロとめてよ」! ◦推量の助動詞と言われる べし だが、実は細かい意味は7つ以上ある。となるともちろん 入試でも狙われるのだが、まずはその意味をゴロで覚えて整理してみよう! ◦今回の『枕草子』には何個もの べし が出てきているが、意味の判断は文 脈によるしかない。そこで、入試で 問われた べし の正解分析を円グラ フ化したものを見てみよう。 よ =予定 「~することになっている」 て =適当「~するのがよい」 め =命令「~しろ」 と =当然「~べきだ・~はずだ・ ~ねばならない」 か =可能「~できる」 い =意志「~しよう」 す =推量「~だろう・~ちがいない」 可能 18.5% 推量 12.3% べき その他 9.1% 助助詞べしの7つの意味 23 ゴロ ゴロ
過去問正解分析
意志 3.1%
音便 7.7%
べく 7.7%
10.8%
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らむ」と人のひたるを聞く ⑱ こそ ⑲ わびしけれ 。(後略)
◆ 品詞分解チェック もの見におそく出でて、こと ① なり にけり、白きしもとなど見つけたるに、 出でたる稚 ち 児 ご ⑨ の 、 五 い 十日 か ・ 百 もも 日 か などのほどになりたる、行く末、いと心もとなし。 なにごとにもあれ、いそぎてものへ行く ⑩ べき をりに、まづわが さるべき と 近くやりよするほど、 わびしう、下りても ② 往 い ぬ ③ べき ここち ④ こそ ⑤ すれ 。知ら ⑦ じ と思ふ人のあるに、前 ⑧ なる 人に教へてものいはせたる。 いつしか と待ち ⑥受身「る」未 ⑦打消意志「じ」終 ⑧断定「なり」体(存在用法) ①ラ・四・用 ②ナ変・終 ③意志「べし」体 ④係助(強意) ⑤サ変・已(結び) ⑨格助(主格) ⑩当然「べし」体
れ 往ぬる、いと くちをし。まいて、もの見に出で ⑰ む とてあるに、「ことはなりぬ
⑥ ころへ行くとて、ただいまおこせ ⑪ む とて、出で ⑫ ぬる 車待つほど ⑬ こそ 、いと ⑭ 心もとなけれ 。 大 おほ 路 ぢ 行きけるを、「 さ ⑮ な ⑯ なり 」とよろこびたれば、 外 ほか ざまに
⑰意志「む」終 ⑱係助(強意) ⑲シク・形・已(結び)
⑯推定「なり」終
⑮断定「なり」体 (撥音便の無表記)
⑫完了「ぬ」体 ⑬係助(強意) ⑭ク・形・已(結び)
⑪意志「む」終
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第一部 10 源 げ 氏 じ 物 も 紫の上、いたう わづらひ たまひし御心地の 後 のち い と あつしく なりたまひて、 そこはかとなく なや み わたりたまふこと久しくなりぬ。いと おどろお どろしう はあらねど、 年 とし 月 つき かさなれば、頼もしげ なく、いとど あえかに なりまさりたまへるを、院 の おもほしなげくことかぎりなし。ばしにても 後 おく れ きこえたまはむことをばいみじかるべく思 し、みづからの御心地には、この世に 飽 あ かぬ こと なく、 うしろめたき 絆 ほだし だに まじらぬ御身なれば、 あながちに かけとどめまほしき御命ともに思され ぬを、 年ごろ の 御契り かけはなれ、思ひなげかせ たてまつらむことのみぞ、人しれぬ御心の中にも 紫の上は、ひどく 病気をし なさった御重病の とき以来、随分 病気が重く なりなさって、 特に どこが悪いというのではない が、ご 病気の状態 がずっと続いていた。取り立てて、 ぎょうぎょ うしく いうほどの御病状ではないけれども、病 気になってから長い年月になるので、回復の望 みもありそうになく、ますます 弱々しい御様子 に なりなさるので、源氏の君 が お嘆きになるこ とは、このうえもない。しばらくの間でも、紫 の上に 先立たれて取り残され 申し上げなさるよ うなことを、とて堪えがたいこであろうと お思いになり、紫の上御自身のお気持ちとして は、この世に何一つ もの足りない こともなく、 心配で 死出の旅路の足手まといになるような子 供 さえも いないお身の上なので、 無理やりに こ の世に生き続けたいお命ともお思いにならない が、 長年 連れ添った 夫婦の縁 を絶って、後に残 ん の 語 がたり 作者 紫 むらさき 式 しき 部 ぶ 物語 平安時代中期
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