語彙・テーマ

解説 例えば、「初めて自転車に乗ることができたとき」を思い出してみてください(乗れない人は、乗れる人と自分 との違いを考えてみましょう)。乗れるようになる前というのは、右、左とどういうタイミングでペダルを漕げば よいか分からず、車体の後ろを誰かに押さえていてもらわなと、バランスを失って倒れてしまいます。 しかし、ぎこちないながらも順番にペダルを漕げるようになり、気づくと後ろで 支えていた人の手が離れている。 その後は、足の動かし方や手でのバランスの取り方を意識しなくても、鼻歌まじ りで乗りこなせるようになります。

できなかったときには意識されていた身体が、できるようになると意識されなくなる。それとは反対のことが、 例文で筆者が取り上げているリハビリテーショの場面では起こっていると言えるでしょう。体調が良くないとき なども同様です。 身体は「マッチ箱と同じ身分」になる、つまり、身体が物体であるということが意識され、異物 のように立ち現れる のです。 しかし、スプーンすくって食べることもままならなかった赤ちゃんのころを考えると、身体とはもともと異物 であるという方が正しいのかもしれません。 意のままに動かせない身体を意識せずとも動かせるようにするため、 私たちは「型」を覚えます。 箸の使い方も「型」、剣道の構えも「型」です。 「型」を身につけることで、物体とし ての身体は私の身体になるとも言えます。 これほどまでに不思議な立ち現れ方をる身体を、近代の物心二元論の枠組みで捉え ないことは、 もはや明らかでしょう。心と身体は別物ではありません。むしろ、両者の関係こそが問われています。

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