みんゴロ古文読解

出でぬことなく、思ひ恋しきがうちに、この家にて生 まれし女子 の 、もろともに帰らねば、 いかがは 悲しき。 船人も、みなたかりて ののしる 。かかるうちに、 な ほ 悲しきに堪へずして、ひそかに心知れ る 人といへり ける歌、   生 む まれしも帰らぬものをわが宿 やど に 小松のあるを見るが悲しさ とぞいへる。なほ 飽かず やあらむ、またかくなむ。 見し人の松の千年に 見ましかば 遠く悲しき別れ せましや 忘れ難く、 口 くち 惜 を しき こと多かれど、 え 尽くさ ず 。とま れかうまれ、 疾く 破 や り てむ 。

第二部

3

=この家で生まれた娘が土佐で死んで私とともに 帰ってこないのに、留守の我が家に小松が新たに 生えているのを見るのが悲しいことよ と言ったことだ。それでもやはり もの足りない のだ ろうか、またこうも歌を詠んだ。 =いつもそばで見ていた我が子が、松のように千年 も、長く生きているのを私がもし 見ることができ たなら 遠い土佐で悲し死に別れを しただろう か、いやそんなことはなかったろう 。 忘れ難く、 心残りな ことが多いけれども、 とても 書 き尽く せない 。とにもかくにも、 早く この日記を破 り捨て てしまおう 。

ので、「ああ、ひどい」と、人々は言う。当時を思 い出さないことはなく、悲しく恋しく思われる中で、 この家で生まれた女の子 が 、土佐在中に亡くなって 一緒に帰らないので、 どれほど いことか。船で 同行帰京した人々も、皆子供がむらがって 騒いでい る 。こうした騒ぎの中で、 やはり 悲しみに堪えかね て、こっそり気持ちのわかっ ている 人(=妻)と詠 みかわした歌、

103

Made with FlippingBook flipbook maker