みんゴロ古文読解

第二部 3 夜ふけて来れば、所々も見えず。京に入り立ちてう れし。家に至りて、 門 かど に入るに、月 明 あか ければ、いとよ くありさま見ゆ。聞き し よりもまして、 いふかひなく ぞ こぼれ 破 や れたる。家に預けたりつる人の心も、荒れ たる なりけり 。 中 なか 垣 がき こそあれ 、一つ家のやうなれば、 望みて預かれる なり 。 さるは 、便りごとに物も絶えず 得させたり。 今 こよひ 夜、かかることと、 声 こわ 高 だか にものもいは せず。いとは つらく 見ゆれど、志はせむとす。 さて、池めいてくぼまり、水つける所あり。ほとり に松もありき 五 いつとせ 年 六 むとせ 年 のうちに、 千 ちとせ 年 や過ぎ にけむ 、 かたへはなくなりにけり。今 生 お ひたるぞまじれ る 。大 方のみな荒れにたれば、あはれとぞ、人々いふ。思ひ 夜が更けてから京に入って来たので、あちらこ ちらの様子がよく見えない。しかし、京の町中に入っ ていくのでうれしい。我が家に到着して、門から入 ると、月が明るいので、とてもよく家の様子が見え る。噂に聞いてい た 以上に、 何とも言いようがない ほど家は 壊れ 破損してる。私の家に預けておいた 隣人の心も、この家同様に荒廃した のであった 。隣 家との間に隔ての垣は あるけれども 、一つの屋敷の ようなので、隣人が自ら希望して預かった のである 。 そうではあるが 、ついでのあるたびに品物を絶えず 隣人に与えてやっていた。それでも私は今夜、「こ の様子はひどい」と家来たちに大声で言わせない。 実に 薄情だ と思われるけれども、私は隣人に謝礼は するつもりだ。 さて、池のようになってくぼんで、水がたまって いる所がある。そのそばには松もあった。この五年 か六年のうちに千年が過ぎ てしまったのだろう か、 片方の松はなくなってしまった。今新しく生えた松 が混じっ ている 。だいたい皆荒れてしまってい 土 と 佐 さ 日 に っ 記 き 作者 紀 きの 貫 つら 之 ゆき 日記 平安時代前期

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