みんゴロ古文読解
第三部 1 徒 つ 然 づ 草 ぐ 荒れたる宿 の 人目なきに、女の 憚 はばか る 事あるころ ば、 下 げ 衆 す 女 をんな の 出でて、「いづくよりぞ」と言ふに、 。 あやし き 板敷にしばし立ち給へるを、もてしづめたるけ はひ の 若やかなるし、「 こなた 」といふ人あれば、 たてあけ所狭 せ げなる遣 やり 戸 ど よりぞ入り給ひぬる。 内のさまは、いたく すさまじから ず、 心にくく 、 火はあなたにほのかなれど、ものの 綺 き 羅 ら など見え て、 俄 には かにしもあらぬ 匂 にほ ひ、いと なつかしう 住み なしたり。「 門 かど をよく さしてよ 。雨 もぞ 降る。御車 荒れている家 で 世の人と交わるのを 遠慮する て、 所在なく 問 なさろ う として、夕月の ほの暗い 避け て訪ねていらっしゃった ところ 犬が 大袈裟に 怪しんでほえるので、召使の女 が 出て きて、「どちらからおいででございますか」と言う ので、その女に、 そのまま 取り次ぎをさせて、お入 りになった。邸内の心細そうに見える様子は、 どう やって 日々を過ごし ているであろう かと、たいそ う 気の毒思われる 。 粗末な 板敷きのところに、し ばらくお立ちになっていると、落ち着いた雰囲気 で 、 若々しい女房の声で、「 こちらへ 」という人がある ので、開け閉めも取り扱いにくそうな引き戸から中 にお入りになった。 家の中の様子は、外に比べてそんなに 興ざめ とい うのではなく、 奥ゆかしく 、灯火は部屋の向こうの ほうに、ほんりと明るい程度であるが、調度の美 しさなどが見えて、来客のため急にたいたとも思わ れ れ さ 作者 随筆 鎌倉時代末 にて、 つれづれ と 籠 こも りゐたるを、或人、 とぶらひ やがて 案 あ 内 ない せさせて入り給ひぬ。心ぼそげなる有 給は ん とて、 夕 ゆふ 月 づく 夜 よ の おぼつかなき ほどに、 忍 しの び て尋ねおはしたる に 、犬の ことごとしく とがむれ 様、 いかで 過ぐす らん と、いと 心ぐるし
兼 けん 好 こう 法 ほう 師 し 閉じこもっているのを、ある方が、 訪 うちに、 人目を 、その家の飼い
、人の訪れもない所に、ある女が ことのあるころであっ
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