みんゴロ古文読解

は 門 かど の下に、御供の人はそこそこに」と言へば、「今 こ 宵 よひ ぞ 安き 寝 い は 寝 ぬ べかめる 」とうちささめくも、忍 びたれど、ほどなければ、ほの聞こゆ。 さて、このほどの事ども、細やかに え給ふ に、 夜深き鳥も鳴きぬ。来しかた・行く末かけて まめ やかなる 御物語に、このたびは鳥も花やかなる声 にうちしきれば、明けはなるる にや と聞き給へど、 夜深く急ぐ べき 所のさまにもあらねば、少し たゆ み 給へるに、 隙 ひま 白くなれば、忘れ難き事など言ひ て立ち出で給ふ に 、 梢 こずゑ も庭も めづらしく 青みわた りたる 卯 う 月 づき ばかりの 曙 あけぼの 、 艶 えん に をかしかりを 思 おぼ し 出でて、 桂 かつら の木の大きなるが隠るるまで、今も見 送り給ふとぞ。 れぬ香の匂いが、たいそう 心ひかれる様子 で住んで いる。「門をよく 閉めてしまいなさいよ 。雨が降る と困る から。御車は門の下に引き入れて、お供の人 はどこそこに」とだれかが言うと、ほかの人が「今 晩こそ 安心して眠ることができそうです 」と、そっ とささやくのも、忍び声である、手狭な所なで、 かすかに聞こえてくる。 さて、そのある人は近況などを女にいろいろと細 かく お話し申し上げなさる うちに、夜中の一番鶏も 鳴いてしまう。過去・将来にわたって、 まじめな お 話をなさるうちに、今度は鶏も陽気な声で、しきり に鳴くので、すっかり夜が明けてしまったの だろう か と、お聞きになるのであるが、夜の明けきらぬう ちに、急いで立ち去ら なければならない 場所柄でも ないので、少し ゆっくり なさっているうちに、戸の 隙間が明るくなってきたので、女の心に忘れられな いことどをいって、お出掛けになる ときに 、梢も 庭も すばらしく 一面に青々と茂っている 四月 ごろの 明け方の景色が 優美で 趣のあったのをある人が、後 に思い出されて、その辺りを牛車でお通りになると きには、その家の庭の桂の大きな木が見えなくなる まで、今でも、お見送りになるということである。

1 第三部

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