みんゴロ古文読解

この多くゐたる人人、「ただ参り給へ。 やうぞある らん 」と責めければ、「 ずちなき 恐れに候へども、 召しにて候へば」とて参る。この主見やりたれば、 刑部録といふ庁官、びん・ひげに白髪まじりたるが、 とくさの 狩 かり 衣 ぎぬ に青袴着たるがいとこと うるはしく 、 さやさやと鳴りて、扇を 笏 しゃく にとりて、すこしうつ ぶして、うづくまゐたり。 大かた いかにいふべしともおぼえ ず 、物も言は れ ねば、この庁官いよいよ恐れかしこまりてうつ ぶしたり。主、 さて あるべきならねば、「やや、庁 には、ま何ものか 候ふ 」と言へば、「それがし、

かれがし」と言ふ。いとげにげにしくもおぼえず して庁官うろざまへすべりゆく。この主、「かう 宮仕へするこそ 神妙なれ 。見参には必ず入れ んず る ぞ。 とう まかりね 」とこそやりけれ。この六、 後に笑ひけると。 これこれ」と答える。この問では召しだされたわ けが全くわからず、役人は後方へじりじりと下がっ ていく。このあるじは、「こうして宮仕えをするこ とは 感心なことである 。院に見せる名簿には必ずお まえの名前を入れ よう ぞ。 早くひき下がれ 」と言っ て帰らせた。この六いう女は、後にこの話を聞い て笑ったとかいう話だ。

2 第三部

で、ここに大勢座っている人々が、「いいから参上 しなさい。 何かわけがあるに違いない 」と責めたて ると、(録は)「 どうしようもなく 恐れ多いことでご ざいますけれども、お呼びでございますからと言っ

れの音をさせ、扇をまるで笏を取るように持って、 少しうつぶせになってうずくまって座っている。 あるじは思いがけない老人が出てきたので 全く 何 を言っていいのかわから ず 、何も言葉をかけ られ な いので、この役人は、ますます恐縮してうつぶせに なっている。あるじは、 そのまま 黙っているわけに もいかないので、「おい、役所には他にどんな者が お仕えしている のか」と言うと、役人は「だれだれ、

て参上する。この言い出したあるじ本人が客間に目 を向けると、刑部省の録という院庁の役人で、鬢や ひげに白髪の交じっている者で、とくさ色の狩衣に 指貫を着た者が、大変 整った姿で 、さらさらと絹ず

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