みんゴロ古文読解

第三部 2 宇 う 治 じ 拾 しゅう 遺 い 物 も の 語 がたり 作者未詳 世俗説話 鎌倉時代前期 これも今は昔、白河院の御時、北おもての曹司 に、 うるせき 女ありけり。名をば六とぞいひける。 殿 てんじゃうびと 上人 ども、もてなし興じけるに、雨うちそぼ降 りて、つれづれなりける日、ある人、「六よびてつ れづれ慰め ん 」とて使をやりて、「六よびて 来 こ 」と 言ひければ、ほどもなく、「六召して参りて候ふ」 と言ひければ、「 あなたより 内の出居の方へ 具 ぐ し て 来 こ 」と言ひければ、侍出で来て、「こなたへ参り給 ふ」と言へば、「 便なく 候ふ 」など言へば、侍帰り 来て、「召し候へば、『 便なく 候ふ 』と申して、 恐 れ 申し候ふなり」と言へば、つきみて言ふにこそ と思ひて、「 など かくは言ふぞ。ただ 来 こ 」と言へど も、「 ひが事 にてこそ候ふらめ。 さきざき も、内の 御出居などへ参ることも候はぬに」と言ひければ、 これも今はもう昔のこと、白河院の御代に、院の 北面の武士の詰所に働く雑役女の中に、 気の利いた 女がいた。名を六といった。殿上人たちは、その六 をもてはやして面白がっていたが、雨がしとしと 降って、退屈だった日、ある人が、「六を呼んで、 ひまつぶしをし よう 」と言って、使者を送って、 「六 を呼んで 来い 」と言ったところ、間もなく使いの者 が「六を呼んで参りました たので、そのあ る人が「 むこうから 、院御所の母屋の客のほうへ 連れ て 来い 」と言ったので、北面の侍が出ていって、 「こちらへ参上なさい」と言うと、(録は)「それは 私に 不都合なこと でございます 」などと言うので、 侍は戻ってきて、「呼びつけましたところ、『 不都合 なことでございます 』と申しまして、 恐縮し ている のでございます」と言うと、遠慮してそのように言 うのだと思って、「 どうして このように言うの か 。 すぐに 来い 」と言うけれども、(録は)「何かの 間違 い でございましょう。 以前 も母屋の客間のお部屋な どへ参上したこともございませんのに」と言ったの

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