みんゴロ古文読解

名は付けたり、とも申すは、いづれかまことに て侍らむ。その人の日記といふもの侍りしにも、 『 参り けるはじめばかり、 恥づかしう も 心にく く も、また添ひ苦しうもあら むずらむ と、おの おの思へりけるほどに、いと思はずにほけづき、 かたほに て、一 文 もん 字 じ を だに 引かぬさまなりけれ ば、 かく思はず 、と友達ども 思はる 』などこそ 見えて侍れ。君の御有様などをば、いみじく め でたく 思ひきこえながら、 つゆ ばかりもかけか けしく 馴らし顔 に聞え出で ぬ ほども、いみじく。 また皇太后宮の御事を、限りなく めでたく 聞ゆ るにつけても、 愛 あいぎゃう 敬 づき なつかしく さぶらひけ るほどのことも、君の御有様も なつかしく い みじくおはしまししなど聞えあらはしたるも、 心に似ぬ体 てい にて あめる 。」 うか。その人〔=紫式部〕の日記というものがござ いましたのにも、『 上東門院に出仕しまし た初めの ころ、私のことを 立派だと思い 、 奥ゆかしく もあり、 また一緒にいると気詰まりでもある だろう と、仲間 の女房たちがそれぞれ思っていたころに、実際には 全く意外にぼんやりしていて、 世慣れておらず 、 『一』 という文字 さえも 書かない(漢字の知識などない) 様子だったで、 こうだとは思わなかった 、と友人 たちにも 思われた 』などと見えております。主君〔= 藤原道長〕の御様子などを、たいそう 素晴らしいも のだ と思い申し上げながら ほんのわず ばかりも 気を引くように なれなれしげな態度 で話題にし申し 上げることが ない ことも、素晴らしいことですよ。 また上東門院の御事を、この上もなく 立派に お書き 申し上げるにつけても、 敬愛の念をもって心ひかれ る様で親しく お仕えしていた当時ことも、主君〔= 道長様〕の御様子も、 心ひかれる感じで ご立派でい らっしゃった、などと書き表し申しあげているのも、 紫式部の控えめな人柄に似つかわしくないようで あ るらしい 。」

3 第三部

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