みんゴロ古文読解
よみの筋なれば、殿、いみじくもてなさせたま ふ。奈良より、年に一度八重桜を折りて、持 てまゐるを、紫式部、とりつぎて、 まゐらせ な どし、歌よみけるに式部、「今年は、大輔 に譲り さぶらは む」とて、譲りければ、とりつ ぎてまゐらすに殿、「遅し遅し」と仰せらる る御声につきて、 いにしへの奈良の都の八重桜 けふ 九 ここのへ 重 に にほひ ぬるかな 「とりつぎたるほどもなかりつる に 、いつの 間に思ひつづけ けむ 」と、人も思ふ、殿も おぼ しめし たり。 八重桜を折り取って、それを持って参上したが、紫 式部は、それを取り次いで、道長殿に 献上する など して、歌を詠んでいたが、式部が、「今年は、大輔 にその役を譲り ましょ う」と言って、譲ったところ、 大輔が取り次いで献上した時に、道長殿が、「遅い 遅い」とおっしゃったので、そのお声に続けて、 =古都奈良から贈られた八重桜が、今日はこの 宮 中 で 美しく咲き誇っ ていることよ。 「歌を作るよう連絡し、それを献上するまでの時 間もあまりなかった のに 、いつの間に心の思を歌 に詠ん だのだろう 」と、だれも思ったが、道長殿も 同じことを お思いになっ た。
4 第三部
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