みんゴロ古文読解
ろく、かの君の御恥もかくれ、その日の興もこ とのほかにまさりたりけれ。祖父殿もうれしく おぼしたりけり。父おとどは さらなり よその人 だに こそ すずろに 感じたてまつりけれ。かやう に人のためになさけなさけしきころおはしま しける に 、など 御末 すゑ 枯れさせ給ひに けん 。
殿御色真青にならせたまひて、 あれかにもあら ぬ 御 けしき なり。 ありとある 人、「さおもひつ ることよ」と見たまへど、すべきやうもなきに、 御をぢの中関白殿 の おりて、舞台にのぼらせた まへば、「 いひをこづら せたまふべきか。また、 なことだと思っていた」と御覧になっているが、ど うしようもなかった、その時に、伯父君の中関白殿 〔=道隆〕 が お席を降りて、舞台にお上りになるので、 「 なだめすかし なさるのか。それとも、憎さに耐え られず、舞台から追い下ろしなさるだろうか」と、 どちらかと見ておりましたところ、中関白殿はこの 福足君を御腰のあたりに引きつけ なさって 、御 自身 の手で 、とても見事に お舞いになった ことで、楽の
にくさにたへず、追ひおろさせたまふべきか」 とかたがた見はべりしに、この君を御腰のほど にひきつけ させたまひて 、御 手づから いみじう 舞はせたまひたりし こそ、 楽 がく もまさりておもし
6 第三部
音もひときわ勝って趣深く、あの福足君の御恥も目 立たなくなり、その日の遊宴の興趣も格段に盛り上 がったことだった。祖父の兼家殿もうれしくお思い になったことだ。父の道兼大臣は 言うまでもなく 、 他人 でさえ 道隆殿の臨機の御処置に ひたすら 感嘆申 し上げたことだっ。道隆殿はこのように人のため に情け深い思いやりがおありだった のに 、どうして 御子孫 が衰微しておしまいになっ たであろう 。
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