みんゴロ古文読解

「 」 へ する人もなし。 御 おものやどり 膳宿 の 刀 と 自 じ を呼びいでたるに 殿上に兵部の丞といふ 蔵 くらうど 人 呼べ呼べ と、恥もわ すれて 口づから いひたれば、たづねけれど、 まか で にけり。 つらき ことかぎりなし。式部の丞 資 すけなり 業 ぞ参りて、ところどころのさし油ども、ただひと りさし入れ ありく 。 いよいよ むくつけし 宮のさぶらひも、 瀧 たきぐち 口も、 儺 な やらひはてけるままに、 みな まかで てけり。手をたたきののしれど、 いら 。 み づ し どころ の人も、みな出で、

御 厨 子 所 人々、ものおぼえずむかひゐたるもあり。 うへ より御使などあり。いみじうおそろしうこそ 侍り しか 。 納 をさめどの 殿 にある 御 おんぞ 衣 とり出でさせて、この人々 に たまふ 。 朔 ついたち 日 の装束はとらざりければ、 さりげ もなく てあれど、はだか姿はわすられず。おそろ しき のから 、をかしうともいはず。

自を呼び 、「殿上の間に兵部の丞という蔵人 がいるはずだから、それを呼びなさい」と、恥も忘 れて人も介さず 自分で直接に 言ったところ、御膳宿 の刀自は兵部の丞をさがしたけれど、兵部の丞も 退 出し ていた。 薄情な ことといったらこの上もない。 やっと式部の丞資業が参上して、彼一人であちこち の燭台の火を差し入れて 歩き回る 。 女房方の中には、呆然として顔を見合わせている 人もいる。 天皇様 からお見舞いの使者などがある。 たいそう恐ろしいこと でございました 。中宮様は納 殿にある御衣装を取り出させて、この追い剥ぎに 遭った人々に お与えになる 。元日の装束は盗ってい かなかったので、二人とも 何ともないようにし てい るけれど、裸の姿は忘れられい恐ろしいと思 う ものの 、今思い出すと滑稽 思うが、二人に悪 いので滑稽とは言わない。

る 。御厨子所の人も、みな退出して、中宮様付きの 侍も、瀧口の侍も、追儺が終わるとそのまま、みな 退出し ていたのだった。手を叩いて大声で叫んでも、 返事 をする人もない。しかたがないので御膳宿の刀

第三部

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