みんゴロ古文読解
やう 袖を引き放ちて逃げ 小式部これより歌詠みの世に おぼえ 出で来にけ り。これはうちまかせて、理運のことなれども、 かの 卿 きゃう の心には、これほどの歌、 ただいま 詠み出 だす べし とは、知られざりけるにや。 納言は「これはいったいどうしたことだ、小式 部内侍がこのような素晴らしい歌を詠むことが できるのだろうか。いや、できるはずがない 」 と だけ いって、返歌することもできずに、袖を 引き払って、あわてて お 逃げ になっ てった。 小式部内侍はこのことがあってから、歌人の 世界でその 評判 が立つようになった。このこと やは ある。」と られ ばかり けり。 言ひて、 返 歌 かへし うた にも及ばず、
は、一般的に見て(小式部内侍の歌詠みとして の実力から考えて)、当然の運であったけれど も、あの定頼中納言心の中では、これほどの 素晴らしい歌を、 即座に 詠むことが できる とは、 予想外のことだったのであろうか。
7 第一部
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