みんゴロ古文読解

第一部 7 十 じ 訓 き 作者未詳 世俗説話 鎌倉時代中期 和泉式部、保昌が妻にて、丹後へ下りたりける あとに、 歌 うた 合 あはせ どものありけるに、 小 こ 式 しき 部 ぶの 内 ない 侍 し 、歌 詠みにら れ て、歌を詠みけるに、定頼中納言た はぶれて、小式部内侍 の 局 つぼね にありけるに、「丹後へ つかし ける人は参りたりや。いかに 心もとなく おぼすらん 。」と言ひ入れて、 局 つぼね の前を過ぎけるを、 御 み 簾 す よりなから ばかり 出でて、わづかに 直 なほ 衣 し の袖 を控へて   大江山いくのの道の遠ければ まだ ふみ もみず天 あま の橋 はし 立 だて と詠みかけける。 思はずに 、 あさましく て、「こはいかに、かかる 和泉式部が藤原保昌の妻として、丹後の国に 下った後に、京で歌合せがあったとき、娘の小 式部内侍がその歌詠みの一人に選ば れ て、歌を 詠んだのを、定頼中納言がふざけて、小式部内 侍 が 部屋に控えている所に向かって、「丹後に いる母の和泉式部に おやりになっ た者は戻って きましたか。どれほど 気がかりにお思いになっ ているでしょう か。」と言葉をかけて、小式部 内侍の 部屋 の前をお通りになったので、小式部 内侍は すだれ から身を半分 ほど 出して、定頼中 納言の 衣服 の袖を引き止めて、 =丹後の国の大江山や生野に行く道のりは遠い ので、私はまだ天の橋立まで 足を運んだこと もありません(母から 手紙 も見ておりませ ん)。 と歌を詠みかけた。 思いがけない 素晴らしい歌に 驚い て、定頼中 っ ん 抄 しょう

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