みんゴロ古文読解

第二部 1 むかし、 水 み 無 な 瀬 せ に通ひたまひし 惟 これ 喬 たか の 親 み 王 こ 、 例の 狩 しにおはします供に、馬の 頭 かみ なるおきな仕うまつれり。 日ごろ経て、宮にかへりたまうけり。御おくりして と く いなむと思ふに、 大 おほ 御 み 酒 き たまひ 、 禄 ろく たまはむ とて、 つかはさ ざりけり。この馬の頭 かみ 、 心もとながり て、 枕とて草ひきむすぶことも せじ 秋の夜と だに たのま れなくに とよみける。時は 弥 やよひ 生 のつごもり なりけり。親王 おほ とのごもら で 明かしたまうてけり。かくしつつまうで 仕うまつりけるを、思ひのほかに、 御ぐしおろし たま うてけり。 睦 む 月 つき にをがみたてまつらむとて、 小 を 野 の に ま うで たるに、 比 ひ 叡 え の山のふもとなれば、雪いと高し。 昔、水無瀬の離宮に通っていらっしゃった惟喬の 親王が、 いつものように 狩りをしにいらっしゃるお 供として、馬の頭である翁がお仕え申し上げた。数 日滞在して、京の御邸にお戻りになった。翁はお送 りして、 早く 帰ろうと思うが、親王は大御酒を 下さ り 、御褒美を 下さろう として、 お帰しになら なかっ た。この馬の頭は 気掛かりに思っ て、 =旅の枕として草を結ぶことは いたしますまい 。秋 の夜 でさえ 夜の長さを 頼りにする ことはできませ ん。まして今は春なので早く退出させていただ とうございます。 と詠んだ。時は春の 三月の終わり であった。親王は お休みにならないで 夜を明かしなさった。このよう にしつつ、お仕え申し上げていたのに、意外な に親王は 御髪を下ろして出家 なさった。正月に拝謁 し申し上げようして、小野に 参上し たところ、そ こは比叡山の麓なので、雪がたそう深。苦労し 伊 い 勢 せ 物 も の 語 がたり 作者未詳 歌物語 平安時代前期

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