みんゴロ古文出典

出題率 0.6 % 41 位 短編小説 作者未詳 御 お 伽 とぎ 草 ぞう 子 し 室町末期 ~ 江戸前期 ここにまた 時 しぐれ 雨 と申して、 館 やかた より通ひものする女房あり。 秀 ひで 郷 さと のもとに来たりて言ふやうは、 「御ありさまを 見まゐらする に、ただ事ともおぼえず。おぼしめす事あらば、わらはに 仰 おほ せられ候へかし。力に 叶 かな ふ事ならば叶へたてまつるべし。御心おかせ 給 たま ふなよ」と、 ねんごろに 申すなり。 藤太、このよし聞きて、ささやきけるは、「はづかしや、思ひ内にあれば、色 外 ほか に現はるるとは、 かやうの ためし や申すらん。みづからが思ひのたねをば、いかなる事とかおぼすらん。いつぞや 御前へ参りし御 局 つぼね の 簾 れん 中 ちゆう より、見 出 い だされたる 上 じやう 﨟 らう の御立ち姿を、一目見しより、恋の病となり、 生死さだめぬ我が身のふぜい、 誰 たれ かあはれと問ふべきや」と、さめざめと泣きければ、 時雨、このよし聞きて、偽りならぬ思ひの色、あはれ思ひ、「さればこそ、みづからが ここにもう一人時雨と申して、将門の邸から通ってくる女房がいる。秀郷の所にやって来て言うことには、 「 あ な た さ ま の ご 様 子 を 拝 見 し ま す と、尋 常 だ と も 思 わ れ ま せ ん。お 考 え に な る こ と が あ る の な ら、私 に おっしゃってください。可能な限り叶えて差し上げるつもりです。どうぞお心を隔てなさいませんように」と、 心をこめて 申すのである。 藤太は、このことを聞いてささやいたことには、「恥ずかしいことだよ。思いが心の中にあるときまって顔色が表に出るというのは、 このような 例 を申すのではなかろうか私の思いの種をどのようなことだとお思いになっているのだろうか。いつだったか 将門様のもとへ参上したお部屋の簾の中に、自然と目を引いた上臈女房の立ち姿を、一目見たときからすぐに恋の病となり、 生死も知れないほど苦しい私の境遇を、誰が切ないでしょうねと言葉をかけてく るだろうか」と言ってさめざめと泣いたので、 時 雨 は こ の こ と を 聞 い て、 嘘 で は な い 思 い の 表 情 を 哀 れ だ と 思 い、「 や は り そ う で し た か。 自 分 が

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