みんゴロ古文出典

こである晩、夫婦が寝いる部屋に仲間のばくち打ち 忍び込み、ミシミシと天井を踏み鳴らした。そして威圧 的な声で「天下一番の美男子よ」と呼んだ。男が自分こそ天 兼久は席を立って治部卿の家来の所にいき、「治部卿 は全く歌をご存知ないようだ。こんな未熟な人が撰集の 撰者を引き受けいるなんて、あきれたことだ。 公 きん 任 とう 卿

顔 はおもはざりけれ」とこたえた。すると治部卿は、「まあ よく詠んでいるが、『けれ・けり・ける』は必要ではない 言葉だな。それに『花こそ』という文字は、女の子の名前 としてならよさそうな言葉だ褒めてくれなかった。 る」と言ってだまして、息子その娘との結婚を取り決め た。しばらく夜だけ通っていたがいよいよ昼も一緒に住む ことになり、このままでは男の醜い顔がバレてしまう。そ

下一の美男子だと答えると、鬼に扮し仲間が「命と顔 どちらが惜しいか」と問う。男が女の親に相談したところ、 命あってのモノダネだと言うので、「では顔をお取りくだ さい」と答えた。鬼が「では顔を吸うぞ」という声に、男は わざと苦しんだふりをて転げまわった。鬼帰った後、 紙 し 燭 そく の火で男の顔を見てみると、目と鼻を一箇所により集 めたようなブ男にな いた。 舅 しゅうと は男に同情し、財産を存 分に与えて婿を大事にし、男は女と幸せに暮らしたとさ。

1 位 3 2 位 須 夕 八 巻一 磨 1 位 2 位 昔、ばくち打ちの息子がいたが、目と鼻を一箇所に集め たようなブ男だった。両親は、どうしたら人並み以上の人 生を息子に送らせられるか悩んでいた。そのころ、大金持 昔、 治 じ 部 ぶ 卿 きょう 通 みち 俊 とし 卿 きょう が『後拾遺集』をお撰びになったと き、 秦 はたの 兼 かね 久 ひさ が治部卿の家を訪ねて、自分の歌が撰ばれる か様子を伺った。治部卿にどんな歌を詠んだのか聞かれ たので、「 去 こ 年 ぞ 見しに色もかはらず咲きにけり花こそ物 巻九 - - 十 ちの娘が婿に美男子を探していると聞いて、これだとばか りに、「天下一の美男子と評判の男が婿入りを希望してい

の歌で、『春来てぞ人もとひける山里は花こそ宿のある じなりけれ』というのは、秀歌として評判になっている。 この歌でも『人もとひける』『あるじなりけれ』と『ける』 『けれ』を私と同じように連発しているのに、どうして公

任の歌は立派で私の歌は悪いというのか」と言った家 来がこのことを治部卿に話したところ、治部卿は自らの 失敗に気がつき「なるほどなるほど、そうだったな。こ のことは誰にも言うなよ」と言ったそうだとさ。

成立は鎌倉時代前期。ジャンルは説話 (世俗説話)。

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