みんゴロ古文読解

第二部 4 心のどかにくらす日、 はかなき こと、いひいひのは てに、われも人もあしういひなりて、うち 怨 ゑん じて、出 づるになりぬ。端のかたにあゆみいでて幼き人をよ びいでて、「われは 今は 来じとす」などいひおきて、い でにける すなはち 、 這 は ひ入りて おどろおどろしう 泣く。 「こはなぞなぞ」といへど、 いらへ もせで、 論なう 、さ やうにぞあらんと、 おしはからるれ ど、人 の きかむも うたて 物狂ほしければ、とひさして、とかう こしらへ てあるに、五六日ばかりになりぬるに、 音もせず 。 れいならぬ ほどになりぬれば、「あな物狂ほし。 戯 たは ぶ れごとと こそ 、われはおもひ しか 、 はかなき なかなれば、 かくてやむやうもり なむ かし」とおもへば、心ぼそ 心も穏やかに暮らしていたある日、 たわいもない ことを互いに言いあってのあげくに、私も夫ものの しりあって、夫の兼家が嫌味をいって帰ることに なってしまった。夫は縁側の方に歩き出しながら、 幼い道綱を呼び出して、「父さんは、 もう ここには 来ないつもりだよ」などと言い捨てて出て た。 すぐに 道綱は部屋に入てきて、 仰々しく 声をあげ て泣く。「いったいこれはどうしたの、どうしたの」 と私がいっても、道綱は 返事 もしないでいる。 言う までもなく 、夫の残した言葉のせいであろうと 自然 と推測される が、侍女 が 聞くのも ひどく ばかげてい るので、尋ねるのを途中でやめて、あれこれと なだ めすかし ておいたところ、それから五、六日もたつ のに夫からは 何の便りもない 。 いつも以上に 訪れのない日が重なってしまったの で、 「ああ、ばかばかしい。冗談だとばかり私は思っ ていた のに 、 あてにならない 私たちの夫婦仲だから、 蜻 か げ 蛉 ろ う 日 に っ 記 き 作者 藤 ふじ 原 わらの 道 みち 綱 つなの 母 はは 日記 平安時代中期

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