みんゴロ古文読解

第二部 8 この殿 渡ら せたまへれば、思ひかけず あやし と、 、 、帥殿の矢かず、 今ふたつおとりたまひぬ。中ノ関白殿、又御前に 候ふ人々も、「今二度延べ させ給へ 」と申して、延 べ させたまひけるを 、 やすからず おぼしなりて、 「 さ らば 延べ させたまへ 」と仰せられて、又射させた まふとて、仰せらるるやう、「道長 が 家より 帝 みかど ・ 后 きさき 立ちたまふべきものならばこの矢あたれ」と仰 せらるるに、おなじものを 中 なから 心 にはあたる ものか は 。次に帥殿射たまふに、いみじう 臆 おく したまひて、 御手もわななくけ にや 、的のあたりに だに 近くよ 大 お お 鏡 かがみ 帥 中ノ関白 おぼし 驚きて、いみじう 饗 きやうよう 応 し 申させ らふ におはしませど、前に立て 奉りて 、 そちどの 殿 の南の院にて、人々集めて弓 あそばし しに、 たまひて まづ射させ 奉らせたまひけるに 下 臈 げ

帥殿〔=伊周〕が父道隆の邸の南の院で、人々を 集めて弓の競射を なさっ たときに、この殿〔=道 長〕が 来 なさったので、思いがけず 不思議だ と、中 ノ関白殿〔=道隆〕は お思い 驚きなさって、たいそ う手厚くもてなし 申し上げなさって 、当時道長は伊 周より下位の身分でいらしゃるけれど競射の順 で先に立て 申し上げて 、まず道長に射させ 申し上げ なさったところ 、帥殿の当たり矢の数が、道長にあ と二本だけ劣りなさった。中ノ関白殿も、またおそ ばにお仕えする人々も、「もう二回延長し て下さい 」 と申し上げて、延長 なさったので 、道長は 不愉快に お思いになって、「 それならば 延長 なさって下さい 」 とおっしゃって、再び射なさる際に、おっしゃった ことは、「この道長 の 家から帝・后がお立ちになる 作者未詳 歴史物語 平安時代後期

はずものならば、この矢当たれ」とおっしゃって射 なさると、同じ当たるしても的の中心に当たった ではいか 。次に帥殿が射なさるとひどく気おく

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