みんゴロ古文読解

第二部 9 中頃、 なまめき たる女房ありけり。 世の中 たえだえ しかりけるが、みめかたち 愛 あいぎゃう 敬 づき たる 女 むすめ をなん持ち たりける。十七八ばかりなりければ、これをいかにも して、 めやすき さまにせ ん と思ひけるが、 かなしさ の あまりに八幡へ 具 ぐ し て参りつつ、泣く泣く 夜もすが ら 御前にて、「わが身は、今はいかにも候ひなん。この 女を 心やすき さまに 見せさせ給へ 」と、 数 ず 珠 ず をすりて、 うち 歎 なげ きうち歎き申しける に 、この女、参りつくより、 古 こ 今 こ ん 著 ち ょ 聞 も

母のひざを枕にして、起きもあらず寝たりければ、 あかつきがたになりて、母申しけるは、「ばかり思ひ たちて、かなはぬ心に、 かちより 参りつるに、我がや うに、 夜もすがら 、神もあはれと おぼしめす ばかり申 そう遠くはない昔、 優美な様子 夫婦仲 ちの かわいらしい 娘を持っていた。娘は十七、八歳 ほどだったので、この娘を何とかして 子にし よう と思っていたが、ある時、 のあまりに、石清水八幡宮に娘を 連れ 泣き泣き 夜通し 神前にて、「私の身はもうどのよう になっても構いません。この娘を 安心でき 様子に して お見せください 」と、数珠をすり合わせて、歎 きながら申し上げている 時に 、こ娘はお宮に到着 するやいなや、母親の膝を枕にして起きることもな く寝ていたので、明け方になって母親が申すには、 「これほど決心をして、願いは成就しないと思いつ つも 徒歩で 参詣したにつけても、私のように 夜通し 、 神もかわいそうだと お思い る くらいお願い申し 上げるべきな のに 、何も悩むことがなように寝て いらっしゃることの、 情けなさ よ」と心をこめて訴 ん 集 じゅう 作者 橘 たちばなの 成 なり 季 すえ

である女房がいた。 が今にも絶えそうな状態であったが、顔かた 安心できる 様 かわいらしさ て、参詣して、 世俗説話 鎌倉時代中期

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