みんゴロ古文読解

第三部 5 無 む 名 みょう 抄 しょう 作者 鴨 かもの 長 ちょう 明 めい ゑ 曰く、「五条三位入道のみもとに まうで たり 。よそ人はやうやうに定め侍れど、それを 。まさしく しゅん

おぼす 深草の里 これをなむ、身にとりて、 おもて歌 と思ひ 給ふる 』 といはれしを、俊恵また曰く  『世にあまねく人の申し侍るは、 面影に花の姿を先立てて ば用ひ 侍る べからず しかば、 承り 候は む 』と 聞 こえ 夕されば 鶉 うづら 鳴く なり

こゆれば、『 いさ

 『 幾重越え来 き ぬ峯の白雲 これをすぐれたるやうに申し侍るは いかに 』と聞 、よそにはさもや定め侍らむ、知

俊 恵 し ついで に、『 御 ご 詠 えい の中には、 何 いづ れかすぐれたりと 野べの秋風身にしみて

歌論 鎌倉時代初期 俊恵が言うには、「五条三位入道のお宅に 参上し た 機会 に、『お詠みになった歌の中では、どれが優 れていると お思い ですか。他の人たちはさまざまに 評定しておりますが、それを取り入れる わけにはい きません 。御自身の口から確かに お聞きし ましょ う 』 と 申し上げ たところ、三位入道は、  『= 夕方になると 、野辺を吹き渡る秋風が身にし みて感じられる。この草深い深草の里で、鶉もこの 秋風に感じて鳴い ているようだよ 。 この歌を、私にとっては、 代表歌 と思っ ております 』 とおっしゃったので、俊恵がまた言ったのは、  『世間で広く人々が申しておりますのは、

=山の頂にかかった白雲が、まるで咲きほこ桜で あるかのように思わせるので、それを目がけいく つもの峰を次々越えて来たことだ。 この歌を優れているように申しておりますのは、 ど うですか 』と申しあげると、俊成卿は『 さあ 、世間

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