みんゴロ古文読解

第一部 2 大納言の御むすめ、 心にくく、 なべて ならぬさま に、親たち かしづき 給ふ事かぎりなし。この姫君 の の給ふ 事、「人びとの花や蝶やとめづるこそ、 。人はまことあり、本地たづ ねたるこそ、 心ばへ をかしけれ」とて、よろづの 虫 の おそろしげなるをとり集めて、「これが成ら む さまを見む」とて、さまざまなる 寵 こ 箱 ばこ どもに入 れさせ給ふ。中にも、「かはむしの心ふかきさま したるこそ 心にくけれ 」とて、 明 あけ 暮 くれ は耳はさみを して、手のうらにうつぶせて まぼり 給ふ。 若き人びとは、 怖 お ぢまどひければ、 男 を の 童 わらは の 物 蝶を 愛する 姫君 が 住みなさる家のお隣に、按 察使の大納言の姫君が住んでいて、 奥ゆかしく、 普通で はない様子であるので、親たちが 大切に 育て なさることは限りもない。この姫君が おっ しゃる ことに、「世間の人々が、花よ蝶よと愛 するのは何にもならず、 不思議なことです 。人 間には誠実な心があり、物の本質を追求してこ そその人の 心の有様 が趣深いのである」とおっ しゃって、いろいろな虫 で 恐ろしそうなものを 取ってきて集めて、「この虫が成長していく よう な 様子を見よう」といって、様々な箱に姫君は 入れさせなさる。虫たちの中でも、「毛虫が思慮 深そうな様子をているのが 奥ゆかしい 」とおっ しゃって、姫君は明けても暮れても顔にかかる 髪を耳に挟んで、手の平の上に毛虫を乗せて じっ と見つめ ていらっしゃる。 若い女房たちはその様子に、恐れてとり乱し 堤 つつみ 中 ちゅう 納 な 言 ご ん 物 も の 語 がたり 作者未詳 物語 平安時代後期 蝶 てふ めづる 姫君 の 住み給ふかたはらに、 按 あ 察 ぜ 使 ち の はかなく あやしけれ

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