みんゴロ古文読解
第一部 3 宇 う 治 じ 拾 しゅう 遺 い 物 も の 語 がたり これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家 の隣より火いできて、風をしおほひてせめければ、 逃出て大路へいでにけり。人のかかする仏も おは し けり。又 衣 きぬ きぬ妻子なども、 さながら 内に有け り。それもしらず、ただ逃出たるを事にして、 む かひのつら にたて り 。みれば、すでに我家にうつ りて、煙、ほのほをくゆりけるまで、大かた むか ひのつら に立てながめければ、 あさましき ことと て、人どもき とぶらひ けれど、さはがず。「 いか に 」と人いひければ、むかひにたちて、家のやく るをみて、打うなづて、時々笑けり。「 哀 あはれ 、し つるせうとく 哉 かな 。 年 とし 比 ごろ はわろく書ける物かな」と
見ると、火は既に自分の家に燃え移っていて、 煙や炎がくすぶり出すころまで、その間じゅう 道の向かい側 に立って眺めていたので、「これは 驚き呆れる ことになった」といって人々が 見舞 いに来 たけれども、良秀は少しも騒がない。「 ど うしました 」と人々が言ったところ、良秀は道 の向かい側に立って、家が焼けるのを見てうな ずき、時々笑っていた。「 ああ 、たいへんなもう けものをしたことよ。 長年 まずい絵を書いてい
作者未詳 世俗説話 鎌倉時代前期 これも今はもう昔のこと、絵仏師の良秀とい う者がいた。隣の家から火事が起こり、風がそ の火を追って火が迫ってきたので、逃げ出して 表の大通りへ出 人が注文して描かせた仏も 家の中に いらっしゃっ た。また衣服も着ていな い妻や子供たちも、 そのまま 家の中にいた。良 秀はそのことは知らず自分だけ逃げ出したのを よいことにして、 道の向かい側 に立ってい た 。
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