みんゴロ古文読解

第一部 10 源 げ 氏 じ 物 も 紫の上、いたう わづらひ たまひし御心地の 後 のち い と あつしく なりたまひて、 そこはかとなく なや み わたりたまふこと久しくなりぬ。いと おどろお どろしう はあらねど、 年 とし 月 つき かさなれば、頼もしげ なく、いとど あえかに なりまさりたまへるを、院 の おもほしなげくことかぎりなし。ばしにても 後 おく れ きこえたまはむことをばいみじかるべく思 し、みづからの御心地には、この世に 飽 あ かぬ こと なく、 うしろめたき 絆 ほだし だに まじらぬ御身なれば、 あながちに かけとどめまほしき御命ともに思され ぬを、 年ごろ の 御契り かけはなれ、思ひなげかせ たてまつらむことのみぞ、人しれぬ御心の中にも 紫の上は、ひどく 病気をし なさった御重病の とき以来、随分 病気が重く なりなさって、 特に どこが悪いというのではない が、ご 病気の状態 がずっと続いていた。取り立てて、 ぎょうぎょ うしく いうほどの御病状ではないけれども、病 気になってから長い年月になるので、回復の望 みもありそうになく、ますます 弱々しい御様子 に なりなさるので、源氏の君 が お嘆きになるこ とは、このうえもない。しばらくの間でも、紫 の上に 先立たれて取り残され 申し上げなさるよ うなことを、とて堪えがたいこであろうと お思いになり、紫の上御自身のお気持ちとして は、この世に何一つ もの足りない こともなく、 心配で 死出の旅路の足手まといになるような子 供 さえも いないお身の上なので、 無理やりに こ の世に生き続けたいお命ともお思いにならない が、 長年 連れ添った 夫婦の縁 を絶って、後に残 ん の 語 がたり 作者 紫 むらさき 式 しき 部 ぶ 物語 平安時代中期

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