みんゴロ古文読解
第二部 2 昔、奈良の帝に仕うまつる 采 うね 女 べ ありけり。顔 かたち いみじう 清らに て、人々 よばひ 、 殿 てんじゃうびと 上人 なども よばひ けれど、 あは ざりけり。そのあはぬ心は、帝を限りな く めでたき ものになむ思ひたてまつりける。帝召して けり。さて、のち、またも召さざりければ、限なく 心 憂し と思ひけり。夜昼、心にかかりておぼえたまひつつ、 恋しう、 わびしう おぼえたまひけり。帝は召ししかど、 ことともおぼさず。 さすがに 、常は 見えたてまつる 。 なほ 世に 経 ふ まじき 心地しければ、夜、 みそかに 出でて、 猿沢の池に身を投げてけり。かく投げつとも、帝は え 知ろしめさざりける を、ことの ついで ありて、人 の 奏 し ければ、聞こしめしてけり。いといたうあはれがり 昔、奈良の帝にお仕えしている采女がいた。 容貌 がたいそう 美しく て多くの人々が 求婚し 、殿上人な ども 求婚し たけれど、 結婚し なかった。その結婚し ない本心は、帝をこの上なく 素晴らしい 方としてお 慕い申し上げてたからである。ある時帝その采 女をお召しになった。しかし、その後は二度とはお 召しにならかったので、采女はこの上なく つら い と思っていた。夜も昼も帝のことが気にかかっ て、お慕い申し上げては、恋しく つらく 思い申し上 げているのであった。帝はお召しになったのだけれ ど、采女のことを特にどうともお思いになっていな い。 そうはいうものの 、いつも采女は帝に お目にか かっている 。 やはりこれ以上生きていけそう い 気持ちがしたので、采女はある夜 ひそかに 出て行っ て、猿沢の池に身を投げてしまった。采女はこのよ うに身を投げてしまったとも帝は 御存知にはなれ なかった が、ある 機会 があっ、ある人 が帝に申し 大 や ま と 和 物 も の 語 がたり 作者未詳 歌物語 平安時代中期
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