みんゴロ古文出典

易   難 入試 出題箇所を チェック ! 文章の難易度は低く、 中堅大学の出題が多 い。近世特有の語が問 われる。 今の都も 憂き世 と見なし、賀茂山に隠れし 丈 じやう 山 ざん 坊 ぼう は、俗姓歴々のむかしを忘れ、 詩歌に気を移し、その徳 顕 あらは るる道者なり。さるによつて、心にかなふ友もなし。 ある時、小栗何がしといへる人、これもへつらふ世を見限り、 かたちを替へ て、京都にのぼり、 東武にてしたしく語りし ゆかしさ に、この草庵にたづねて、すぎにしことども、今の 境 きやう 界 がい の 気散じなる身の程心にかかる山の端もなく、梢は落ち葉して、冬景色の 顕 あらは なる、 月を南おもての竹縁に つい居 、 眺 なが めながら語りしが、この客何となく、ふと立ちて、 「我は備前の岡山に行く事あり」といふ。「今宵は是に」と 留 と めもせず、勝手次第と別れさまに、 「また、いつ頃か京帰り」と聞けば、「命あらば、霜月の末に」といふ。「然らば、二十七日は 我がこころざしの日なれば、ここにて 一 いつ 飯 ぱん 必ず」と約束して立ち行きぬ。 井 い 原 はら 西 さい 鶴 かく 『武家義理物語』 東北大学 今の都も定めない はかない世の中 と見なし、賀茂山にこもった丈山坊は、俗世では格式ある武士であった昔のことを忘れ、 詩歌に夢中になり、その徳がよく現れている僧である。そういうことなので、ぴったり気の合う友人もいなかった。 ある時、小栗某という人、この人も他人の機嫌をとるような世を見捨て、 出家をし僧形となっ て京都に上り、 江 戸 で 親 し く 語 っ た 懐 か し さ か ら 丈 山 の 草 庵 を 訪 ね て、 昔 の こ と、 今 の 境 遇 の のんきな身の上について、気にかかることもなく、木々の梢も葉が落ちた冬景色をあらわに照らす 月 を、南 側 の 竹 縁 に 腰 を 下 ろ し 眺 め な が ら 語 っ た が、こ の 客、小 栗 某 が、何 気 な く ふ と 立 ち 上 が り、 「私は備前の岡山に行く用があります」と言う。「今宵はここにお泊まりなさい」と引きとめもせず、「あなたのお好きなように」と言い、別れ際に 「またいつごろ京にお帰りですか」と聞くと、「生きていたら十一月の末に」と言う。「それならば二十七日は、 先祖の法要を営む日なので、その日きっとこちらで食事をご一緒に」と約束して出発した。 DATA FI LE

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