みんゴロ古文出典

読解ポイント 清少納言が仕えた中宮定子は藤原道隆の娘で、兄弟には伊周、 隆家がいた、政治的争いをした藤原道長に結局敗れてしま う。しかし『枕草子』にはそのような話は一切出さず、中宮定子 や伊周たちを褒め称える内容に徹している。 ★ 係り結び「 こそ → ね 」の「ね」は打消の助動詞「ず」の 已然形。「こそ」の結びは已然形だが、見た目が命令形 に見えるものが多いので注意したい。

あはれにも、いみじくも、 めでたく もあることども、残らず書きしるしたる中に、宮の めでたく盛りに時めかせたまひしことばかりを、身の毛も立つばかり書き出でて、 関白殿 失せ たまひ、内の大臣流されたまひなどせしほどのおとろへをば、 かけても言ひ出でぬほどのいみじき心ばせなりけむ人の はかばかしき よすが なども なかりけるにや、 乳 めのと 母 の子なりけるものに 具し て、はるかなる田舎にまかりて住みけるに、 青菜といふもの乾しに外に出ずとて、昔の 直 なほし 衣 姿 こ ※ そ 忘られ ね ※ と、 独りごち けるを 見はべりければ、 あやし の衣着て、つづりといふもの帽子にしてはべりけるこそ、 いとあれなれ。まことに、いかに昔恋しかりけむ。 し み じ み と 感 慨 深 く 感 銘 を 受 け、 す ば ら し く も あ る こ と ご と を、残 ら ず 書 き 記 し た 中 に、皇 后 宮 が 素晴らしくご寵愛を受けていらっしゃったことだけを、読んだ人の身の毛も立つほど真に迫って描き出して、 皇后宮の父の関白殿がお 亡くなり になり、兄の内大臣伊周が大宰権帥として流罪に処せられなさったりした頃の中関白家の没落のさまを、 全く口に出すことがなかったほどの行き届いた心遣いをした人が、皇后宮の亡き後は しっかりした 縁者 も な か っ た の だ ろ う か、 乳 母 の 子 で あ っ た 者 に 連 れ ら れ て、 遠 い 田 舎 に 下 っ て 住 ん で い ま し た が、 青菜というものを乾かしに家の外に出ようとして、「昔見た、宮中の貴人たちの直衣姿ばかりは、忘れないことだ」と 独り言を言っ たのを ある人が見ましたところ、 粗末 な着物を着て、つづりという継ぎはぎの布を帽子にしていたと言いますのは、 たそうかわいそうなことだ。ほんとうに、清少納言はどんなにか昔が恋しかったことだろう。

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