みんゴロ古文出典

読解ポイント 『新古今和歌集』撰定に至るまでの挿話の一つ。優れた歌 人でもあった後鳥羽院に仕えた女流歌人宮内卿の君に対す る筆者の好意が読み取れる。千五百番の歌合せは後鳥羽院 の行った有名な歌合せで、三十人の歌人にそれぞれ百首和 歌を詠ませ、それを左右に分けて千五百番とした。その中 」の和歌中の「薄く」は連用形による中止法で、 「濃き」と並列され、「薄き濃き野辺の緑の若草」いう 文脈。作者はこの歌で「若草宮内卿」呼ばれた。 ★ 見ゆめればなん 「 あたらしくなん 」の「なん」は二つとも 係助詞。ここでは結びが省略されている。 薄 に宮内卿の君が入ることはとても名誉なことだった。 ★「 薄く濃き

限りなき 好き のほど、あはれにぞ見えける。 さてその御百首の歌、いづれもとりどりなる中に、 ※ く濃き 野辺の緑の 若草に 跡まで見ゆる 雪のむら消え 草の緑の濃き薄き色にて、 去 こぞ 年 の 古 ふる 雪 ゆき 遅く 疾 と く 消えける程を、推し量りたる 心ばへ など、 まだしから ん人は、いと思ひよりがたくや。この人、年つもるまであらましかば、 げに いかばかり目に見えぬ 鬼 おに 神 がみ をも動かしなましに、若くて 失せ にし、 いと いとほしく あ ※ たらしく なん 。 彼女のこの上もない 歌道への熱心さ の程度も身にしみて感じられ、すばらしいものだと思われた。 さてそのお詠みになった御百首の歌は、どの歌も情趣の深い歌であったその中に、 ○あるいは薄く、あるいは濃く萌え出ている野辺の若草によって、野の雪がまだらに消えていった遅速の跡までがはっきりと見えることよ。 草の緑の濃い色薄い色によって去年降った古い雪が遅く消えあるいは 早く 消えた様子を推察している 趣向 などは、 未 熟 な 歌 人 に は 到 底 思 い つ け な い も の だ ろ う。 こ の 宮 内 卿 の 君 が 高 齢 ま で も し 生 き て い た ら、 本当に どのようにか目に見えない鬼神まで感動させたことであろうに、若くて この世を去っ たのは、 たいそう 気の毒なことであり また 惜しいことであり ました。

21 30 「 」 第 位 ~ 第 位

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