みんゴロ古文出典

易   難 入試 出題箇所を チェック ! 難易度が高く受験生泣 かせ。扱われている時 代と人物関係を把握し ておきたい 中 なか 頃 ごろ 男ありけり。女を思ひて、時々通ひけるに、男、ある所にて、 燈 ともしび 火 の 炎 ほのほ の上に かの女の見えければ、「これ 忌 い むなるものを。火の燃ゆるところをかき落してこそ、 その人に飲ますなれ」とて、紙に包みて持たりけるほどに、 事 こと 繁 しげ くして、まぎるること ありければ、忘れて、一日二日過ぎて、思ひ出でけるままに、行けりければ、 「悩みて程なく女 隠れ ぬ」といひければ、「 いつしか 行きて、かの燈火の かき落したりし物を 見 ※ せで 」と、わが 過 あやま ちに悲しくおぼえて、常なき鬼に 一口に食はれけむ心憂さ、足ずりもしつべく、嘆き泣きけるほどに、 「御覧ぜさせよとにや、この御文を見つけ侍る」とて、取り出だしたるを見れば、 鳥 とり 辺 べ 山 やま 谷に煙の 見えたらば はかなく消えし われと知らなむ ※ 『 今 いま 鏡 かがみ 』 筑波大学 それほど遠くない昔に、ある男がいた。ある女を愛していて、時々通っていたが、その男が、ある所で、灯火の炎の上に、 その女の姿が映って見えたので、「こんなふうに見えるのは不吉なことだという。こういうときは火の燃えている芯をかき落として、 それをその女に飲ませるのがよいということだ」と言って、紙に包んで持っていたところ、用事が多くて、それに紛れていることが あ っ た の で、 女 の と こ ろ へ 行 く の を 忘 れ て 一 日、 二 日 経 っ て か ら、 思 い 出 し て 行 っ た と こ ろ、 女の家の者が「病気になって間もなく女は 亡くなっ た」と言ったので、男は「 はやく 女のもとに行って、あの灯火の芯の かき落としたものを飲ませてやらないで、(女を死なせて残念だ)」と自分の過ちが悲しく思われて、無常死という鬼に 一口で食われてしまったという男の悲しさと同じように、足摺をしてしまいそうに嘆き泣いているところに、 「あなたに『ご覧にいれなさい』ということでしょうか、このお手紙を見つけました」と言って、家の者が取り出したものを見ると、 ○火葬場の鳥辺山の谷間に煙が立ち昇っていたならば、それはあっけなく死んでしまった私の亡骸を焼く煙だと思ってほしい。 DATA FI LE

と書いてあった。歌までもが灯火の煙のようにはかない風情と思われて、ひどく悲しく思ったのも、 もっともなことで ある。

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