みんゴロ古文出典

読解ポイント 『うたたね』は阿仏尼の若き日の失恋と放浪の回想記。失恋 心は再び動揺する。愛宕の仮住居に到着すると、いかにも 粗末な住居の有様で、うたたね(仮寝)の夢を結ぶこともで きないのであった。 だに 」は類推の用法。「~さえ」と訳す。「よ 御 前 な ど も の も の し 見 え る の を

泣く泣く門を引き出づる折しも、先に立ちたる車あり。 前 さき 華やかに追ひて、 御前など ことごとしく 見ゆるを、誰ばかりにかと目留めたりければ、 かの人知れず恨み聞こゆる人なりけり。顔 しるき 随 ずいじん 身 など、 紛 まが ふべうもあらねば、かくとは 思し寄らざらめど、 そぞろに 車の中恥づかしく はしたなき 心地しながら、 今一度それとばかりも見送り聞こゆるは、いと 嬉 うれ しくもあはれにも、さまざま 胸静かならず。遂にこなたかなたへ行き別れ給ふほど、いといたうかへりみがちに心細し。 泣く泣く門から牛車に乗って出たちょうどその時、前に立っている車がある。 前駆(=馬に乗って先導する者) が華やかに前を追い、 く 、 誰 だ ろ う と 注 目 し た と こ ろ 、 あの人知れず恨み申し上げた人であった。顔の はっきりとわかる 随身など、見間違うはずもないので、あの方は、私がここにいるとは お気づきにならないだろうが、車の中にいる自分のほうが なんとなく きまりが悪く、 居心地の悪い 気分にはなるものの、 今一度あの方と知ってお見送り申し上げるのは、たいそううれしくもあり、感慨深くもあって、さまざまな思いで 胸中は静かではない。ついにこちらとあちらへ行き別れなさった時は、たいそうひどくふり返りふり返りしてしまって心細い。

の痛手から出家をした阿仏尼は北山の尼寺に住んでいた が、恋人への未練を断ち切れないでいた。病気になってつ てを頼って愛宕近くの仮の宿所に移ることにするが、車が 門を出た折しも、恋人の華やかな行列に出くわし、作者の

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★和歌の中の「 も~じ」は「決して ( まさか ) ~まい」と訳す。

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