みんゴロ古文出典
読解ポイント 巻4の冒頭部分で、作者は宮中での恋愛沙汰から離れてすで に出家している。作者は住み慣れた都を離れて墨染の衣を身
やうやう日数経るほどに、美濃の国、赤坂の宿といふ所に着きぬ。 慣らは ぬ旅の日数も さすがに重なれば、苦しくも わびしけれ ば、これに今日はとどまりぬるに、宿の主に 若き遊女姉妹あり。琴、琵琶な弾きて、情けあるさまなれば、昔 思 ※ ひ出でらるる 心地して、 九 く 献 こん など取らせて遊ばするに、二人ある遊女の姉とおぼしきが、 次第に日数が経つうちに、美濃の国赤坂の宿というところに着いた。覚悟はしていたが、 慣れ ない旅の日数も や は り 重 な る と、 苦 し く つ ら く も あ る の で、 こ の 宿 に 今 日 は 宿 泊 し た と こ ろ、 宿 の 主 人 で 若い遊女の姉妹がいる。琴や琵琶などを弾いて、風情のある様子なで、宮中で琵琶を弾いたりした昔のことがつい思い出されるような 気 が し て、 九 献 の 酒 な ど を 与 え て 演 奏 さ せ る と 二 人 い る 遊 女 で 姉 と 思 わ れ る 女 が、 ひどく思い沈んでいる様子で、琵琶の撥で紛らわ ているが、涙を落としがちであるのも、私の境遇と同じように思われて 注目したところ、この者のほうでもまた私の墨染めの衣の色にはふさわしくない袖の涙の色を 不思議に 思ったのであろうか、 盃を乗せていた小さい角盆に書いて、歌を差し出したが、その歌は、 ○出家を思い立って修行の旅にお出になったあなたのお心はどういうご事情からだろうと、富士の煙の末ではありませんが、本末の詳しいわけを うかがいたい と存じます。 いみじく物思ふまにて、琵琶の 撰 ばち にてまぎらかせども涙がちなるも、身のたぐひにおぼえて 目とどまるに、これもまた墨染めの色にはあらぬ袖の涙を あやしく 思ひけるにや、 盃 据 す ゑたる 小 こ 折 を 敷 しき に書きて、差しおこせたる、 思ひ立つ 心は何の 色ぞとも 富士の煙の 末ぞ ゆかしき 」「らるる」は、自発の「らる」の連
31 40 第 位 ~ 第 位
★「
にまとって逢坂の関を越え、東海道を下って鎌倉へ向かう。 思ひ出でらるる
体形。心情語に付く「る・らる」は自発になる。
189
Made with FlippingBook - Online catalogs