みんゴロ古文出典

「 」 伊勢は平安前期の代表的な女流歌人で、三十六歌仙の一人。 宇多帝に愛され、「伊勢の御 ご 」と称された。問題文は暮らし に困った伊勢が太 うず 秦 まさ の広隆寺に籠って心をこめて仏に歌を 詠むと、その歌の素晴らしさに仏が感動し、夢の中でお告 げがある。伊勢はお告げ通りに行動することで幸せを手に 入れるという話。 ★ 「 南無薬師 」の和歌の「わづらふ」は「煩ふ」と「患ふ」 の掛詞。 また、 薬 「わづらふ」 「やまひ」が縁語になっ ている。 読解ポイント

ゆゆしげなる 人の通り侍りけるが、何とか思ひ侍りけむ、此堂に入り侍れば、伊勢 すべきかたなくて、うしろの方へ行き侍るに、此中のあるじとおぼしき僧の追ひ来て、 「か様の事、申すについて 憚 はばか り侍れども、仏の御つげ侍りて申すなん。我住むかたざまをも 御覧ぜられ侍れかし」と、 念 ねんごろ 比 に 聞こえ侍れば、是をたがへん事、仏のおぼしめさむも おそろしくおぼえ侍るままに、なびきにけり。殊に悦びて、輿にのせて、男山に 具しいたり 侍りぬ。八幡宮の 検 けんげう 校 にてぞ侍りける。 いつき かしづく 事かぎりなく、 子どもあまた儲けてければ、わく方なく わりなき物 に思ひてぞ侍りける。 立派そうな 方がお通りになったのだが、何と思ったのでしょうか、このお堂に入りますので、伊勢は どうしようもなくて、堂の奥のほうに行きますと、この一行の中の主人と思われる僧があとを追って来て、 「このようなことを申し上げるのは、はばかられるのですが、仏のお告げがございまして、申し上げるのです。私の住んでいる所を ご覧になってくださいませ」と、 親切に 申し上げますので、この申し出にそむくことは仏のお告げにそむくようなことになるので 恐 ろ し く 思 わ れ ま す の で、 僧 の 言 う ま ま に 従 っ た。 僧 は 格 別 に 喜 ん で、 伊 勢 を 輿 に の せ て 男 山 に 連れて行き ました。その僧は八幡宮の検校でございました。伊勢を 並々でなく 大切に扱う ことこの上なく、 子もたくさん生まれたので、ほんとうにきわめて すぐれた 仏のお告げ であると うのでした。

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