みんゴロ古文出典
出題率 0.6 % 424 位 世俗説話 藤 ふじ 原 わらの 信 のぶ 実 ざね 編 今 いま 物 もの 語 がたり 鎌倉前期 大納言なりける人、日ごろ心をつくさ れ ※ ける女房のもとにおはして、 物語りなど ※ れ けるが、世に思ふやうならで、明けゆく空もなほ 心もとなかり ければ、 あからさま のやうにて立ちいでて、随身に心をあはせて、「いましばしありて、 『まことや、 今 こよひ 夜 は 内 う 裏 ち の番にて候ふものを、もしおぼしめし忘れてや』と おとなへ 」 と教へてうちへ入りぬ。 そのままにしばしありて、 こちなげに 随身いさめ申しければ、「さることあり。今夜は、 げに 心遅れ しにけり」とて、とりあへず急ぎいでむとせられける けしき を見て、 この女房心得て、 やがて いとうらめしげなるに、 をりふし 雨のはらはらと降りたりければ、 ふれや雨 雲 ※ のかよひぢ 見えぬまで 心そらなる 人やとまると ん と い う こ と も な 大納言であった方が、数日来心から愛しくお思いになっていた女房のもとにいらっしゃって、 世間話など し なさったところ、男女の仲というのは思うようにはいかないもので、そのまま明けてゆく空もやはり じれったかっ たので、 ほんのちょっと 用があるかのように女房の部屋を立ち出て、随身に口裏を合わせて、「もうちょっとしたら、 『そうそう、今夜は 宮中 の宿直の番でございましたのに、もしやお忘れになられたのでは』と 声をかけなさい 」 と教えて再び部屋の中へ入った。 そ の ま ま し ば ら く し て、 無 骨 に 随 身 が 忠 告 申 し 上 げ た と こ ろ、「 そ う で し た。 今 夜 は ほ ん と う に う っ か り し て い ま し た 」 と 言 っ て、 と り あ え ず 急 い で 出 て い こ う と な さ っ た 様 子 を 見 て、 この女房は事の次第を理解して、 すぐに 男が出ていくのをたいそう恨めしそうにしていると、 ちょうど 雨がはらはらと降ってきたので、 ○降れ降、雨よ。雲が行き来する道が見えないほどに。そうしたら心ここにあらずの人も行くのをあきらめて泊まってくれるかもしれないと思って。 せ ら な
上 く、 その夜は泊まったのであった。その後々までも絶えることなく訪ねていらっしゃったのは、たいそう 優美な ことであるよ。 品 な さ ま で、 わ ざ と ら し く な く 、ち ょ っ と 口 ず さ ん だ と こ ろ、こ の 大 納 言 は
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